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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

いい仕事しています~英国食品基準庁の季刊誌「Bite」

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2011年10月17日

 英国では、2010年5月の総選挙の結果、Tony Blair、Gordon Brownの2代にわたった労働党政権が、保守党と自由民主党の連立政権に交替した。この結果、労働党政権が苦労しながら推進してきた、プロGM(遺伝子組み換え作物・食品)政策 は、新政権によるGMパブリックディベートの開催中止、英国食品基準庁(FSA)の解体・縮小案などで、一時風前の灯火かと思われたものだった。しかし、関係者たちは踏み止まって頑張った。すごく頑張った。

 それは、FSAが、発刊する季刊誌「Bite」(おそらく食べることと、噛みつき合って議論するということが掛詞になっている)の2011年10月10日号プレス・リリースを見れば明らかだろう。

TITLE: FSA serves up food for thought on GM
SOURCE: FSA
DATE: Oct. 10, 2100

FSA はGMについて考える材料を提供します

 英国食品基準庁は、季刊誌『Bite』に、GM食品に関する情報と利害関係者たちによる広範で横断的な見解を公表することにより、皆さんに考える材料を提供します。
 これは、英国におけるGMを考慮することについての政府による5つの基本原則発表に続くものです。これらの原則は、この技術の使用について異なった見解を聴くことの重要性を強調しています。

 『Bite』は、挑戦的な食品関連問題を議論するためにFSA により創刊されました。
 最新号:『GM-(味と健康を求めた)新規食品あるいはお口に合わない試み』は、食料安全保障と持続可能性を考察して、GMが果たすべき有効な役割を持つのか、それとも持たないのかを尋ねます。
 『Bite』が、主導的な科学者、研究者、消費者の擁護者たち、農民、食品メーカー、スコットランド州とウェールズ州政府を含む閣僚とNGOからの意見を一堂に集めました。

 GM特集号は、以下を含みます:

・『私たちはここからどこへ行きますか?』は、英国食品・飲料連盟、英国農業者組合、『Which?』(消費者向け調査紙)、科学界からの代表者による討論会です。
・Sustainable Food Trust(NPO)理事Patrick HoldenとJohn Innes CentreのGiles Oldroyd 教授との対論:『世界は本当にGMを必要としますか?』
・GM政策に関する政府の筆頭大臣Taylor 卿(Lord Taylor of Holbeach)は、政府のポジションを説明します。
・政府主席科学顧問John Beddington卿が、食料安全保障のための戦いで、なぜGMが見落とされるべきではないかについて説明します。
・スコットランドとウェールズの州政府が、州内でGM作物を栽培することへの反対について述べます。
・英国国際開発省が、GMがなぜ道具箱の貴重な追加道具であり得るのかについて説明します。
・科学者でバイオテクノロジー産業の報道官Mark Buckinghamが、GMがなぜ世界の飢え問題への回答の一部を提供できるかについて話します。
・南アフリカ共和国のNGO であるAfrican Centre for Biosafety に所属するMariam Mayetが、GMはなぜ欧米が勧める万能薬となりえないかについて述べます。

 その他にも本誌は、GM発達の歴史的背景を提供するための概要、どのように遺伝子組み換え食品が規制されるかに関する記事、GMについての欧州食品安全機関(EFSA)の仕事のアウトライン、世界的にGM作物栽培が拡大していることを示す地図と、この問題について公衆と議論することからFSA が学んだことの要約などを含みます。
 英国食品基準庁は、GM食品や技術の導入の話について答えを持っていると主張はしません。しかし、すべての利害関係者が「自分たちのアプローチは、一部の消費者が抱いている懸念に正しく対処しているのだろうか」と疑問を持ち考えるきっかけを、このBite最新号が作れたらいい、と願います。

『Bite』最新号へのリンクです。」(プレス・リリース抄訳終わり)

 この冊子は、どこを読んでも面白いのだが、直接対決になっている2つのパートに注目してみよう。

 「世界は本当にGMを必要としますか?」は、1995-2010年9月まで有機農業推進の総本山である土壌協会の理事として活躍したPatrick Holden氏とノーフォーク州にある植物・微生物の独立系研究所John Innes CentreのGiles Oldroyd 教授との往復書簡である。
 Holden氏は、Oldroyd 教授のダイズの窒素固定をGMで他の果菜類に移す研究に対してを、自分のWales州の農園では窒素肥料は一切使わず高反収を上げており、だからGMなど不要ではないか、と挑んだ。
 Oldroyd 教授は、世界の農地がWales州のように恵まれた環境にある訳ではない、自分は有機農法に充分敬意を払ってはいるが、有機だけで今後の世界は養っていけないと、これを一蹴している。

 次の「私たちはここからどこへ行きますか?」は、かなりのページ数を割いた座談会形式になっており、GMの安全性と公衆の受容を中心に、なかなか次元の高いテーマで意見が応酬されている。消費者の選択権と農家の種子選択権が、同列に扱われているのは面白い。

 実は、ここで交わされた議論への模範解答をいうべきものが、英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)次官Taylor 卿による「GMに関する政府の政策はどのようなものですか?」だろう。

 「政府が最優先するプライオリティは、ヒトの健康と環境を守ることです。そのため、GM政策は、次の原則に基づいています:
-もし堅固なリスク査定が、ヒトと環境に安全であると示すなら、政府はGM作物栽培やGM食品・飼料の上市に同意するでしょう。申請は、科学的な証拠に基づき、安全のために事例ごとに査定されるべきです。
-政府は、消費者が適切なインフォメーションと表示を通して選択が可能であることを保証するでしょう、そして技術の開発と使用について公共の意見を聞くでしょう。
- 政府は、農民が新しい技術へのアクセスを持ち、それらを採用すべきかどうか決められることを支持します。GM作物が英国で商業栽培された暁には、在来作物や有機作物と区分する措置を適切に実行して、経済的利害関係を保護するでしょう。
- 政府はGM技術が、特にグローバルな食料安全保障、気候変動とより持続可能な農業生産の必要性に対する長期の挑戦へのツールの1つとして、安全に、そして責任を持って使用されるなら、利益を提供できると認識しています。途上国は、このような技術への公平なアクセスを持つべきであり、その使用について彼ら自身の理解に基づいた決定をすべきです。
- 革新と、安全な食品のための公正な市場アクセスや経済成長を奨励するために、政府はこの技術の規制がバランスのとれたものであるべきだと信じます。」(抄訳おわり)

 おそらく英国(政府)は、初期のGMディベートにおける失敗などから、いかに立派な大義名分を掲げようともGM推進一本槍ではダメだと悟ったのだろう。反対意見や慎重論にも耳を傾け、キチンと答えて行こう、それを公衆に開示して考えてもらおうという姿勢には、政府や社会の成熟が感じられる。
 但し、弁証法など一切通用しないし、とてもまともな議論にはならないであろうGreenpeaceやFriends of the Earthのような極端な原理主義的反対論者や、ジャンクサイエンスで恐怖感を煽る諸説は、「Bite」の構成から慎重に排除されている。

 反対・推進両派陣営からこの15年間、雨霰の如く投下されてきた膨大な量のプロパガンダの粉塵によって曇らされたバイアスの眼鏡を外して、この32ページの小冊子に向き合うなら、読者が得るものは小さくない筈だ。FSAの狙いもそこにある。

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