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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GM作物の農業経済的影響をメタ分析~農民への利益給付が明白に

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2014年12月1日

 世界規模でGM(遺伝子組換え)作物の農業経済的影響に焦点を合わせた研究がドイツから公表されたので、今回はそれを紹介する。このような分析としては、英国のGraham Brookesらが著したPG Economics社による2005年からの一連の報告書が従来から知られている。

 しかし、PG Economics社のGM作物に対し極端に肯定的な主張はISAAA(国際アグリバイオ事業団)がしばしば傍証に引用したり、同社研究費の一部をMonsanto社が提供していたりするため、その公平性について疑問を抱く向きがあるのも当然だろう。また、環境負荷低減効果の測定に用いているエコロジカル・フットプリント(「生態系の足跡」、EFP)というツールも一般に分かり易いものではない。

 2014年11月3日、ドイツゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン(Georg-August-University of Goettingen)の研究者たちがPLoS ONE誌に発表した「A Meta-Analysis of the Impacts of Genetically Modified Crops」は、PG Economics社のデータを眉唾だと疑う人々に対しても、より説得性を有するだろう。

 この研究の共同スポンサーは、公的機関であるドイツ連邦経済協力と開発省(BMZ)並びにEUのSeventh Framework Program FOODSECURE(FP7/2007-2011)であり、民間企業は関与しておらず、対立する利害関係も存在していない。

 論文執筆者のWilhelm Klümper氏Matin Qaim博士のコンビは農業経済学が専門であり、Qaim 博士はインドにおけるBtワタ導入に伴う経済効果に関する緻密な継続的考証でも名高い研究者である。

彼らが行ったのは、複数のデータベースでキーワード検索を行い、その結果得られた1995年から2014年3月までに(英文で)発表されたGM作物の経済性に関する研究論文計147報(リストは論文中のTable S1.を参照)をレビューし、それらから経済的影響の平均値を求めようとする試みだ。この種の研究としては史上最大規模のメタ分析でもある。

 興味深いのは、検索でヒットした論文で彼らが研究の対象としたものを必ずしもピアレビュー(同僚評価)を経た学術誌掲載論文に限定しなかったことだ。その理由としては、学術誌や学会で発表されなかった論文の場合、ピアレビューの有無が常に明快に区別できなかったこと及びピアレビューがない研究もGM作物の公共と政策の議論に少なからぬ影響を与えるため、これらを無視することは近視眼的だろうと説明されている。

 そして、この広範な論文選択からさらに面白いことが分かった。ピアレビューされた学術誌掲載論文の方が、他で発表された研究に比べ収量と利益向上でより劇的な効果を示しているというのだ。つまり、より厳密に調べられたと考えられる分析だけに限定した場合には、このドイツの研究結果より収量と利益向上に関してもっと高い平均値が求められるということになる。

 俎上に載せられた論文の多くが、害虫抵抗性(IR)トウモロコシとワタ、除草剤耐性(HT)ダイズ、トウモロコシとワタを含めて最も重要なGM作物に集中し、ナタネ(カノーラ)、シュガービート(テンサイ)とパパイヤのような他のGM作物に関する入手可能な経済影響研究の数は非常に少なかった。

 集計されたデータは、収穫量、農薬(特に殺虫剤と除草剤)の使用量とコスト、全体的な生産コストと売上総利益、最終的な農民利益などに関する報告で、これらに対するGM作物採用の平均的影響が見積もられた。

 この種の大型メタ分析の場合、個々の論文が扱ったサンプル規模の大小などによるデータの偏向の調整や、地域差など結果に影響を与えうる変動要因の扱いなど難しい点も多々あったと考えられるが、ドイツの研究者たちはこれらの障害を認めた上でアプローチに種々の工夫を凝らしている。

 このようにして得られた結論は、GM技術の採用は平均して、

(1) 化学農薬の使用量を37%、同コストを39%減らした
(2) 収穫量を22%増やし、
(3) 農民利益を68%増やした
(4) 産出利益増加と農薬減少は、除草剤耐性作物より害虫抵抗性作物の方がより大きい
(5) 生産量と利益の向上は、先進国より途上国においてより高い

というものである。

 具体的数値はともかくとして、この結論は先行した2014年2月のUSDA(米国農務省)/ERS(経済研究局)による米国国内農業における分析とも大筋一致している。

 GM作物のリスクとベネフィットを巡る多くの争点のうち、農薬使用量の増減を含む農業経済性の分野において、「証拠(evidence)を確固とすることに役立てたい」という研究者たちの目論見はまず成功したと評価できる。言い換えれば、GM推進派はまた強力な証拠を一つ入手したことになるのだろう。

 このメタ分析を待たずとも、利益に対して鋭敏な農民が採用を拡大してきたという歴史的事実は、GM作物の経済優位性を雄弁に物語る。例えば、「GM種子は高価だ」という反対派の主張は紛れもない事実だ。しかし、それでも農家が買うということは、その種子価格がトータルな利益によって十分に補填されるということである。統制や介入のない自由経済市場において利潤を無視し敢えて損を出してまでビジネスをしようとする者はいないし、その原則は農家でも同じだ。

 「『除草剤耐性GM作物』では収穫量が増えない(各論)」は正しい(農家の省力化が主目的である除草剤耐性GM作物の開発コンセプトに収量増加はもともとないことに注意すべきだが)。だからと言って「『GM作物』で収量は増えるというのは開発メーカーによる虚偽で、神話だ(総論)」と言い変えると、それは拡大解釈や欺瞞的誇張となる。逆に、害虫抵抗性GM作物のみを捉えて「GM作物は収量を増やす」と推進派が言い切るのも誤りになる。必要とされるのは、常に証拠ベースの正確に切り分けた議論なのだ。

 同じように、GM種子が有効に働かず損害を被ったとする特殊環境に影響された孤発的、例外的事例のみを捉えてこの論文に反論することは妥当性に欠けるし、オーガニック農産物がGM作物のコンタミによって経済的被害を受けたなどというのも、土俵が異なる話である。

 反対派は心穏やかではないだろうが、GM作物の採用は、平均的に一定の経済的利益を農家にもたらすという証拠も認めた上で、今後は討論を継続すべきだろう。各論と総論を区分せずにすべてに反対して、証拠に基づく共通認識を拒否する姿勢は駄々をこねる子供に等しく、議論においては不毛であるということに気づくべきだ。

 例えば、Greenpeaceは、気候変動に関して科学的証拠に基づいた政策決定を各国政府に強く求める一方、GM作物・食品については「見ざる、聞かざる、反対せざるをえない」とばかりに科学的証拠を一切認めないダブル・スタンダードによって、最近識者たちからそのご都合主義への批判を浴びている。

 Neil deGrasse Tyson博士の呼びかけをもう一度思い起こして欲しい。「もし、GMOに対するあなたの反対が非多年生植物種子を販売するモラルにあるなら、そこに集中して下さい。もし、GMOに対するあなたの反対がアグリビジネスの独占的態度にあるなら、そこに集中して下さい。しかし、GMOの概念全体をこれらの特殊な問題によって描くことは、人類が自然に対し生き残るために行ってきた最善の食べ物の供給という根本的な真実に対して目をつぶることになるはずです」。

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