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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

感情的TPP議論との差~EUは理詰めでGMO議論を動かす

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2011年10月31日

 2011年10月28日、欧州委員会は「遺伝子組み換え作物(GMO)にかんする欧州委員会による最近の提出議案は正しい方向に向かっている」とするプレスリリース を発表した。その根拠として示されたのは、EUの法律を評価した二つの独立組織による報告書2冊であり、どちらも法律の目的に対する広範の支持があると結論している。
関連告示 などから、この概要を整理したいが、少し背景説明を加えておこう。

<背景説明>
 WTO訴訟で一敗地にまみれたトラウマを抱えるEUは、GM作物承認作業の遅れにより、深刻な貿易問題を抱えているというのが欧州委員会の認識だ。この遅延は、特定の加盟国による反対に起因しており、これらの諸国は、EUが栽培を承認したGM作物の国内栽培をあれこれ理由をつけて禁止している。さらに、栽培承認のみならず、輸入承認にも抵抗を示すのが常だ。

 行政府の欧州委員会は、GM栽培可否を加盟国のオプションとすることと引き換えに、GM承認に反対するのを止めて欲しいというトレードオフを提案した。しかし、立法府である欧州議会や上部組織の閣僚理事会からは、かならずしも支持を得られていない。

 欧州委員会は、GM規制をパッケージで見直しており、その中には合意が得られた飼料原料へのLLP(EU未承認GMOの微量混入)を認める改正や、EFSA(欧州食品安全機関)による(環境)リスク評価のガイドラインの見直し、欧州議会から注文のあったGMO 栽培の社会経済学的な帰結的意味の研究、上市後の環境モニタリング強化などが含まれている。

 しかし、どれを採っても一筋縄で行く問題ではない。これらの根元的議論が対立構造によって承認作業同様の遅延をもたらしたら、諸外国の活発な新規GM作物開発パイプラインもあるから、貿易摩擦を避けようとする見直しの意味が失われ危機的状況を招く。

 この危機感から、欧州委員会は自らの立場の正当性をアピールし、論点整理により議論のスピードアップを計る目的で、これらの報告書を公表したと考えられる。プレスリリースなどの概要整理は、以下の通り。

 「既存の法律を再検討しインプリメンテーション(遂行内容)を改善するためのプロセスの一環として、欧州委員会は2009年から2011年年初にかけて GMO 法律の評価を実施しました。

<報告書>
 「Agra CEAS Consulting」が、GM食品と飼料の分野におけるEUの法律的枠組みを評価し、「the European Policy Evaluation Consortium (EPEC)」 は、GM栽培に関する法律の枠組みに焦点を合わせました。異なるコンサルティング企業2社が行った調査の目的は、特に利害関係者と所轄当局者から事実と意見を収集することでした。そして、システムを調整することの有効性と効率化が査定されました。

<主な調査結果>
 2冊の報告書は、健康と環境の保護、域内市場の創造のような法律の主目的は、社会の必要性とも一致しており、利害関係者と所轄当局者から広範な支持があったことを記録します。

 しかしながら、報告によればまだそれ以上の改良の余地があります。例えば、報告書は認可システムをもっと効率的にすることが可能だったかもしれません。GMO栽培が、もっと柔軟性を持たせ、より制度を調和させたリスク評価プロセスによって利益を得るだろうと指摘します・・・
 いいニュースは、システムに対する全体的な変更より、個別の問題に対する限定的な変化で十分であるということです。

<正しい軌道上にあります-既に実行されています>
 評価報告書は、欧州委員会が最近開始した多くの行動が正しい軌道にあることを確認します。
 先ず、2010年7月に欧州委員会が採用した、GMO栽培に対するより多くの柔軟性の必要に応える欧州委員会のGMO栽培に関するパッケージは、そのような動きの一つと認知されます。

 閣僚理事会と欧州議会で現在審議中の重要な提案は、加盟国に自国内で GMOの栽培を制限するか、あるいは禁止することを許します。
 2番目に、輸入飼料製品への未承認GMOs の低レベルの混入(LLP)に関して欧州委員会が提案した規則が7月に施行され、加盟国とビジネスオペレーターから歓迎されました。
 3番目に、2008年の環境閣僚理事会決議によって求められた、GM作物の社会経済学的な帰結的意味に関する報告を、欧州委員会は加盟国の貢献に基づいて2011年4月に発表しました。2011年10月18日には、加盟国との協議を通じてこの情報の収集と共有を徹底しました。

<パイプライン>
 これらに加えて、欧州委員会は今後の数週間に食品と飼料のために輸入される製品の承認申請のためのより明確な必要条件を提案するでしょう。
欧州委員会は、環境リスク評価ガイドラインを修正し、すでに加盟国と利害関係者との議論を開始しています。
 もう1つのプライオリティが、企業と加盟国による環境影響モニタリングの強化です。EFSA と加盟国の専門家は、より詳細なガイドラインを持つべく欧州委員会としっかり協力しています。

<詳細情報はこちらへ>」(抄訳終わり)

 報告書の指摘する改善点と欧州委員会の取り組みを箇条書きすれば、
・多くの GMO栽培に対するもっと多くのフレキシビリティの必要性
・LLP問題の解決
・GMO 栽培の社会経済学的な帰結的意味についての専門的な情報の編纂
・リスク評価ガイドラインの見直しと加盟国に承認された法的文書への落とし込み
・モニタリング活動の強化
・新しい植物育種テクニックの査定
・そして、GMO 問題に関するコミュニケーション活動の強化
ということになる。

 問題点を整理して明示し、あくまで理詰めで協議していこうという欧州委員会の姿勢が良く現れている。この姿勢を、ベースとなる(第三者による)資料や報告書を作らず憶測や感情論が赴くままに、今我が国を席巻しているTPP論議と比べると、その違いにやはり愕然としませんか?

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