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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GM規制緩和を訴えるトップ・サイエンティスト~Nina V. Fedoroff博士の主張

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2011年8月22日

 Nina V. Fedoroff博士は、Condoleezza Rice並びにHillary Clinton国務長官付の科学顧問を務め、現在はペンシルベニア州立大学生物学教授でアメリカ科学振興協会会長でもある。彼女が、11年8月18日付「New York Times」に寄稿した「すべての人々のための遺伝子組み換え食品」という論説を、今回は読んでみたい。

TITLE: Engineering Food for All
SOURCE: the New York Times
DATE: 18 Aug. 2011

「食料品価格は記録的高値です。そして飢えた人たちの階層が再び増加しています。
 気候温暖化が世界中で収穫量を徐々に削り取り始めています。
 今世紀半ばには、さらに養うべき10から30億人の人々がいると国連は予測します。
 オバマ政権が、不必要な規制を排除することにより革新を刺激することを望むと言っているにも拘わらず、環境保護庁が、その技術を使って改善され有望な将来性と安全性の実績を示した遺伝子組み換え作物に、さらに多くのデータを要望します。
 これらの作物を承認するプロセスは、それが革新を圧迫するほど高価で、厄介なものになりました。

 文明は、科学技術のおかげで著しく加速した効率的な食料生産性を拡大することに依存しています。
 肥料と病気や害虫制御のための化学物質の使用、化学物質または放射線で収量を改善するための植物への有益な突然変異の導入と農作業の機械化は、これまでの100年で単位面積当たり食料生産量を10倍に増やしました。

 膨張している人口を養い続けるためには、これらの桁外れの増産を2050年までに2倍にしなければなりません。
 世界中の人々がいっそう豊かになるにつれて、動物性タンパク質に富んだ食事を要求するようになりました。それには、今まで以上に飼料穀物の収量を上げなければならないのです。

 遺伝子を加えるか、変更する新しい分子的方法が、植物を病気と害虫から守って、共にいっそう環境に優しく、旧来の方法による能力を越えて農作物を改善することができます。
これは遺伝子組み換えが、伝統的な育種法や化学物質または放射線による突然変異の誘発のようなショットガンアプローチと対照的に、遺伝子がどう働くかの知識に基づいて巧妙に作られるからです。
 その結果は、目を見張るものでした。

 例えば、ある特定の害虫に対して抵抗を持つ追加の遺伝子を含む遺伝子組み換え作物はずっと少しの殺虫剤しか必要としません。
 有毒な殺虫剤は、鳥のための餌を減らし、川、湖や海に流入して汚染するため、これは環境にとって良いことです。

 遺伝子組み換えされた除草剤耐性ダイズのす速い採用は、雑草防除のために農家が耕耘機を動かさず、不耕起をより容易にしました。
 土壌侵食を減少させ、農業からのカーボン・フットプリントを縮小するので、不耕起栽培は、より持続可能であり環境にも優しいのです。

 2010年に、遺伝子組み換え作物は、29カ国において3億6千万エーカー(約1億5千万ヘクタール)以上の土地で栽培されました。
 これらを栽培している1540万人の農民のうち、90パーセントは貧しい小規模農家です。農民が遺伝子組み換え作物を好む理由は単純です:反収が増加し、経費が減少します。

 遺伝子組み換え食品の健康と環境に対する恐ろしい悪影響に関する神話が数多くありますが、それらは科学的な精査に耐えませんでした。
 そして、予想外の結果の可能性について多くの懸念が表明されましたが、観察された予想外の影響は、これまでのところ良性のものでした。
 例えば、発がん性があるカビ毒による汚染は、非遺伝子組み換えトウモロコシより害虫抵抗性遺伝子組み換えトウモロコシの方が、およそ90パーセントも低いのです。
 これは害虫が植物の中に穿った穴に、毒素を作る菌類が入るからです。
 害虫が穴を作らなければ菌類、毒素もなしです。

 それにもかかわらず、今日ほんのひと握りの遺伝子組み換え作物、主にダイズ、トウモロコシ、ナタネとワタしかありません。
 それらのすべてが、主に飼料あるいは繊維のために使われる商品作物であり、大きいバイオテクノロジー会社によって開発されました。
 大会社だけが、3つの政府規制機関:環境保護庁、農務省と食糧医薬品局によって複雑に編み上げられた規制の茂みを突き進むために必要な資金を集めることができます。

 何十年も前、植物改良への分子的アプローチが比較的新しかった頃、慎重なアプローチについての若干の論拠がありました。

 しかし、今では証拠があります。
 これらの作物組み換え方法は危険ではありません。
 EUは、今まで25年にわたり遺伝子組み換え作物の安全性を調査するために4億2500万ドル(約325億3千万円)以上を費やしました。
 この問題についての、最近の長文の報告書は1つの文章に要約することができます:分子的方法による作物の改変は他の方法による作物の改変以上に危険ではありません。
 この問題を分析した米国科学アカデミーと英国王立学会を含む本格的な科学組織が、同じ結論に到達しました。

 遺伝子組み換え作物の開発の速度を遅くしている規制上の負担を緩和すべき時です。
 3つの米国政府規制機関は、必要条件の1つのセットを開発して、新しいトレイト(特徴・形質)がもたらす危険 -もしあるとしたなら-のみに焦点を合わせる必要があります。

 それに何よりも、政府は、科学的に信頼できる危害の証拠がない遺伝子組み換えを規制することを止める必要があります。」(抄訳終わり)

 
 Fedoroff博士のNY Timesへの論説を紹介するのは、ちょうど3年前の「英国皇太子と米国科学技術顧問~情熱と科学の葛藤、あるいは・・・」 に続き2回目だが、あくまで科学的知見のみに立って、遺伝子組み換え(GM)作物がもたらす利益を強く主張する姿勢にはブレがない。

 米国では、反対派による訴訟裁定に抗してMonsanto社のGMアルファルファやテンサイを部分的に規制緩和した農務省が、続いて米Scotts社のブルーグラスを規制対象から外した件、米AquaBounty社のGMサケのFDA食用認可に反対する議会筋からの干渉など、GM作物・食品の規制のあり方を巡る議論が活発だ。

 Fedoroff博士の論説は、そのような渦中に投じられた一石で、GM反対派には抵抗しにくい論旨展開になっているのだが、 それでも8月20日付の「Grist Magazine」に敢然として挑む反論が掲載された。

TITLE: Why GMOs won’t save the world (despite what you read in The New York Times)
SOURCE: Grist Magazine
DATE: 20 Aug. 2011

 筆者のAnna Lappe氏は、飢餓と食糧問題に関する著名な活動家・著述者Frances Moore Lappe氏を母に持ち、自身も持続可能性、食糧政策、グローバリゼーション、社会改革などを専門領域とするベストセラー作家である。

 個別事項の反論や反証データは、まあそんなものかとも思うが、一言で言ってしまうとGM作物は持続可能な方法ではなくむしろ環境インパクトがあるし、GMを使わずに持続可能な農業は可能だという主張だ。

 さすがに才媛と感じたのは、科学的論争のルールを良く知っており、耐性雑草や耐性害虫の問題に一切触れていない点である。生半可な反対派なら、これらの問題を正面に据えて、Fedoroff博士を批判しただろう。

 しかし、これらの問題は「科学的切り分け」により、最初からFedoroff博士の主張の論点からは外れていると思われる。仮に、耐性雑草問題も持ち出して批判されたら、Fedoroff博士はこう切り返すのではないだろうか。

 「それは、GM作物だから起きるという固有のリスクではありません。問題は、むしろ単独のトレイトがあまりに急速に、広く普及してしまったために起きるモノカルチャー化だと考えられませんか?これを防ぐ、あるいは遅らせるためには、GM作物にも多様性が必要だということになります。従って、ベンチャーなどのもっと多くの企業による商品開発を可能にさせるためにも、規制を緩和すべきです」

 実は、Fedoroff博士とAnna Lappe氏の主張の前提となっている(食料)危機意識は、極めて近似のものだ。その対立軸は、オーガニックからのGMに対する近親憎悪とも似通って近い。

 そして、それらの融合を主張しているのが、California大学Davis校教授のPamela Ronald博士だ。京都府立大学大学院生命環境科学研究科のご尽力により、Ronald博士夫妻の名著「Tomorrow’s Table: Organic Farming, Genetics, and the Future of Food」の翻訳版「有機農業と遺伝子組換え食品—明日の食卓」が丸善出版から刊行された。彼女のユニークな思想に触れるために、是非ご一読を。

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