科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

アフリカの自前開発バイオ作物・食品の動向

宗谷 敏

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 2015年1月5日のMail & Guardian Africa紙は、ケニヤのナイロビ在住のライターSamantha Spooner女史による「There is war over Genetically Modified foods, but they might just ‘save’ Africa」という特集記事を掲載した。大論争になってはいるものの、アフリカにおけるGM(遺伝子組換え)作物・食品の研究と導入は、アフリカを救う可能性があるかもしれないという趣旨である。アフリカ現地からのレポートは珍しいので、今回はこれを読んでみたい。

 50年以上前に、高単収穀物品種の開発、潅漑インフラストラクチャーの拡大と農民へのハイブリッド種子や合成肥料と農薬の分配などを含む「緑の革命」が、アジアとラテンアメリカにおいて、少なくとも10億の生命を飢餓から救いました。アフリカは、このチャンスを逃しました。

 しかしながら、大論争になってはいますが、近年新しい機会がGM食品のかたちでそれを提供しています。

 遺伝子組換えは、特定の有用な遺伝子を導入することによって、生体の遺伝子構成を操作するために使われるテクニックです。アフリカの住民の1/3が干ばつ地帯に住んでいて、養うべき人口の増加を考えると、高単収、耐病性、干ばつ抵抗性などの有用な遺伝子を導入した作物は特に重要です。

 アフリカでは、3人に1人に相当するおよそ2億6500万人が栄養不良です。これは急速に増加すると見られています-2030年までに15億人、2050年までに20億人を食べさせる必要があるでしょう。これはその食糧生産が環境変動と土地の劣化にさらされている大陸にとって途方もない課題です。

<低技術レベルの農業>

 アフリカの耕地のたった7%が、主に天水に依存する小自作農民によって潅漑されます。 同じく、すべての農場の80%を占める2ヘクタール以下の3千3百万の農場に対する巨大なプレッシャーを考えてください。また、アフリカは域内産と競争する製品:肉、乳製品、穀物と油脂を輸入します。輸入価格が輸出価格の1.7倍に達します。

 この急速に成長している社会の要求を満たすためには、耕地面積を増やす代わりに単収を高めることが重要です。これらすべてのリスクを考え併せても、アフリカ諸国がGM食品を採用しているペースは遅れています。2008年に、ブルキナファソとエジプトが南アフリカに加わって、バイオテク作物の商業栽培を開始しました。今日、商業生産を行っているのはこれら3カ国のみです。限定的(隔離)圃場試験(CFT : Confined Field Trials)に取り組んでいるのは7カ国-ブルキナファソ、エジプト、ケニヤ、南アフリカ、ウガンダ、ナイジェリア及びマラウイ-であり、たった14カ国がラボでの研究を行っています(オリジナル記事のFigure 1.参照)。

 以下に、アフリカとその食事を変えるかもしれないGM食品(訳者注:すべてがGMという訳ではないので、バイテク食品と書いた方が適切かと思われるが)のいくつかがあります:

<トウモロコシ>

 現在、トウモロコシの生産がサハラ以南のアフリカで約3億人の人々の暮らしをサポートします。しかし、予測では温度上昇と降雨量減少が2050年までに10-20%トウモロコシ生産を下げることを示します。幸いにも干ばつ耐性トウモロコシが、アフリカの畑にゆっくり進出中です。2008年に開始されたアフリカ向け水有効利用トウモロコシ(the Water Efficient Maize for Africa:WEMA)プロジェクトと国際トウモロコシ・コムギ改良センター(International Maize and Wheat Improvement Center)が、中規模の干ばつ下で在来品種より単収が24から35%高いトウモロコシ品種を開発し展開しています。

 これらの品種は従来の交雑育種、マーカー選抜(MAS)育種とバイオテクノロジーを使って開発されており、アフリカの種子会社を通してサハラ以南のアフリカで小自作農民に特許料免除で上市されるでしょう。

 このプロジェクトでは、2017年までにある種の害虫―stem borersに抵抗性を持つ品種の開発も期待されています。

 現在アフリカのトウモロコシエリアの推定40%が時折干ばつストレスに直面し、10-25%の収量低下を被ります。アフリカのトウモロコシ作物の1/4が頻繁な干ばつに見舞われ、損失で収穫の半分程度が失われています。

<キャッサバ>

 4月に、ナイジェリアに本拠を置く国際熱帯農業研究所(International Institute for Tropical Agriculture:IITA)は、2つの破壊的なウィルス性疾患に耐性がある19の品種を発表しました。キャッサバモザイク病(cassava mosaic disease)とキャッサバ褐色線条病(cassava brown streak disease)は、世界的に毎年10億ドルの損失をもたらします。ウガンダだけでキャッサバ褐色線条病がキャッサバ栽培者の60-70%に影響を与えます。

 キャッサバは農場収入の主要源の1つであり、食糧安全保障に重要です。キャッサバは、トウモロコシとコメに次ぐ第3のアフリカにおける主食作物であり、熱帯アフリカで消費される食物カロリーの約40%を提供しています。

<マトーケ(Matooke)(東アフリカの高地バナナ)>

 東アフリカで最も重要な主食農作物の1つ-ウガンダでは、これらのバナナの消費が世界中で最も高く1人一日当たり0.7kgです。

 ウガンダ国立農業研究機構(National Agricultural Research Organization of Uganda)とIITA による20年以上にわたる共同育種の努力の結果として、去年史上初の高単収で病気抵抗性が強いマトーケのハイブリッド品種が東アフリカに配布されました。

 これらのハイブリッド品種は、地場の「matooke」よりほぼ60%高い単収で、世界中でバナナに30­-80%の損失を与える有名な菌性の病気であるブラックシガトカ菌(black Sigatoka) にも抵抗を示します。

<ササゲ(Cow Pea)>

 西アフリカの科学者たちが、2017年を目標に、マメノメイガ(pod borer)抵抗性GMササゲを開発しています。収量減少をもたらす害虫マメノメイガの大発生が、ナイジェリア北部で70–80%の損失を引き起こしました。

<Nerica:アフリカのための新しいコメ>

 2004年に、シェラレオーネのMonty Jones博士が率いる西アフリカイネ開発協会(the West Africa Rice Development Association:WARDA)、現在のアフリカイネセンター(the Africa Rice Center)のチームが、広く採用されているNew Rice for Africa (Nerica)を開発しました。陸稲品種のNericaは、アフリカの農民が従来不可能だった環境でもイネを栽培することを可能にし、水耕栽培に制限されません。

 Nerica はGMだとは考えられませんが、細胞培養と胚救済法によって遺伝的に変換されました。今日、アフリカの農民のために、窒素使用効率、水使用効率と耐塩性のトレイトでGM NERICA を開発する努力があります。一方ケニヤでは、特定の目標を定められたイネの種子が陸稲のトレイトを進展させるために遺伝子組換えされています。

 GM作物を採用した結果は評価されています。2004年に、Nericaを主力としたthe Upland Rice Projectを開始したウガンダでは、2005年から2007年までに4000人から35000人以上までの稲作農民から9倍の収量増加が報告されました。

<モロコシ(Sorghum)>

 モロコシは、世界の1/3を占める年間約2千万トンがアフリカで生産されており、大陸で2番目に重要な穀物です。

 2009年に、エチオピアのGebisa Ejeta 教授は、アフリカで5億人以上の人々が主食とするモロコシで科学上の一大進歩を遂げました。育種における彼のブレークスルーは、干ばつ耐性と寄生雑草ストライガ(striga)に対する抵抗力が強いモロコシでした。

 モロコシを対象としたもう1つのプロジェクトは、南アフリカを研究の中心としたthe African Bio-fortified Sorghum (ABS) Projectです。ABS プロジェクトは、モロコシの栄養品質を強化して、ビタミンAの増加を直接の目標としており、Bio-fortifiedによって、低所得世帯の栄養摂取を改善するのを目指します。近い将来、フォーカスは、亜鉛と鉄を強化した生物学的利用能(bioavailability)とタンパク質消化性改善に拡張されるでしょう。

 現在達成可能なbio-fortifiedモロコシが、アフリカの子供たちに推奨されるビタミンAの一日必要摂取量の35-60%を賄う将来性を持っています。

<大きい安全性問題>

 アフリカのGM食品は主に健康上の懸念から拒絶されてきました。ヒトによって消費された後、新たに挿入されたDNAの結果について疑問が提起されました。あるいは哺乳動物の細胞、胃腸内バクテリア、もしくは土壌バクテリアへのGM植物・食品からのDNA転送の可能性についての懸念。あるいは抗生物質耐性マーカーに対する心配。しかしながら、アフリカ開発のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa’s Development:NEPAD)は、DNAがその源にかかわらず化学的に同一なので、これらの不安にはほとんど理由がないと考えられると述べます。

 他方、GM食品が間違いなく健康と環境に有害であるという主張があります。例えば、アメリカ環境医学アカデミー(The American Academy of Environmental Medicine)は「多数の動物研究が、GM食品はさまざまな体内器官システムに損害を起こすことを示しました」と述べます。これらの懸念は、現在販売されているバイテク農作物と食品は安全であると公然と宣言する大多数の科学組織と規制当局とは著しい対比を示します。例えば、イタリアの科学者グループがインフォメーション・ギャップであったと信じたものに応えて、GMO の食品安全性と環境影響に関する1783の研究を集約しました。研究者たちは、ヒトあるいは動物にGM食品が害になることを明示している信頼できる例を一つも見いだすことができませんでした。

 GM食品の安全性に関する混乱を助長しているのは、EUが極めて厳しい規制を持ち、GMOs はEFSA(欧州食品安全機関)によって大規模な、ケースバイケースの、科学ベースの食品評価の適用を受けます。その正当性を疑う人もいますが、これは安全性よりむしろ米国農作物がEU市場を席巻することをより困難するための政治的問題です。

 一読して感じたのは、アフリカのGM(あるいはバイテク)に関して記述するのは容易ではないということだ。ISAAA(国際アグリバイオ事業団)の年次報告書でさえも、アフリカについては毎年記述にムラがあって、隔靴掻痒の感が否めないのもムリはない。

 それでも、この記事は大陸のバイテク作物(訳注をつけたようにGMとは限定されない)の自前開発と普及振りについて、その一端を垣間見せる。当面求められているトレイトは、食糧自給を満たすための主食作物に対する収量増加、干ばつなどの環境耐性、栄養成分強化などだが、輸出目的の換金作物についても関心は当然高いハズで、その場合にはEUの厳しいGM規制は貿易障害となりうる。もちろん、米DuPont社をはじめ、多国籍企業群もこれらに対応する品種をショーケースに並べ、アフリカ種子市場には並々ならぬ関心を示している。従って、それらの動向も加えれば、この大陸におけるバイテク作物の展開はさらに複雑なストーリーになるだろう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい