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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国のGM食品表示フォローアップ、上院の法案審議、USDAも表示義務化を支持? 大統領予備選候補者たちの賛・否は?

宗谷 敏

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 法廷係争中ではあるが、米国におけるGM(遺伝子組換え)食品表示の爆心地であるヴァーモント州において2016年7月1日にGM食品義務表示法Act 120が発効予定である。

 この阻止に向けて、法廷闘争の原告でもある食品業界は連邦議会への働きかけに大童になっていると周辺事情も含めて2月4日付のAPが伝えた。

 連邦議会では、2015年7月23日下院がGM食品表示を任意に留め州による義務表示を禁ずる法案H.R. 1599 「Safe and Accurate Food Labeling Act」 を、賛成275票(共和党230、民主党45)対反対150票(共和党12、民主党138)、棄権8票(共和党3、民主党5)で可決している。しかし、これに対応する上院の動きが鈍かったのだが、3月に入るや俄に緊迫感が漂いはじめた。今年に入ってからの連邦議会と主要州、業界の主要な動きをログ形式でまとめておく。

1月7日 Campbell Soup社が、GMOs は安全であると認識しているが、政府の方針とは関係無く自社製品にGM食品表示を実施し、GM食品義務表示を支持すると発表

1月22日 Corn Refiners Association (CRA)が、ヴァーモント州でGM食品表示が実施されれば経済的影響は全国に及び、表示の変更のために最低でも38億ドル、一家族当たり50ドルのコストアップを招く。製造業者がNon-GMO製品への移行を画策した場合は、年間819億ドル、一家族当たり1050ドルの費用がかかるというリサーチャーによる報告書を発表

1月29日 FDAは、表示制度を開発するまでAquaBounty Technologies社のGMサケ(と製品)の輸入(国内流通)を禁止すると発表。12月18日に成立した2016会計年度(15年10月~16年9月)包括歳出法案に盛り込まれたLisa Murkowski上院議員(共和党、アラスカ州)からの提案を受けたもの。

2月16日 オレゴン州議会下院は、GMサケ(魚)に対する義務表示法案HB4122を賛成32票対反対27票で可決したが、上院で3月3日期限切れ廃案。

2月19日 連邦議会上院農業、栄養と林業委員会Pat Roberts委員長(共和党、カンザス州)が、1946年のAgricultural Marketing Act(農業市場法)を改訂し、USDAが任意の全国的GM食品表示基準を定め、個別州によるGM食品義務表示を禁ずる法案を議員立法。

2月25日 メイン州議会Michelle Dunphy下院議員(民主党)は同州GM食品義務表示法案から隣接する4州がGM食品表示を実施した場合のみ発効するというトリガー条項と、2018年1月までにこの条件を満たさなければ廃案とする停止条項を削除する改正案LD991を起案しているが、この改正案を州民投票にかける変更を州議会に求めた。農業、保全と林業委員会は、この変更を拒絶した。

3月1日 連邦議会上院農業、栄養と林業委員会は、Pat Roberts委員長の議員立法案について投票の結果、賛成14票(ノースダコタ、インディアナ、ミネソタ州選出の民主党上院議員3名を含む)対反対6票で可決。法案S.2609として上院に上程された。上院の議席定数100、共和党54、民主党45、無所属1だが、可決されるためには賛成60票が必要。共和党満票として最低6名(3名は獲得済み)の民主党議員からの支持が必須。

3月2日 連邦議会上院で農業歳出小委員会に所属する民主党議員Jeff Merkley(起案者、オレゴン州)、Patrick Leahy(上院農業、栄養と林業委員会前委員長、ヴァーモント州)、Jon Tester (モンタナ州)及びDianne Feinstein (カリフォルニア州)の4名が、1938年のFederal Food, Drug, and Cosmetic Act(連邦食品・医薬品・化粧品法)を改訂する全国統一GM食品義務表示法案S. 2621 「A bill to amend the Federal Food, Drug, and Cosmetic Act with respect to genetically engineered food transparency and uniformity.」議員立法した。この法案は、上院健康教育労働年金委員会(共和党12名、民主党10名)の審議待ちだが、S.2609に対抗し、全国統一的なGM食品義務表示法案が成立するまで、議会は個別各州のGM食品義務表示を妨げるべきではないと起案者は主張している。

 当然重視されるのは連邦議会上院の今後の動向だが、面白いのはS.2609とS.2621では改訂を狙う根拠法が異なることだ。つまり、改訂根拠法の相違から、もし成立した場合に任意表示はUSDAが所掌し、義務表示はFDAが管轄することになる。

 ところで、3月3日~5日ニューオリンズで開催されたCommodity Classic見本市において、Tom Vilsack USDA長官がGM表示は義務化すべきだという注目すべき発言をしている。

 各州のGM食品表示実施による混乱を避けるために、S.2609が上院で60票を獲得し、下院の合意も得て、大統領署名までもっていくためには、GMA(全米食品製造業者協会)が2015年12月に提案した「SmartLabel initiative」やホームページ、フリーダイヤルなどによる情報提供を食品企業に義務化すべきだというのだ。つまり、製品にGM表示を義務づけるという意味ではないが、誤解を招きやすい(そこが狙いなのかもしれないが)発言である。

 尚、GM食品表示が特に問題なっている8州の状況については、1月29日時点でEcoWatchが簡単に整理・報告している。

 さて、注目される大統領予備選候補者たちのGM食品表示に対する賛・否のスタンスだが、2015年10月と、2016年3月に各候補者たちの意向を調査(推測を含む)した記事がある。

 これらによれば、民主党のHillary Clinton氏は、バイテク支持論者でGM反対派からは「Monsanto社の花嫁」と揶揄されており、GM食品表示にも反対の立場。Bernie Sanders氏はヴァーモント州製出の上院議員だから隠れもない賛成派で、従来からGM食品表示の熱烈な推進・支持者である。

 共和党ではDonald Trump氏は今のところこの件については中立的だが、人を喰っていそうな印象に反して家族共々オーガニック食品のみを食しており、トランプホテルで供される食事もすべてグルテンフリー・オーガニックであるという。Ted Cruz氏は明確に反対、Marco Rubio氏もおそらく反対、Ben Carson博士は賛成という色分けになるらしい。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい