科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

2010年4月~2011年3月のラフスケッチ(中)

宗谷 敏

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 1年間のブランクがあるので、各地域、主要国がどうなっているのかを、数回に分けてオーバービューしている。第2回は、南米とオセアニア及びアジアを取り上げる。

<ブラジル>

 拙稿(上)でお伝えしたISAAA(アグリバイオ事業団)報告において、GM(遺伝子組み換え)作物商業栽培面積が対前年比10.4ポイントの増加となっているが、これに最も貢献したのは対前年比19ポイント増のブラジルだ。ブラジルにおいては、ダイズ、トウモロコシ、ワタにGMが導入されており、ダイズのGM比率は75%(ISAAA、以下同じ)で続伸している。

 2003年就任したLuiz Inacio Lula da Silva前大統領は経済発展政策を推進し、(GM)ダイズ栽培拡大は農業推進の一環であった。CTNbio(国家バイオ保全技術委員会)も、新規開発GM作物に対し、速攻で栽培認可を与え続けている。しかし、この拡大政策は、マトグロッソ州などにおいて、ダイズプランテーション開発に伴う熱帯雨林の破壊・減少というコンフリクトを招く。この問題は、環境保護活動組織からの激怒を買い、Greenpeaceなどの南米産ダイズ不買運動などへと発展する。

 これに対し、COOPスイスやWWF(世界自然保護基金)が中心となり、生産から貿易までの全ステークホルダーを集めてRound Table on Responsible Soy(責任あるダイズ生産のための円卓会議)が05年3月、ブラジルにおいて開催された。この会議は以後毎年開催され、独自の生産・加工基準を定めラベリングも実施しているが、環境保護派やGM反対派からは、円卓会議は多国籍企業に乗っ取られており、GMダイズが持続可能で責任あるとは片腹痛いわと評判が悪い。

 10年10月の大統領選挙において、Lula前大統領から後継者指名を受けた与党労働党候補Dilma Vana Rousseff元官房長官が当選した。ブラジル初の女性大統領Rousseffは、Lula路線を踏襲すると表明しており、大きな農業政策転換はなさそうだ。

 しかしながら、既にほぼ100%がGMダイズと伝えられるアルゼンチンや、同じく95%のパラグアイも含めGMダイズ一辺倒のモノカルチャー化のリスク具現は、規制が徹底し経済的環境にも恵まれている北米に比べ、南米では早期に先鋭化しつつある。従って単に環境問題のみならず、社会・経済問題含めての今後を注視していく必要がある。

<アルゼンチン>

 概要はブラジルと似たようなものだが、2つトピックを上げておく。最初に、Monsanto社がEUの業者を相手どり、アルゼンチンから輸入した大豆粕に含まれるラウンドアップレディ大豆は特許権侵害だと訴えていた裁判で、欧州司法裁判所は10年10月6日、Monsanto社の訴えを却下した。本件は、既に10年6月当事者間では和解が成立していたが、GM作物の特許権は、DNA配列が機能していない加工製品に対しては保護されないという判例として注目された。

 次に、10年8月9日付American Chemical Societyジャーナルに、ブエノスアイレス医科大学Andrés Carrasco教授らが発表した除草剤グリホサートはカエルとヒヨコの胎児に奇形をもたらしたという論文について。この実験設計は、試験動物の胚に希釈した除草剤を直接注入するという乱暴なものである。Monsanto社の反論にもある通り、一般的に食されている成分であるカフェインを用いてさえ、ほぼ同様の試験結果が得られている。

 10年9月13日、Carrasco教授らはこの論文を敷延し「GM Soy: Sustainable? Responsible? 」という報告書を、GM反対派組織のGM Watchから公表している。上述の実験結果から、アルゼンチンとパラグアイのGMダイズ栽培地で住民にも深刻な様々の健康危害が起きているというものだが、現地でのインタビューが中心で整った統計データに基づくとは考えにくい。また、他のGMダイズ栽培国でも、このような事象は報告されていない。

<オーストラリア>

 ニューサウスウェールズ州(GMナタネ栽培比率8%)とビクトリア州(同14%)に続き、10年1月25日モラトリアムを撤廃した西オーストラリア州(同9%)もGMナタネの商業栽培を開始した。オーストラリア全体のGMナタネ栽培比率はまだ8%だが、順調に増加してきた。

 しかし、10年12月に西オーストラリア州の有機栽培農家から、クレームが発生した。隣接するGMナタネ農家の畑からGMナタネ種子が強風で飛来し自分の畑で生育しているのを発見したという主張で、州政府により事実確認がなされた。この結果、有機農家は収穫物(ムギ類)の70%が有機作物と認められず、莫大な経済的損害を蒙ったとして訴訟手続きを開始する。

 被告GMと原告有機双方の農家に、各々サポーターがついて、州を二分する騒ぎになっている。GM農家は、隔離距離など法律を遵守しており、GM推進派のTerry Redman同州農相は、有機の基準の方が厳しすぎるから、緩和するよう求めるコメントを出している。有機サイドは、輸出市場への悪影響や、洪水などによりGM種子が運ばれ同じ結果を生まないかなど強い懸念を抱いている。

 一方、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)などを中心に、新規GM作物開発・試験栽培も盛んに行われており、コムギ・オオムギ、オメガ3系脂肪酸強化ナタネ(CSIRO)、抗菌・耐病性バナナ(クィーンズランド大学)、干ばつ耐性コムギ、ウィルス抵抗性牧草(ビクトリア州政府)、除草剤耐性サトウキビ(BSES)などがラインアップされている。
 Greenpeaceなどは、ベビーフーズへのGM原料混入(合法)を責めたり、GM食品表示の拡大見直しを迫ったりしたが、表示制度に大きな変更はもたらされなかった。

 <ニュージーランド>では、政府系研究機関王立AgResearchによるGM家畜や作物の開発志向が旺盛だ。環境NGOのGE Free NZなどが、GM家畜を問題視しERMA(環境リスク管理局)による研究承認に対して訴訟を起こしたが、10年6月30日に最高裁において控訴棄却となった。
 10年12月15日、Scion王立科学研究所の成長を早めた耐病性GMマツの封じ込め野外試験栽培(25年間)を、ERMAは認可した。

<中国>

 10年3月及び7月に、Greenpeaceはスーパーで販売されている製品と湖北省のコメサンプルから未承認GMコメの混入を発見したと告発した。EUはじめ輸出国でも水際での未承認GM(Bt 63とKeFeng6)コメの混入製品発見が相次いでいる。
 10年5月13日、Btワタに非標的害虫のカメムシが大量発生し、被害が拡大していると中国農業科学院等が報告した。

 研究開発は盛んに行われているが、GMコメの失敗に懲りてか商業化には慎重姿勢であり、GMと平行してハイブリッドイネ・トウモロコシの開発にも注力している。今や、トウモロコシとダイズの一大輸入国であり、その買い付け動向は、常に市場の注目を集めている。

<インド>

 10年2月のJairam Ramesh 環境大臣によるインドMaharashtra Hybrid Seeds社 (Mahyco)のBtナス商業栽培のモラトリアムは、世界的にGM(純食品)反対運動を再燃させた転回点となった。
 国内的には、その後も不手際続きのGEAC(遺伝子組み換え承認委員会)の改編、一元化されたGM管理政策政府機関(BRAI)の新設置を含む食料安全基準法案審議など騒動が続く。Sharad Pawar農業・食品加工大臣に代表されるGM推進派と、11年3月にはBtトウモロコシ試験栽培にも横槍を入れたRamesh 環境大臣(但し、11年1月には非食用であるGMゴムの木の試験栽培には一定の理解を示した)を担ぐ反対派との間で、いまだに国内を二分する論争に明け暮れている。

 Btワタは、10年にはワタ栽培面積の86%に達し、国産種子の開発・承認も盛んだが、販売されている種子の粗悪品質を巡る問題も派生している。08年10月にデータで否定されているにも拘わらず、農民自殺の原因をBtワタに求める批判も繰り返されている。10年3月、Monsanto社からワタアカミムシがBt抵抗性を発達させたという報告が出されたが、新品種BollgardⅡ売り込み政策の一環という醒めた見方もある。新規開発としては、10年9月インド中央ジャガイモ研究所が高タンパク・高反収のGMジャガイモを開発したと発表した。

<フィリピン>

 既に、害虫抵抗性・除草剤耐性の掛け合わせGMトウモロコシの主要栽培国であり、フィリピン大学開発のBtナス試験栽培も一進一退ながら進められており、インドを抜いて商業化は間近と見られている。

 IRRI(国際イネ研究所)などのビタミンA強化GMゴールデン・ライスも、米Bill and Melinda Gates Foundation(ゲイツ財団)からの高額補助金や、米Helen Keller International (ヘレン・ケラー協会)のプロジェクト参加で勢い付いており、今後2年で商業化される見込みだ。

<パキスタン>

 09年11月、GMワタ栽培が認可され、10年4月からBtワタ種子導入に踏み切り、順調に作付面積を伸ばしている。

<マレーシア>

 10年11月の英領ケイマン諸島に続き、11年1月、デング熱対策に不妊を招くGMカ(蚊)の雄6,000匹をアジアでは初めて試験野外放出し、話題となった。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい