科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

生産と需要増に官・民が沸く米国オーガニック市場だが供給量に懸念も

宗谷 敏

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 2015年4月15日、USDA(米国農務省)は、米国内のオーガニック公的認証を受けた事業(production and handling operations:農場、牧場及び加工処理施設の合計)数が19,474件(因みに国外も含めると27,814件)のレコードとなったと発表した。

<オーガニック農法の発展に政府も関心>

 この数字は、AMS (Agricultural Marketing Service:農産物市場局)がNOP (National Organic Program:全米オーガニックプログラム)基準に基づく公的認証を開始した2002年以来250%以上、この1年では5%以上の増加となった。

 上述の発表にもある通り、この展開を受けたUSDAは統合的データベースの新規構築・提供などオーガニックに対するサポートを強化する。Tom Vilsack農務長官は「成長を続けるオーガニック製品への消費者の需要は、2014年に11.3%増加しほぼ400億ドルに達した。このことは、特により小規模な家族経営農家のために有益であり、米国農業の多様性と地域経済振興にも繋がる」と、Reuter紙(下記一部参考記事でリンク)で述べている。

<オーガニック業界も需要増を言祝ぐ>

 一方、民間の業界団体OTA(Organic Trade Association:オーガニックトレード協会)も、USDAと時を合わせて、2月10日から4月3日までNutrition Business Journalが行ったオーガニック産業実態調査のハイライト(フル・レポートは5月公表予定)を発表する。その概要は以下の通り。

(1)2014年のオーガニック食品販売は、対前年比11ポイント増の359億ドル(オーガニックワタ由来の衣料品など非食品販売は14ポイント増の32億ドル、合計で11.3ポイント増の391億ドル)となり、1997年に34億ドルだった全米食品市場シェア1%から今やマイルストーンである5%に近づいた。

(2)商品別カテゴリーでは、果菜類が販売額130億ドルで36%以上を構成する。これは全果菜類販売量の12%を占め10年で倍増した。乳製品が54.6億ドルで12%を占め、6年間でカテゴリー別最大の増加率を示した。

(3)オーガニック製品を購買する家庭は、南部諸州の68~80%から西海岸とニューイングランドの90%まで全ての地域に及ぶ。購買層の人種別では白人73%(人口構成比率78%)、ヒスパニック16%(同17%)、黒人14%(同13%)であった。年齢層、所得層、支持政党を超えて買われており、今や米国の貌である。

<しかし、供給量には問題も>

 市場で急成長した需要に対し、供給が追いつかないというクリティカルな悩みもオーガニック業界にはある。OTAは、10月15日にペンシルベニア州立大学によるオーガニックの世界貿易に関する報告書も発表している。

(1)米国の2014年オーガニック製品輸出額が5億5300万ドルなのに対し、輸入は12億8千ドルと輸入超過状態にある。各々の上位5品目は、輸出がリンゴ、レタス、ブドウ、ホウレンソウ及びイチゴ。輸入がコーヒー、ダイズ、オリーブオイル、バナナ及びワインであり、コーヒー(3億3250万ドル)、バナナ、マンゴー、オリーブオイルなどは米国では(殆ど)生産されていないため、輸入に依存するのは仕方ないだろう。

(2)しかし、米国は合計927億ドルの市場価値を持つダイズとトウモロコシの生産量で世界一かつ主要輸出国でありながら、オーガニックに限ればダイズ(1億8400万ドル、うちインドから7380万ドル、次いで中国)が2番目、トウモロコシ(3570万ドルうちルーマニアから1160万ドル、トルコ、オランダとカナダが続く)が10番目の輸入品目になっており、国内生産が需要を全く満たしていない。

(3)1ブッシェル当たりの価格を比較すると、普通ダイズは約9ドルなのに対し飼料用オーガニックダイズは平均25ドルであり、普通トウモロコシは約4ドルなのに対しオーガニック栽培の飼料用黄色トウモロコシは約14ドルする。(別報道に拠れば、普通牛乳の平均価格が1.76ドルなのに対しオーガニック牛乳は3.44ドルする)。従って、(飼料・畜産業界が)オーガニックを優先することは容易ではないが、この報告書は米国農家に対して発せられた「Help Wanted」(求人)メッセージである(Whole Foods Market社)。

<隆盛の背景とタマ不足解決策を模索する業界と政府は同床異夢?>

 オーガニック業界は、なかなかの鼻息である。そもそも高価なオーガニック食品は、一部の富裕層、健康オタク御用達のニッチな市場に過ぎなかった。それが、ここ10年で変化を来たしほぼ毎年二桁台の伸びを示してきた。汚泥再生肥料や農薬残留、GM(遺伝子組換え)や放射線照射、家畜への抗生物質投与、食物連鎖で使用される化学物質などへの不安感が、穀物、果菜類から畜肉まで自然食品に対する消費者の需要を引き上げたからだ。この間、2012年までの穀物価格高騰は、オーガニック作物との値差を縮めた。結果、一般消費者もオーガニック食品に対してより高い価格を支払うことを厭わなくなり、生産者にとってもオーガニック・オペレーションを魅力的にしていったが、需要に追いつかない局面も現れてきた。これがサクセスストーリーの概要だろう。

 オーガニック業界が国内原料不足を嘆く米国のダイズとトウモロコシは、各々93%と90%がGM(2013年USDA)である。このデファクト・スタンダードを切り崩したいというのがオーガニック業界の野望らしいが、GMや慣行農業圃場のオーガニック転換には最低でも3年間かかり、公的認証費用も安くはないことが泣き所だ。

 また、USDAとしてはオーガニック栽培を小規模家族経営農家の収益源に適用し、GMとの棲み分け、共存を図りたいという同床異夢も透けて見える。4月17日には、米国政府として消費者に向けGM食品のメリットとFDA(食品・医薬品局)が担保する安全性をアピールした広報まで出して、すかさずバランスを取っている。

<GMとの関係は?競合するビジネスは?>

 オーガニックとGMとは犬猿の仲という印象が強く、それは主にオーガニック側からの攻勢に因る。確かに、消費者系団体のOCA(Organic Consumers Association)は、GMの安全性不安を煽ったり、GM食品表示を推進したりしているラジカルなGM攻撃の急先鋒であり、声も大きい。

 しかし、業界団体であるOTAは、一部の業者がビジネス政策上GM不安を利用してはいるが、訴訟沙汰にはなっていないという意味でオーストラリアのように直接的なコンタミ被害は起きておらず、英国のSoil Association(土壌協会)のようなルサンチマンも抱いていないように思える。

 業界的にはNOPに支配されている以上、GMも支持する政府に対し正面から弓を引くのは上策ではないし、ここまで出世すれば、金持ち喧嘩せずになっていくのかもしれない(欲は、身の丈を超えてキリがないのかもしれないけれど)。

 USDAのNOP基準によれば、市場のオーガニック製品は95%以上がオーガニック原材料で構成されていなければならない。「残りの5%にGM成分が含まれていたら?」は、良く議論されるところだ。現行ルールではオーガニック製品へのGM混入閾値を定めておらず曖昧なまま(EUでも規制事情は同じだが0.9%を準用する国が多く、ゼロ・トレランスで問題が起きたオーストラリアなどより現実的だ)なのだが、違法性はないという解釈も当然成り立つ。消費者はオーガニック食品=Non-GMOと信じて買っているから、オーガニック業界としてはあまり触れて欲しくない部分であり、過度なGM攻撃は自分の首をも絞めかねない。一方、Non-GMO認証を組み合わせるNOP認定オーガニック認証機関も現れてきている。

 また、GM以外にもオーガニック業界には市場における敵が多い。中でも確執を露わにしている「(all) natural」表示食品(FDAは定義を定めていない)は現在のところ最大の直接的な商売敵であり、この撲滅にはオーガニック業界も熱心だ。Non-GMO Projectの民間認証による「Non-GM」表示製品(2014年の販売総額85億ドル)とも競合関係はある。特に、農家レベルでは、同じプレミアムを得るのに面倒で厳格なオーガニック認証を受けるよりは、Non-GM作物栽培の方が手軽で魅力的だから、畑や農家の奪い合いも発生する。

<食品・流通業界の動きと今後の展開は?>

 一方、オーガニック食品への追い風を察知した食品製造・流通サイドの動きは速かった。2014年9月、General Mills社はオーガニック・ブランドのAnnie’s社を8億2000万ドルで買収する。これに先立つ4月には、流通最大手のWal-Mart社がオーガニック食品を安価に販売し始め、オーガニック食品販売を特化してきたが高価格が泣き所だったWhole Foods Market社に挑戦する。Kroger社やSafeway社もオーガニック製品売り場を拡張し、会員制スーパーのCostco社でもオーガニック食品の販売は好調だという。これでは、供給不足を懸念して、OTAが悲鳴を上げるのもムリはないだろう。

 消費者が恐れるよりもずっと安全だが安心されないGM食品と、安心だが消費者が盲信するほど安全ではないオーガニック食品は、面白い対比を示す。簡単に比較すれば、作物収量においてオーガニックはGMや化学肥料・農薬も用いる慣行農法には劣る(増えるという論文も一部あるが、例外的であり主流ではない)し、手間もかかる。

 故に、一国や一州の農業の主流がオーガニック栽培になるなどというのは、購買している殆どの消費者の食卓が100%オーガニック食品ではないという現実のように起こりそうもない。身の丈を超えた成長への希求が破綻を招くのは、どこの業界においても同じだ。食品汚染事故のかなりがオーガニック食品で発生しているのも統計的には事実であり、GM推進派が「GM食品では一人も死んではいないが、オーガニック食品は大勢を殺している」、「オーガニックは宗教だ」などと揶揄する根拠となっている。

 しかし、GMとオーガニックが究極的に目指すところは案外近い。近親憎悪のように双方がいがみ合い、対立することは農業・食品分野の将来において決して得策ではない。困難と考えられているGMとオーガニックとの融和と役割分担を説いたRaoul W. Adamchak(オーガニック農業実践者)とPamela Ronald(GM研究者)夫妻による「Tomorrow’s Table: Organic Farming, Genetics, and the Future of Food」は、刊行された2008年はやや早すぎたと思うが、今こそ読み直されるべきだろう。


<一部参考記事>

4月15日 AP 「Consumers buying more organic products despite high prices」
4月15日 Reuters 「UPDATE 1-U.S. pushing organic crops as demand grows, Vilsack says」
4月15日 Bloomberg「U.S. Forced to Import Corn as Shoppers Demand Organic Food」

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい