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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

アフラトキシンを遂に制圧か~アリゾナ大学のGMトウモロコシ

宗谷 敏

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 2017年3月10日、米国アリゾナ大学などが、遺伝子制御を誘発させることによりアフラトキシン汚染を低レベルに抑え込んだGM(遺伝子組換え)トウモロコシ開発に成功したとScience Advances誌に発表した。この研究には、Bill and Melinda Gates財団が資金提供しており、研究チームは特許を申請中だ。

 カビ毒(mycotoxin)は植物病原菌のかびが産生する化学物質で、ヒトや家畜の健康に悪影響を及ぼし、いろいろな種類が知られている。カビ毒の中でも、特にアフラトキシン(アスペルギルス菌)は最強の発がん物質などと呼ばれて恐れられている。

 我が国の2016年輸入食品違反事例一覧を見ても、アフラトキシンやその他かび毒がいかに悩ましい問題であるかが端的に窺える。

 食品や飼料に対するアフラトキシンのリスク評価と管理には、国際機関(JECFA、Codex委員会など)、各国(100カ国以上が関連する規制を持つ)とも苦労しているが、規制対象が総アフラトキシン、B1、M1など細分化されており複雑なので、上にリンクした農水省2資料や厚労省通達、鹿児島大学獣医学部岡本嘉六名誉教授の解説 などを参照されたい。

 アフラトキシンの汚染によって失われるトウモロコシは年間1600万トンと推計されており、米国1カ国でも農業損失額は年間2億7000万ドルに達するという。南部アフリカ(主に南アフリカ共和国)の総生産量が2000万トン程度であることを考えると1600万トンがいかに大きなロスかが分かる。

 しかも、トウモロコシを主食とする一部途上国においては、餓死するか、アフラトキシンに汚染されたトウモロコシでも食べるかという二者択一を迫られていたりする。明日を生きるためには、将来発症するかもしれない発がんリスクを気にすることは贅沢だという先進国では考えられない現実があるのだ。

 このような背景から、アリゾナ大学のGMトウモロコシ研究開発はかなり意義深い。この研究はHost-Induced Gene Silencing(HIGS)というアプローチの応用であり、導入した遺伝子によってトウモロコシのメッセンジャーRNA(mRNA)の形態を変えることによって、汚染されたトウモロコシでカビがアフラトキシンを作り出すタンパク質の生成・蓄積を阻止する。

 このアプローチは、まだラボ内の実験に成功したのみである。USDA・ARS(米国農務省農業研究局)にも所属する論文共著者が考慮している作物へのRNAi(RNA干渉)スプレー法も含めて、このギミックが各地の圃場でも有効に働くかどうか、研究者たちが言うようにこの技術の他作物への適用が可能かどうかは、今後の試験結果を待たなければならない。

 アリゾナ大学の初期検査においては、トウモロコシ穀粒(kernels)の変化は認められなかった(食品・飼料安全性)が、外来遺伝子を導入しているため厳しいGM規制をクリヤーするためのコストも必要となるだろう。

 また、アフラトキシン汚染はサイロなどの貯蔵施設でも不適切な管理状態によって起きるため、仮に圃場での低減技術が確立されたとしても、(途上国においては)流通段階における改善も併せて必要となる。

 尚、従来の害虫抵抗性GM(Bt)トウモロコシは、カビ毒の発生が少ないメリットがあるということは、推進派を中心に良く聞く話だ。しかし、Btトウモロコシが有効なのはフモニシン(フザリウム菌)に対してであり、トウモロコシ内の感染経路が異なるためアフラトキシン(アスペルギルス菌)に対しての効果は殆ど有効ではないか極く限定的だ。この理由に関しては、Foocomに「農と食の周辺情報」を連載されている白井洋一氏の詳しい解説がある。

 最近は、Crispr/Cas9などのゲノム編集技術がもっぱら脚光を浴び、やや置き去りにされた感もあるGMだが、このアリゾナ大学の研究では育種技術のツールボックスは適材適所で使われることを証明し、GM技術の存在をアピールする。さらに、アフラトキシン抑止が実用化されたなら、GM反対派によるGM技術は「飢えに対する解決をもたらしていない」、「生産者利益のみで消費者利益を伴わない」という耳タコ批判に対する20数年振りの明確な回答になる可能性もあるだろう。

参考資料:University of Arizona:Small Molecule Could Play Role in Food Security
 

 

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい