科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国FDAはGMジャガイモとGMリンゴを同時承認

宗谷 敏

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 2015年3月20日、FDA(食品医薬品局)は、米アイダホ州J. R. Simplot社のGM(遺伝子組換え)ジャガイモ「Innate」とカナダブリティッシュ・コロンビア州Okanagan Specialty Fruits社のGMリンゴ「Arctic Apples」について、両社の申請書類を評価した結果、従来の作物との比較において食品安全性と栄養成分は同等であることを確認したと発表した。

 既にUSDA/APHIS(米国農務省・動植物検疫局)は、2014年11月7日に「Innate」、2015年2月13日に「Arctic Apples」に対し、各々の国内商業栽培を可能とする規制緩和を発表しており、最後のハードルであったFDAの承認により、これらのGM製品は米国市場に登場することが法規制的に可能となった。

<用いられたGM技術、付与された特徴、品種名、市場登場時期など>

 「Innate」開発に用いられた「Innate Technology」は、野生種などの交雑可能なジャガイモ近縁種からのみ遺伝子を導入しており、交雑不可能な異種生物からの遺伝子を組込む「トランスジェニック(transgenic)」に対して「シスジェニック(cisgenic)」と見做される。 

 この結果、輸送中などの打撲による黒変を生じにくくさせ、同時に還元糖濃度を低めることによりアクリルアミドの生成を70%低減させた。承認されたのは、「Ranger Russet(F10)」、「Russet Burbank(E12)」、「Atlantic(J3、J55)」、G11及びH50の6品種だ。

 Simplot社は、小規模のテストマーケット用に2014年に収穫された400エーカー分の「Innate」ジャガイモをストックしており、2015年に約2000エーカー栽培する計画で、その収穫量は全米ジャガイモの約2%に相当する。尚、同社は、ジャガイモ疫病(Potato late blight)への抵抗性を追加した第2世代「Innate」の規制緩和をUSDA/APHISに申請している。

 一方、「Arctic Apples」はRNA interference(RNA干渉)により4種のポリフェノールオキシダーゼの酵素レベルを減少させた結果、酸化防止剤を使用しなくても切り口が褐色変化しにくい(RNA干渉については、ILSI JAPANの資料が参考になる)。承認された2品種は、「Granny Smith(GS784)」と「Golden Delicious(GD743)」である。Okanagan社は、2016年に最高75000万本の「Arctic Apples」樹を植え、果実は2017年から入手可能となるが、大規模な栽培は2017年以後と考えている。

 尚、Okanagan社は、2015年2月27日に合成生物学専門企業の米メリーランド州Intrexon社により総額4100万ドルで買収された。因みにIntrexon社は、GMサケ(FDAは未承認)開発企業の米マサチューセッツ州AquaBounty Technologies社のオーナーでもある。

<表示は?消費者の受容と流通業界の反応は?>

 FDAは、両社に表示の必要条件に関して相談するよう奨励している。しかし、それは従来の品種と異なる特徴について消費者に知らせるためであり、従前の方針に従いGMという作出方法に関する表示を意味しない。つまり、一部消費者からの請願にも拘わらず、FDAとしては両社製品にGM食品表示を義務化する可能性は先ずない。

 差別化された特徴を消費者に周知するための表示については、両社側も積極的だ。Simplot社は、消費者にこのジャガイモがユニークであると表示あるいは告知することを支持すると発言している。Okanagan社も雪の結晶のロゴマークをリンゴに付けることを計画している。もちろん両社とも自社製品へのGM食品表示には否定的だ。

 さて、米国の消費者がこれらの製品を受け入れるかどうかになると、その反応はまだ読めない。一般消費者にとっては、シスジェニックもRNAiも不人気なGMとして一括りにされそうだし、両製品をターゲットにしたGM反対派の攻撃も激しいからだ。

 さらに、流通・加工販売業界の壁が立ち塞がる。Simplot社とはビジネスパートナーでありフレンチフライの最大顧客でもあるMcDonald’s USA社は、USDAが「Innate」の栽培を規制緩和した直後「使用しない」とコメントして話題になったが、FDA承認後の3月20日にも「GMOポテトは使用しない」という声明を繰り返した。Burger King社とWendy’s社はコメントを断った。ConAgra社が展開するレストランチェーンLamb Weston社やフードサプライヤーのMcCain社も、消費者受容によると断りつつ今のところ使用に否定的だ。

 川下業界からの総スカンとは裏腹に、「Innate」の消費者受容について、2015年3月10日アイオワ州立大学のエコノミストから米国人およそ300名を対象とした興味深い調査結果が発表されている。

 動物実験で発がん性が判明している化学物質アクリルアミドの発生を、バイオテクノロジーで低減させたという説明を受けた後で、消費者たちは5ポンド袋入りGMジャガイモに対して1.78ドル、冷凍フレンチフライのパッケージに対して1.33ドル余分に支払うことを厭わなかったという。

 「Innate」に比べ「Arctic Apples」は、やや地味だ。間違い無く重宝するのはサラダバーなどでフルーツサラダをフリーサービスするホテルやレストランだろう。手間を厭わなければ、(効果は劣るとしても)塩水やレモン果汁など褐色変化を遅らせる代替手段がある一般消費者にも、Okanagan社の目論見通り売れるのだろうか。

 一部報道によれば、カナダでもCanadian Food Inspection Agency(CFIA:カナダ食品検査庁)とHealth Canada(カナダ保健省)がFDAに合わせて3月20日「Arctic Apples」を認可したという。

 しかし、こちらでもB.C. Fruit Growers’ Assocation(ブリティッシュコロンビア州園芸農業協会)が、消費者のネガティブな反応やオーガニックセクターへの悪影響について懸念を表明し、同州における反対運動も以前から激しい。

<今後の展開は?>

 米国におけるGM食品表示とそれに絡めた食品安全性問題に係わる論争は、このところ収束する気配がない。消費者への利益提供を標榜するGMジャガイモとGMリンゴのFDAによるダブル承認は、このカオスに新たに強力な燃料を放り込むことは間違いないだろう。

 そして、アイオワ州立大学の調査結果を見れば、食品業界側からの的確でていねいな説明とそれを伝える(ソーシャルメディアも含む)メディアの姿勢が、拒否姿勢の流通業界の軟化や消費者受容の鍵となってくるように思える。

<一部参考記事-3月20日>

AP「FDA approves genetically engineered potatoes, apples as safe」

AFP「New GMO potatoes, apples approved for US market」

New York Times「Gene-Altered Apples and Potatoes Are Safe, FDA Says」

LA Times「FDA says GMO apples, potatoes are ‘safe for consumption’」

LA Times「FDA approves genetically modified apples and potatoes for consumption」

Wall Street Journal「FDA Approves Some Genetically Modified Apples and Potatoes」

<一部参考記事-3月21日>

AP-updated「Federal regulators approve genetically engineered apples, potatoes as safe」

Chicago Tribune「FDA approves genetically engineered potatoes, apples as protected」

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい