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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMサケが自然界に逃げたら?仮想リスクへの正解は依然不明

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2015年6月29日

 2015年6月10日、BioScience誌に「Assessing Ecological and Evolutionary Consequences of Growth-Accelerated Genetically Engineered Fishes(成長を速めた遺伝子組換えサカナの生態と進化の結果を評価する」という論文が発表された。著者は、カナダ水産海洋省(DFO:Department of Fisheries and Oceans Canada)とスウェーデンUppsala大学の研究者たちである。

 この論文は、米国マサチューセッツ州ベースのAquaBounty Technologies社が開発した成長を速めたGM(遺伝子組換え)サケ(AAS:AquAdvantage Salmon)を主な対象としており、論争の的であるGMサケが自然界にエスケープした場合の環境リスクについて科学的に詰めようと試みる。このため、研究チームは、成長ホルモン操作されたGMサカナ(サケに限らない)と対照される在来種との成長、行動とその他の特徴の相違について分析している80本以上の既存の研究論文を再検討した。

 米国において、20年以上にわたり商業化が認められていないAASの商品コンセプト、技術、FDA(食品医薬品局)による安全性評価、社会の受容動向などについては、松永和紀編集長の2013年1月の記事を参照していただきき、本稿では重複を避ける。2年半を経過した今になってもAASを巡る状況はたいして変わっていないが、Whole Foods、Trader Joe’s、Safeway及びKrogerなどの流通にAASを販売しないと約束させ、Costcoにも強要している反対運動は勢力を増していると言えるだろう。

 今回の研究でチームが見出したのは、自然界においてAASがより速く成長するのは当然として、行動にいくつかの特徴が認められたことだ。例えば、AASは摂食動機が高く大食いであり、捕食されるリスクを厭わず水面近くでより多くの時間を過ごし、広い居住スペースを好むためあまり群れを作りたがらない。この結果AASは劇的に速いレートで成長するが、代償として免疫機能は野生種に比べ低下するという。

 AASが子孫を残し旺盛に繁殖するのかという問題に関しては、自然淘汰で残らなかった性状を持つから難しいだろうという楽観論に対し、チームは一般的な侵略種が環境に適応して生き延びている多くの事例から、懸念は残るだろうと警告している。

 しかしながら、チームの結論としては、AASと野生種のサケとの明白な相違にも拘わらず、自然界へのエスケープでどのようなエコロジーの結果が起きるかを予測することは非常に難しく、ほとんど困難であるということらしい。要するに「実際に逃げ出してみなければ結果は分からない」という、身も蓋もない結果になった。解決策としては、不確実性を減ずるために自然生態系をシミュレートするよう設計された広範なコンディションにおけるモデリングアプローチが提案されてはいるが、これは容易なことではないだろう。

 論文共著者であるUppsala大Fredrik Sundström準教授のコメントは率直だ。「少数のファシリティしか存在しない現在のところリスクは殆どないでしょう。しかし、商業化され、世界中の孵化場でこれらの種の魚が育成されるならリスクはあると思います」。ある程度のリスクは受け入れなければならないが、その限界を研究者は答えられない、それは規制当局が決めるべきことだとも発言している。

 一般的に養殖魚のエスケープはかなり大量に起きているという。但し、それらはGMサカナではないため、経済的損失は別として環境リスクは殆ど問題視されない。では、AquaBounty社は、AASのエスケープに対しどのような対策を講じたのか?物理的、生物学的方法でリスクを本質的にゼロになるまで下げたから、事実上エスケープとそれに基づくリスクは起きえないと同社は主張している。

 先ず、AASは陸上のタンクの中で成長し、FDAの環境アセスメントに従い間仕切り、フィルターとネットの組み合わせにより排水口とパイプへのアクセスを阻止される。さらに、AASはすべて不妊の雌であり、もしエスケープしたとしても自然界では繁殖できない、というのだ。

 FDAはこれらを認めて、2012年12月に環境に重大影響なしとする環境影響評価ドラフト(同年5月作成)を公表したが、環境保護主義者やGM反対派は信用せず、パブリックコメントも2百万通を超え大量の反対意見が寄せられた。政治的関心も招いたため、FDAは規制緩和に踏み切れない棚上げ状況が続いている。

 FDAの環境影響評価ドラフト(145ページ)は、スコープが狭すぎるのではないかという批判は当初からあった(上記松永氏記事を参照)。そして、2013年7月のカナダDFO水産バイオテクノロジー局によるAASの環境とヘルスリスクに関する影響評価ドラフト(481ページ)が、情報公開訴訟を経て2014年5月に公表(一部内容は伏字非公開)されるや、FDAに対するプレッシャーはいや増している。

 DFOドラフトによれば、AASは細菌(Aeromonas salmonicida)性疾病に罹りやすく、成長率にムラがあるなどとされており、これらを見落としているFDAは、進行中のAASレビューをもう終了させるべきだとFood & Water Watch、Center for Food Safety、Friends of the Earth及びConsumers Unionが要求している。

 FDAとAquaBounty社にとっては厳しい状況が続くが、この問題は反対派がとかく無視する水産資源の需給と切り離しては論じられない。FAOの統計に見られるように、増大し続ける世界の魚食への需要を天然資源の枯渇を避けつつ満たしていくために、今後おそらく私たちは高効率の養殖事業に依存していかざるをえない。

 ウナギや高騰し、マグロやサケも追従してやがて食べられなくなるといった悲劇的事態は避けたい。では、諸対策のリスクをどこまで容認すべきか。AAS論争に象徴されるリスクとベネフィットの相克は、既存のGM農作物などよりさらに直接的に消費者の食卓に突きつけられて先鋭化しているように思えてならない。

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