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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

謎解きはヴォート(投票)のあとで~コロラド州とオレゴン州のGM食品表示州民投票

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2014年11月6日

 2014年11月4日、米国では中間選挙が実施され、併せて各州の住民発議(Initiative)に対する住民投票が行われた。41州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)で合計147の投票用紙法案(Measures)が審議されるという盛況振りだったが、中でも関心を集めたGM(遺伝子組換え)食品への義務表示について賛否を問うたコロラド州のProposition 105とオレゴン州のMeasure 92は共に否決された。

<背景と提案概要>

 GMA(食品製造業者協会:Grocery Manufacturers Association)によれば、米国の包装された加工食品のおよそ80%がGM成分を含むという。Prop. 105は、16年7月1日からGM成分を含む食品に「Produced With Genetic Engineering」という表示を義務づける。アルコール類、レストランや即時消費される食品には適用されない。違反した場合には、コロラド州政府の公衆衛生・環境局が食品メーカー、卸売業者あるいは小売業者に罰則を適用するが、消費者個人による告訴は認められない。

 一方、M. 92は、16年1月1日から閾値0.9%で「Produced With Genetic Engineering」又は「Partially Produced With Genetic Engineering」という表示を義務づける。レストランと食肉や乳製品に適用されず、違反企業に対する消費者による告訴を認めている。

 表示免除品目に対する州毎の独自事情や、コロラド州の個人訴訟禁止など細部の工夫は見られるものの、基本的には共に僅差で否決されたカリフォルニア州の「Proposition 37」(12年11月)やワシントン州の「Initiative 522」(13年11月)と大同小異である。言い換えれば、Prop. 105とM. 92は先の失敗例に学んでいない。

<投票日までのバトルと論点>

 両州とも賛否両陣営が、州内外から高額の資金提供を受けて派手なPR合戦を展開した。コロラド州では、「Right to Know Colorado GMO」が個人からの寄付を中心に90万ドルを集めたのに対し、「No on 105 Coalition」はGM開発企業、食品会社などから1千660万ドルと集金力で大差をつけた。
 この差はものを言ったらしく、サフォーク大学による世論調査では賛成29.8%、反対49.2%、未定21%、10月31日のDenver Post紙ポールでも賛成34%、反対59%、未定8%と終始否定的意見が強かった。資金力以外に、同州には大学や研究所が多くGM食品について正確に理解できる知識層の州民構成率の高さを指摘する意見もある。

 オレゴン州では、「Yes on 92 campaign」が900万ドルを集めたのに対し「No on 92 Coalition」は1千900万ドルとほぼ倍の集金力を示した。7月に行われたOregon Public Broadcastingの調査では、有権者の77%がM. 92を支持していたが、10月のKGW-TVと Oregonian紙のポールでは賛成42%、反対48%と支持側は劇的に失速し、大逆転を許す。

 論点としては、先ずGM食品の安全性がある。コロラド州の条文は、「消費者の理解に基づいた選択」を主張する一方で、「大衆の健康、安全と福祉を守る」と明記している。オレゴン州はさらに露骨で、「消費者が、理解に基づいた購入することを決定にすることに資する」と目的を定めながら「GM食品のヒトの消費に関する安全性を調べた米国の長期疫学研究はない」、「動植物の遺伝子工学は不正確なプロセスでしばしば思いがけない結果を起こす」とし、「公衆衛生と食品安全性」と断っている。

 表示と食品(と飼料)安全性を切り離さない限り、表示推進派は科学に基づく証拠ベースの理解を拒否する反科学的主張だという表示反対派からの反論が可能になり、これには科学者や主流メディアの加勢を期待出来る。もっとも扱いにくいのは安全性の問題ではない(あるいは一定の安全性は認めるが)、あくまで消費者の知る権利と選択の問題だという表示推進派の意見だろう。

 次は、コストの問題。GM食品表示実施によって直接消費者が負担する食品の値上がりはどれくらいになるのか、といった話だ。
 実は、この問題はデータの採り方によりどのような作文も可能であるため、諸説紛々となる。前回紹介したCouncil for Agricultural Science and Technology(CAST)の「The Potential Impacts of Mandatory Labeling for Genetically Engineered Food in the United States」報告書は信頼できるが、Consumers Unionのオレゴン州調査結果 (ECONorthwest社)の負担増は年間32セントから15.01ドルで、中間値は2.30ドルにしかならないというのは、あまりに極端すぎる。

 もう一例挙げれば、Council for Biotechnology Information(CBI)がスポンサーでコーネル大学によるニューヨーク州の調査(5月15日発表)があり、4人標準家庭の食費が年間48ドルから1,556ドル(オーガニックに切り換えた場合)の範囲で平均800ドル上がると論じている。

 そして、当然ながら、間接的に州の税金で賄われる州政府の法令管理コストや、食品業界などから訴訟を起こされた場合の防衛費も問題になってくるので、コストの話は生々しくて悩ましい。

 <投票結果と浮かぶ謎>

 冒頭書いた通り州民投票の結果、コロラド州では 賛成33.67%対反対66.33%の大差で、オレゴン州でも賛成49.32%対反対50.68%の僅差で共にGM食品表示案は否決された。カリフォルニア州、ワシントン州に続き州民投票では4連敗したことになる。

 不思議に思われるのは、13年7月のNew York Times紙の全米調査で、米国人の93%はGM食品表示を望むという結果が示されている。それなのになぜ各州レベルでは否決されてしまうのだろうか?カウンターPRの威力や、表示コスト問題は当然関係するだろうし、どちらがいいのか良く分からないから取り敢えず保守、現状維持でNoという選択は一般的な処世術の一つだろうが、根本的理由にはならないように思える。

 10月29日のWashington Post紙は、この疑問に斬り込んでいる。
 同紙は、人々が世論調査の問いにGM食品表示を好むと答えたとき、実はそれが何を意味しているかを知らないのではないかと推測する。論拠となっているのは、ラトガース大学が13年11月に発表した論文だが、一般米国人はGMに関して無知だという調査報告は、以前から多数発表されている。

 最近でも、ABC TVの人気報道番組「Jimmy Kimmel Live」が10月10日に放映した街頭インタビューは興味深い。店先や街角で、GMOに反対する消費者に「GMOってなに?」と尋ねたところ殆どが満足に答えられなかった(ビデオ参照)。
 また、Washington Post紙も述べているもう一つの裏付け(これも前回書いたが)が、コロラド州とオレゴン州の市民発議レビューパネル制度の結果だ。この制度は、無作為抽出された州民20名が各イニシャティヴを事前評価するのだが、当然乍ら議題に関する充分な説明を事前に与えられる。結果、GM食品表示についてコロラド州では賛成11票、反対9票、オレゴン州では賛成9票、反対11票と拮抗しており、コロラド州を除く3州のきわどい投票結果ともバランスしている。つまり、GMや食品表示に関する知見をキチンとインプットされた場合には、消費者の表示賛否はほぼ五分五分となる。

<その他州以下のGMを巡る投票結果>

 カリフォルニア州フンボルト(ハンボルト)郡のGM作物栽培を禁止し、郡内をGMO フリーゾーンとして有機栽培農家を保護する「Measure P」は、賛成59.43%対反対40.57%で可決。

 同州では、14年8月に州知事が署名したカリフォルニア種子法(Assembly Bill 2470)により、15年1月1日以後は下位立法機関(市、郡、あるいは地区)による関連条例の採択や実施を禁じたが、フンボルト郡は駆け込み成立となる模様。
 ハワイ州マウイ郡のGM栽培郡内モラトリアム「Measure P」は、賛成51.19%対反対48.81%で可決。深刻な影響を受けるMonsanto社とDow AgroSciences社からの訴訟が予想される。

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