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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

EUはGM作物環境放出指令を改正~加盟各国に栽培可・否の自由

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2014年6月16日

 2014年6月12日、ルクセンブルグで開催されたEU環境閣僚理事会は、EUが栽培承認したGM(遺伝子組換え)作物の栽培を各加盟国が許可、制限もしくは禁止できるように指令(directive)2001/18/EC(GMOsの環境中への放出に関する指令)を改正することで合意した。この法改正の目的は、加盟国にオプションを与えることにより、EUとしてのGM作物栽培承認プロセスを促進させることにある。EUにおけるGM作物栽培承認作業は、ほぼ特定の加盟国グループによる反対から長らく機能停止に陥ってきたからだ。

<個別品目の栽培承認状況と新規承認作業の停滞>

 現状、域内栽培が可能なのは1998年に承認(2009年6月に期限切れ再承認)されたMonsanto社のチョウ目害虫抵抗性GMトウモロコシMON810系統のみに留まる。2010年3月2日に欧州委員会が栽培承認したBASF社の工業用デンプン産生GMジャガイモ「Amflora」は、2013年12月13日、欧州裁判所の裁定により承認が取り消された

 最近では、(DuPont-)Pioneer社とDow AgroScienc社が2001年から栽培承認申請しているチョウ目害虫抵抗性GMトウモロコシTC 1507の承認手続きが難航した。本件に係わる2014年2月11日の欧州理事会(European Council)による特定多数決投票では、5カ国(エストニア、フィンランド、スペイン、スウェーデン、英国)の賛成に対し19カ国が反対、4カ国(ベルギー、チェコ共和国、ドイツ、ポルトガル)が棄権し、賛否とも規定数(加重投票の2/3)に達しなかった。

 この場合、栽培承認起案者の欧州委員会(European Commission)に差し戻され、デフォルト承認されるというのが従来の流れだ。ところが、2月12日に反対に回った19カ国中12カ国(オーストリア、ブルガリア、キプロス、フランス、ハンガリー、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ポーランド、スロベニア、マルタ)が、欧州委員会に対し栽培承認提案を撤回するよう要求する書簡を出状し、作業は停止してしまう。

<凍結状態を打破するための指令2001/18/EC改正の動き>

 GM作物栽培承認作業を遅延・停滞させている主因は、自国内でのGM栽培に抵抗する8カ国(オーストリア、ブルガリア、ギリシャ、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、ルクセンブルグ、ポーランド)の動きだ。指令2001/18/ECは、域内統一市場原理に基づき加盟国政府に対しEUが(デフォルト)承認したGM作物の栽培を可能とするよう国内法の整備を要求する。

 これに反論するには、EFSA(欧州食品安全機関)が認めた安全性を覆すに足る科学的根拠を提示しなくてはならない。緊急輸入制限条項(safeguard clauses)の適用を根拠に抵抗した上記諸国の主張は、EFSAと欧州裁判所によって科学的根拠を欠くと粉砕される。しかし、8カ国以外にも、MON810国内栽培を禁止したフランス政府も、国内世論動向から引くに引けない立場だ。

 この状況を打破するために、EU全体のGM作物栽培承認を妨害しない代わりに加盟国に栽培の自由を与えようとするトレードオフが欧州委員会から示された。具体的には、指令2001/18/ECの改正である。この動きを簡単にレビューしておこう。

 2009年6月25日 環境閣僚理事会において、加盟国政府にGM作物栽培に対する個別の権利を与えることをオランダとオーストリアが提案し、ブルガリア、アイルランド、ギリシャ、キプロス、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロベニアがこれを支持する(計13カ国)。

 2010年7月13日 これを受けた欧州委員会は、加盟国が国土の一部か全体でGM作物の栽培を許可、制限または禁止することを決定できる制度改正を提案した。

 2011年7月5日 欧州議会(European Parliament)が、欧州委員会提案を支持し、各加盟国政府が個別に検討に入るが、思惑や懸念が入り乱れて一致せず。論点は、健康リスク以外の環境リスクや社会経済性を理由とする栽培制限や禁止は可能かということなどだった。

 2012年3月9日 環境閣僚理事会において、EU議長国デンマークが提示した妥協案について投票した。しかし、法律的整合性と明快さの欠如、EU単一市場の不履行、WTO訴訟への懸念などの理由により主要国(フランス、ドイツ、英国など)からの支持が得られなかったため政治的合意に失敗し、議論は振り出しに戻る。

