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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

「金を忘れろ、科学に従え」~ISAAA報告書の正当性を巡る論議から

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2012年3月5日

 バレンタインデーの2012年2月14日、東京ではISAAA(国際アグリバイオ事業団)の世界におけるGM(遺伝子組み換え)作物の2011年商業栽培状況に関する報告会が、CBIJ(バイテク情報普及会)の主催で開催された。全体で8%続伸したという以外には特段のトピックもなく、登壇したClive James会長も淡々とこの年中行事をこなしている、といった印象であった。

 一方、GM反対の立場をとるNGOなどは、EUを中心にこのISAAA年次報告(書)を目の仇にしており、毎年ISAAAからの公表時期に合わせて、その内容を貶めようとする対抗リリースを出すのが年中行事化している。このあたりの話は、喧嘩両成敗的に2008年2009年に書いた。

 このISAAA論争は、反対派が時々繰り出す反則ギリギリのゴシップ的要素もあって、端から見ている限りはなかなか面白い。そこで、イロ物的に報ずるメディアや、俎上に載せるコメンタリーにはことかかないのだが、「EurActiv」紙が2月28日に掲載した「GM crops: Forget the money, follow the science」 は中でも出色の出来なので、今回はこれを取り上げる。

 著者のSebastian Olényi氏は、ドイツとフランスで環境科学とバイオテクノロジーを学び修士号を獲得、現在オランダのDelft 大学博士課程に在籍する。食料とバイオマス製品の持続可能性に対する認識、態度、基準を研究テーマ (筆者注:これもなかなか面白い)にしており、フリーランスのジャーナリストも兼ねる。

 Olényi氏の主張の要約は、「GM作物を取り巻く最近の疑惑申し立ては偽善的であり、誤った方向に(EUの)政治的討論を導いている」というものだ。 以下「抄訳」と筆者コメント。

「私の研究は、緑の(筆者注:農業を意味する)バイオテクノロジーと遺伝子組換え食品に対するヨーロッパのジャーナリストや政治家の態度に焦点を合わせた個人的見解です。

Food & Water Europeは、『EurActiv』に掲載された最近のコメンタリーにおいて、種子企業を含む多くの既得権益者からの出資によるISAAA報告書のGM作物栽培面積に係わる数値の正当性に疑問を呈しました。

さらに最近、二つのキャンペーングループ-the Corporate Europe Observatory及びthe Earth Open Source-は、『頻繁な利害の対立』があるとして、EFSA (欧州食品安全機関)を訴えました。

同じ時、AAAS(米国科学振興協会)会長の(GMOsが大好きな)Nina Fedoroffや他の科学者たちは、社会科学者たちによって引き起こされた荒々しい反応として、野放しに広がっている反科学の動きという構図を描いて見せました」。

 この動きの延長線上には、2月24日付「Science」誌に掲載されたインタビュー で、インドのManmohan Singh首相(自らも科学者)の爆弾発言により引き起こされたインド国内の大騒動を置くことができそうだ。Singh首相は、「我が国における原発とGMOに対する反対運動は、国外のNGOに扇動され活動資金も提供されている」と述べた(但し、このインタビューの本質的主題はそこにはない)。

「これらの最近の出来事は、科学政策トピック-特にGM周辺の討論構築の徴候を示しています。しかしながら、農業とフードシステムの未来はどうあるべきかについて論じる代わりにこれらが論議されることや、政治的意志決定のために用いられる科学の品質(quality of the sciences)に対して、これらは危険な例です。

科学的な方法論と調査結果の品質に対する徹底的な評価と、それに続くすべての議論を有意義に熟慮することのみが、バランスがとれた政治的意志決定を導くことができます。

利害関係の対立により膨らませられた討論は、科学的品質、持続可能性、健康と環境の安全性、経済的利益、社会の様相のようなより重要な議論から心をそらす枠組みです。

しばしば最後の手段として使われる『反対者』の信用を失墜させることは、合理的な議論が失敗する安直な方法です。

まったくのところ、資金の提供は科学者、NGO、シンクタンクと他の多くの関係者にとって重要です。

しかし、資金提供とそれに関連した対立の可能性を含む関心は、科学的な研究、報告と関係者たちの(非)信頼性には寄与しますが、金や研究課題についての論議は政治的論議において、このような重要な役割を持つべきではありません」。

 著者は、この後、金(の出所)の研究ではなく、透明性と研究結果が独立して確認されるかどうかのみを問題にするのが科学的独立性だと述べ、研究アプローチの本当の品質をチェックする必要があると訴える。

 そして、科学者の(資金供給元による)信頼性に関する主張はしばしば一方的であり、ほとんど触れられることのないNGOに対する資金供給元も同等に疑問視される必要があると注意喚起する。もちろん著者は、バランス上GM-フレンドリー組織の資金源にも若干触れているが、一切そういう資金を受けていないthe Public Research and Regulation Initiative( PRRI)を出しているのが目立つ。

 さて、挙げられているNGOは、Food & Water Europe、Corporate Europe Observatory、Friends of the Earth、CRIIGENなど錚々たるラインアップであり、これらNGOへの資金供給元として実名を含む財団、政治結社、(EU)諸国政府、欧州委員会!、食料品販売者、有機農家などの存在が指摘されている。

 特に、CRIIGENの原動力であり、しばしばGMOsのヘルスリスクに関するお騒がせ論文を発表しているフランスCaen大学のGilles-Éric Séralini教授については詳しい。

 GM作物に由来する体内の毒素を取り除くと主張する製品を商業化(デトックス・ビジネス!)している企業の介在や、欧州議会(Séralini教授は都合4回も参考人招致されている)のALDE(欧州自由民主同盟)のCorinne Lepage議員による政治的サポートを問題視している。Lepage議員は、2001/18環境放出指令の改正に当たり、CRIIGEN報告書を欧州議会に持ち込んだという。このあたりの論考は、興味深く飽きさせない。

 「金ではなく、科学とすべての演者の議論の科学的質に焦点を合わせよう」という著者の若々しい正義感に満ちた主張には無条件に共感できる。しかし、どうすればそれが達成できるかについて、著者は述べてはいない。

 そして、GMOなどへのあまりに細分化した専門的な主張や議論の科学的質を、一般市民や政治家が正しく見極めるのは、残念乍ら容易なことではない。他人事のように、上から目線的に書いては申し訳ないのだが、松永和紀氏や森田満樹氏のFoocom.net立ち上げは、一つGMOに限らず、そこへのヘルプを提供していこうという志に、おそらく基づく。もうすぐ発足1年、お二人のますますの精進と発展を期待したい。

 最後になってしまったが、元・独立行政法人農業環境技術研究所の白井洋一氏によるコラム「農と食の周辺情報」 の連載が始まった。白井氏が今までなされてきた堅固なバックデータと的確な分析に基づく情報発信からは、筆者も常に学んできた。論文ではなくても、研究者からの発信を読みこなすには、それなりの努力を読者は求められるかもしれない。しかし、その努力に見合った成果は約束されているだろう。

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