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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GreenpeaceによるTTIP交渉機密文書公開とGMOs

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2016年5月9日

 2016年5月2日、Greenpeace は、予てからの予告通りEU・米国間のTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉に関する機密文書の一部を「TTIP Leaks」 として公開した。これらの文書は、4月25~29日にニューヨークで開催された第13ラウンド前に纏められたもので、EU・米国双方のコメントを考慮し作成された総合的案文(Consolidated Text)であり、欧州委員会が17文書あるとしているうちの13文書分(248ページ)に相当する。尚、Greenpeaceは、リーク元を秘匿するためにリライトしたと断っている。

 これらの文書から得られた総論としてGreenpeaceは、米国がEUの環境保護と公衆衛生(食品安全性)基準を緩和・低下させ、米国大企業の影響力を増大させようと圧力をかけていると解釈されるから、TTIPは断固阻止すべしと主張している。耳目を集めるこの主張を多くのメディアが報道した。

 これに対し、欧州委員会貿易担当Cecilia Malmstroem委員(スウェーデン)は、直ちに反論した。Consolidated Textは双方の交渉の立場を反映しているだけで結論ではない、異なる見解が存在する分野があっても当然だし、一方的な要求に片方が屈することもありえない。従って、人騒がせな見出しの殆どは「コップの中の嵐」に過ぎず、TTIP交渉は環境と健康のレベルを下げないし、我々の立脚点である予防原則(Precautionary Principle)が除外されるというのも間違いである、と述べている。

 EUのTTIP主席交渉担当者Ignacio Garcia Bercero(スペイン、米国側対応者はMichael Froman)も、リークした文書は「交渉の結果の反映ではない」とし、Greenpeaceのいくつかの論点(解釈)は、完全な誤解であるとコメントし、リーク元の特定にも取り組むと述べた(情報管理の不備を米国側に詫びるためにも、これは言わざるをえない)。しかし、Greenpeaceに同調する人々は、MalmstroemやBerceroには産業界から巨額の献金が流れているだろうとして、これらの反論を鼻であしらっている。

 Reutersが伝えた米国側の反応としては、USTR(米国通商代表部)が、Greenpeaceの解釈は良く言っても紛らわしく、最悪な場合は完全な誤解だと全面拒否し、ホワイトハウスも文書漏洩には無関心と無視した。

<漏洩した文書でGMOs(遺伝子組換え生物)はどう扱われているのか?>

 リークされた文書群で、GMOsについて主に言及されているのは、Doc.11「SANITARY AND PHYTOSANITARY MEASURES-CONSOLIDATED PROPOSALS」のPDF15ページ目から始まる「US:Article X.12: Regulatory Approvals for Products of Modern Agricultural Technology」である。

 これは米国側からの提案だが、「Products of Modern Agricultural Technology」などの言葉の定義やスコープ(例えば、遺伝子編集などのNBTを含むのか?)、各条文の細かいニュアンスは交渉担当者以外知りようがないし、WTO/SPS協定はじめ貿易関連国際法規全般によほど詳しい専門家でないと文書全文の正確な解読も難しいだろう。

 この部分から読み取れるのは、米国側がEUによるGM作物・食品・飼料に対する輸入認可の遅滞(隠れも無き現状)とそれに伴うLLP(輸入国未承認GMOsの微量混入による貿易障害)問題に強い懸念を抱いており、EU側に改善努力を求めているという従来からの構図の延長・再確認である。「Products of Modern Agricultural Technology」に対して、双方の輸入前承認を必要とする前提は維持されているが、承認手順の効率化を米国はあれこれ要求していると取れる。

 そして結論は、これらの問題に関する共同議長による作業部会を設置して協議していこうという提案で、それ以外なんらの決定事項を含まない。先に述べたNBTの扱いなども、作業部会にはリスク評価担当者も含めるという提案から、この場で協議されるという推測は妥当だろう。第13ラウンドにおいても、双方の見解が異なる面倒な事項はすべて先送りされたと報じられており、EUのGreenpeaceに対する反論通り本件についてはいかなる譲歩や屈服も現在はないと思われる。

<NBTに対するEUの姿勢が注目されている理由>

 最近のFoocomでも、松永和紀氏がCRISPR/Cas9利用のマッシュルームに対するUSDA(米国農務省)認可やDuPont/Pioneer社によるワキシーコーン開発計画を紹介しており、白井洋一氏はNBT規制の国際動向について解説している。NBTを利用した生体の開発は、米国のみならず続々スタンバイしており、各国の規制方針が決まらず、整合性が取れないと貿易上の大混乱を来すことが懸念されている。

 白井氏と引用されたNature誌の記事によれば、EUでは欧州委員会が2016年3月末までにNBTの扱い方(平たく言えば、従来のGMOsと同様の厳しい規制を課すのか、規制対象外あるいは軽規制に留めるのか、ということ)について見解を出す予定であったが、ことが欧州議会などで政治問題化したため、科学的基準のみによる判断ができなくなり「発表先送り、期日は未定」となった。

 このEUの状況についてMichael Le Page(英国)は4月22日にNew Scientist誌で、次のように揶揄している。「あなたは次のどれをGMOと見なしますか?A:異なる生体から遺伝子を加えること。B:放射能あるいは化学物質によって突然変異を誘発させること。C:生体のゲノムに対して一つの正確な変更を行うこと。自分は、D:上記のすべてはGMOだと考えるが、欧州委員会の答えは『A-はい、B-いいえ、C-さあ、私たちは決めかねています』です」。

 実は、4月下旬に、GreenpeaceやFriends of the EarthによればTTIPでEUは米国に屈して遺伝子編集技術を規制しないことにした(らしい)という一部報道が流れた。

 しかし、今回の「TTIP Leaks」に該当する部分は見当たらない。ここは、Greenpeaceなどのアイキャッチを狙ったブラフ、メディアの誤報、Greenpeaceがまだ公開していない文書を隠し持っている、などの推測が可能だが、今回公表された文書だけからなら「Products of Modern Agricultural Technology」の作業部会にNBTの規制法も包含されるのでは、という見方を私は上で示してみた。

<「TTIP Leaks」の影響とTTIPの行く末は?>

 国際貿易交渉では当然「損する人(セクター)得する人(セクター)」が出てくるから、いちいちそれらの意見に関わり合っていては交渉自体が進まないため機密交渉となるのは普通であり、交渉過程で駆け引きや妥協、トレードオフ(例えば、EUの自動車と米国の(GM)農産物などが噂されているが、ドイツChristian Schmidt農相はこれを否定  )などが頻繁に起きる「生もの」だ。

 誰もが知りたかったこの交渉中間機密文書を、思い切り恣意的な解釈を付けて公表したGreenpeaceの作戦は、TTIP交渉への直接的影響は無いとしても、見事だった。殆どのメディアがGreenpeaceに乗せられて恣意的解釈をバラ撒いた結果、これらしか読まない公衆(仮にテキスト自体を読んでも内容は大部分の人々の理解を超えるから、Greenpeaceの解釈が一人歩きする)の不安や猜疑心を煽ることによりTTIP交渉への公衆による反対の声という間接的影響を増加させることに成功したと考えられる。

 EU側のTTIP推進の旗頭は、英国のDavid Cameron首相とドイツのAngela Merkel首相だが、Greenpeaceはベルリンに「TTIP Leaks」文書公開読書室(「TTIP reading space」)まで設けてMerkel首相に対する加圧を計った(その後、「TTIP reading space」は警察により閉鎖された)。ドイツBertelsmann財団が、4月21日に発表した世論調査では、ドイツと米国で公衆のTTIPへの支持が急速に下がっている。

 米国ではBarack Obama大統領に在任中になんとしてもTTIPを成立させたいという強い願望がある。しかし、米国議会は一枚岩ではないし、EU側もそれはとてもムリと長期戦の構えだ。さらに現時点での次期大統領有力候補の共和党Donald Trumpはもとより民主党Hillary ClintonさえTTIPにはむしろ反対、慎重姿勢なのでホワイトハウスの主が代わった場合、TTIPの成立自体が危ぶまれるためObamaは焦っている。

 5月3日には、フランスのFrançois Hollande大統領が、米国のビジネスにあまりに友好的でおそらく成功しない「現状の」TTIPは受け容れられないと述べた。「TTIP Leaks」の有無に係わらずTTIP交渉を巡るEU・米国の先行きは不透明感をいや増しているように思える。

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