 2013年1月22日 この動きを嫌気した欧州委員会が、GM食用作物(ダイズ1品種、トウモロコシ6品種)の栽培承認プロセスを2014年10月の任期終了まで凍結したと一部メディアが報じたが、欧州委員会は翌1月23日に指令2001/18/EC改正の議論再開を期待しているとして、これを否定(欧州委員会によるショック療法という疑惑もある)。

 2014年3月3日 環境閣僚理事会は、2014年1月1日にリトアニアからEU議長国を引き継いだギリシャが、問題を前進させるために提示した妥協案について論議を再開することに合意。これを受けてギリシャは、合意に向けた会合を複数回招集して根回しを計る。

 2014年5月28日 ブリュッセルで開催された非公開の加盟国閣僚会合で、棄権したベルギー(6月の環境閣僚理事会まで回答を保留)を除く27カ国がギリシャの妥協案を支持したと複数の有力メディアが報道した(筆者注:このリークされた妥協案5月23日バージョンが、6月12日合意されたものと同一内容かどうかは明確ではない)。

 2014年6月12日 環境閣僚理事会における投票の結果、ベルギーとルクセンブルグを除きギリシャ妥協案の合意に漸く漕ぎ着ける。ここまでに足かけ5年を費やした。

<指令2001/18/EC改正のポイントと今後の手続き>

 ギリシャ妥協案のポイントについては各紙が報道しているが、解説はいろいろである。最も信頼できるのは、環境閣僚理事会の合意を受けて欧州委員会José Manuel Barroso委員長 (ポルトガル)が6月12日に出したプレスリリースQ&Aだろう。プレスリリースの概要は、以下の通り。

 最初に、この合意は、加盟国が GMO 栽培について結論を下す場合に、拡張されて順法な可能性を提供する。現在、加盟国は栽培禁止のために緊急輸入制限条項しか使えない。

 第二に、いわゆる『ステップ1』承認前の地理的な範囲制限(the pre-authorisation geographical scope restriction)と『ステップ2』 承認後の不参加権(the post-authorisation opt-out)を結びつけて明確な予定表を作ることによって、すべての当事者に必要な予測可能性を提供する。

 第三に、もし加盟国がステップ1-「範囲制限」要請 -を採ったなら、欧州委員会は(栽培申請者に対する)手順を進める。もし申請者が要請に反応しないなら、合意したものとみなされる。

 第四にステップ2-不参加権-に関してだが、 GMO を栽培するどうかの最終決定権は、申請者の見解にかかわらず、依然として不参加権を保有する加盟国に留まる。

 もし、新しい客観的な状況が生じたなら、10年間のGM承認期間中に栽培を制限もしくは禁止できる加盟国の合法的な権利をこの合意は保証する。

 この提案は、ヒトと動物の健康、環境のために高レベルの保護を保証しているEFSAによって実行されたEU全体規模のリスクアセスメントについてではない。

 欧州委員会の提案と採用の4年後に、EUは新しいGMO 栽培規制の政治的な合意に到達する立場にあり、この合意は新欧州議会におおける建設的な審議への道を開くために重要だ。2015年からこの新しいツールが使えるよう欧州委員会は積極的にサポートする。

 このリリースから推測すると、ステップ2については、直後にEFSAへの信頼性について釘を刺していることからも、加盟国が使用できるハードル(「新しい客観的な状況」に関する科学的エビデンス)は依然として高いだろう。

 やはり、注目されるのは画期的なステップ1である。これを平たく言い直すと、ある開発メーカーが栽培申請しているGM作物を、自国の一部又は全土に栽培したくない加盟国は、その旨を欧州委員会に申告する。欧州委員会は、それを開発メーカーに伝え、栽培申請から除外するよう調整の役割を果たすということだ。

 現状ほぼ不可能な加盟国個々によるGM栽培制限への道が開かれたというのに、EUからGMOを完全追放したがっているラジカルな環境NGOによるこの合意への評判はいささか悪い。欧州委員会経由になったとはいえ開発メーカーによるシステムへの関与も気に入らないし、結局は域内GM栽培を推進する「トロイの木馬」ではないかというのだ。

 次のステップである欧州議会の承認作業は、荒れるかもしれない。2014年5月22日から25日まで実施された欧州議会選挙によって新任された欧州議会による審議となる訳だが、政党バランスが微妙に変化する中、環境NGOの受け皿である緑の党は一定の議席数を確保したからだ。形は少し変わったが、トレードオフ提案をねじ込んだ現欧州委員会の任期も、2014年10月末までである。長らく沈滞していたGMOを巡るEUの動きが活性化し、今後に注目が集まる。

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