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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

EUは幾何学?~フランス国務院がMon810栽培禁止令を撤回

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2011年12月12日

 2011年11月28日、フランスの最高行政裁判所機能を持つ国務院は、フランス政府による米Monsanto社の害虫抵抗性GM(遺伝子組み換え)トウモロコシMon810に対する08年2月からの国内栽培禁止令を撤回するよう命じた。この事象について、あちこちに補助線を引いて結んでみると、なかなか興味深い図形が浮かび上がる。

TITLE: French annul ruling against planting modified corn
SOURCE: AP
DATE: 28, Nov. 2011

 Mon810は、独BASF社 の工業用GM ジャガイモAmfloraと共に、EUが全加盟27国において実質的な栽培を公式に認めているGM作物だ。ISAAA(国際アグリバイオ事業団)によれば、2010年にはスペイン(76,575ha)、ポルトガル(5,094ha)、チェコ(4,680ha)、ポーランド(3,000ha)、スロバキア(1,248ha)、ルーマニア(822ha)などで商業栽培されている。

 フランスのMon810栽培禁止令は、07年5月に就任したNicolas Sarkozy大統領による環境政策の一環であった。07年10月、Sarkozy大統領は、EFSA(欧州食品安全機関)や自国の農業省バイオ工学委員会によるMon810にリスクはないとする評価結果を無視し、新設したリスク評価機関が結論を出すまでは商業栽培を一時凍結すると表明した。

 当時既に2万2,000haが国内商業栽培されていた(上述の栽培各国面積と比べても、いかに大きい数値だったかが分かる)にも拘わらず、である。さらに07年12月6日には一時凍結措置の延長を発表する。そのあまりに強引な進め方には、原発推進政策との政策的トレードオフではないかとの憶測も生まれた。

 08年2月9日、新リスク評価機関は、標的外昆虫や土壌中の生物や微生物、水棲生物への否定的影響を論じた研究(いずれの研究も、学術的に主流の見解とは言い難い)が存在し、GM花粉の飛散距離への懸念があるとした報告を出した。だが、これを受けた農業大臣がセーフガード条項を適用し、Mon810国内栽培禁止を正式決定してしまう。08年にはMon810栽培面積が10万haに拡大すると見込んでいた全国農業組合連盟やトウモロコシ生産者協会からは、行政訴訟が起きたが、08年3月19日にこれも退けられる。

 その後、08年5月22日に、大もめにもめた末、上・下両院議会はGM作物の導入を条件付きで認める修正法案を採択する。これは、01年にEUがGM作物承認モラトリアム(凍結)を終了させるに当たり、新たに定めた安全基準法案にSarkozy政権が国内法を整合させたものだったが、Mon810国内栽培禁止令は解除されなかった。

 これを不満としたMonsanto社など10社は、ECJ(European Court of Justice:欧州裁判所)フランスを提訴した。11年9月8日、ECJは、4年来のフランスによるMon810禁止令は非合法であった、と裁定する。その理由は、ヒトや動物の健康、あるいは環境に対して明確で重大なリスクの存在を確証するリスク評価を、フランス当局は行なっておらず、従ってEU認可を停止するために必要とされる手順に従っていなかったというものだ。

 ただし、このECJ裁定には法的拘束力がない。フランス環境大臣は「この段階ではMON810栽培禁止は正当なままであり、フランスの領土では継続される。」と述べた。欧州委員会報道官も、「フランスは異なった規則を使って栽培禁止申請を再提出することができる」と述べている。

 しかし、このECJ裁定を支持して下された冒頭のフランス国務院による裁定により、フランスははじめてセーフガード条項を反古にする必要に迫られた。これは法的に受け入れざるをえない。だが、「ハイ、おっしゃる通り、手前共が悪うございました」とはならないのがEUの常である。

 まして相手は最強の屁理屈大国フランスだ。「我思う、ゆえに我あり」のRené Descartes「方法序説」にそう書いてあったのかどうかは知らないが、「理由があかんいうなら、違う理由を作ればいいじゃん」なのだ。欧州委員会報道官が示唆した権利に、フランス政府はしがみつく。

 農業省は、同じ効果を持つ新しい禁止令を制定する方法を研究していると直ちに発表し、環境省も12年4月の作付けシーズンまでに新しい禁止令を制定するつもりらしい。11年11月29日には、Sarkozy大統領自身も「政府は、国内へのMonsanto社のGM作物栽培に対する反対を維持し、将来的にも維持し続けるだろう」とコメントし、環境大臣と農業大臣が栽培制限を継続するための「新しい安全条項」を準備していることが確認された。

 これを実行するために、フランスには2つのハードルがある。先ず、禁止令を新しい法的根拠に理由づけなくてはならず、次に、Mon810の栽培が環境上の重大なリスクとなることを証明する新たな証拠を提出しなくてはならない。フランス当局者はこれらに自信を示すが、後段はかなり難しい。

 というのは、10年12月10日、欧州委員会は500以上の独立した研究組織が係わった25年間におよぶ研究成果を集大成した「A decade of EU-funded GMO research」を公表し、GM作物が環境や食品・飼料の安全性で従来の作物や生体よりリスクが高いという科学的証拠は、現時点でないと結論しているからだ。従って、フランスがGMOの環境リスクに関する証拠をもし提出しても、欧州委員会や諮問を受ける立場のEFSAは、ジャンク情報として扱うと予想される。

 一方、10年7月5日に、欧州議会は、加盟国が、環境、社会経済学の考慮、土地使用を含めて公共的利益を根拠に全域または一部で、全てまたは特定の GM作物栽培を制限あるいは禁止することができる法改正草案を採択している。

 これは、GM作物栽培承認作業が特定国の反対から行き詰っているのに困った欧州委員会が、承認促進の代償として栽培の可否を加盟国に一任する案を提出したのが発端だ。当然、欧州委員会はいろいろ条件を付けていたが、審議の過程で反対国が、これを逆手にとって様々な要求を出して条件闘争化した結果、欧州委員会原案は徐々に修正されていった。

 この「社会経済学を考慮する」という条件を提案し、08年12月に環境閣僚理事会を動かして欧州委員会に報告書(11年4月15日公表、27加盟国中13カ国がGM作物栽培にメリットを見いだせず国内栽培に否定的と報告)を作成させたのが、誰あろう策士フランスなのだ。

 故に、ガチンコの科学的環境安全性論議を避けて、まだ公式なEU法への落とし込みはなされていないにも拘わらず、フランスがこの社会経済学上の理由に持ち出した場合には、欧州委員会とのバトルが紛糾することは間違いないし、その可能性は高いと筆者には思われる。

 フランス以外にMon810の国内栽培を禁止しているEU加盟国に、オーストリア、ブルガリア、ドイツ、ギリシャ、ハンガリーおよびルクセンブルグの6カ国がある。これらの国々ならずとも、世界が固唾を飲んで成り行きを見つめている。

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