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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

「遺伝子組換え作物の作り方」~原点と立ち位置を知ることの大切さ

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2012年3月19日

 米国内では、今さらながらGM(遺伝子組換え)食品表示問題を巡る議論が沸騰している。この動きに便乗して、勢いを得ているのがGM食品や作物の潜在的危険性を喧伝する一部の傍流メディアやブログだ。無責任に撒き散らかされる神話は、「科学的」には決着がついているケースがほとんどなのだが、どうやら世の中それだけでは収まらないらしい。

 そのような背景から、2012年3月6日の「Washington Post」紙は、GM作物がどのようにして作られるのかを知ることが、議論のベースとして大切なのではないかというコラム記事 を掲載した。書いたのは、科学と環境問題を専門分野とするコラムニストBrian Palmer氏である。

 FoocomやGMO WorldⅡの読者の皆様にとっては、もしかしたら退屈な内容かもしれないが、新年度を控えて、Foocom創設からも1周年、原点回帰という意味も込めて、お付き合いいたければ幸いである。


「遺伝子組換え作物を開発するには技能と幸運、そして用心が必要です」

誰に耳をかたむけるかによって、遺伝子組換え作物は、ペットに与えるのさえ憚られる神をも怖れないフランケンシュタイン食品にも、気候変動後の世界において飢饉に対する唯一の希望にもなります。すべての口論はさておき、どのようにして科学者が植物の遺伝子を組み換えるのかを調べてみるのは興味深いことでしょう。これは普通の農作物が、いかにして遺伝子組換え農作物になるかについての物語です。

 プロセスの第一段階は、有用な遺伝子を見つけることです(ほとんどの場合、遺伝子の組み換えとは、植物体の遺伝子を取り去るか、働きを無効にすることより、植物体に遺伝子を付け加えることを伴います)。これらの発見は、思いがけない幸運なのかもしれません。世界中の科学者たちが種のゲノム地図に明らかにすることに懸命になって取り組んでいます。時として彼らは、菌類と戦うタンパク質を作る遺伝子のような有用な何かを、偶然に発見します。

 しかし、農業の多国籍企業は、ただ幸運に恵まれるためにマニアックな大学研究室からの結果だけを当てにしている訳ではありません。むしろ彼らは、農業の差し迫った必要性を満たすかもしれない遺伝子を探し求めるために巨費を投じています。通常それは、遺伝子の働きを不活性化させたり、強化させたりすることと、それらの結果を観察することから成り立ちます。その変更は農薬への耐性を与えますか? 果物はより速く完熟しますか? それらは、その遺伝子が期待できるかもしれないという徴(しるし)です。

 研究者が、特効的なものをまだ見つけ出してはいませんが、干ばつと高温に対する抵抗性を強める遺伝子は、農業関連産業が欲しいものリストの最上位に現在あります。有用な遺伝子を発見することは、干し草の山から1本の針を探すよりもずっと困難であることを考えるなら、それは驚くべきことではありません。遺伝情報は、植物体に由来するものではなくてもかまいません;それはどこからでも持ってくることができます:バクテリア、菌類あるいは動物からでさえも。

 「基本的に、DNA鎖は動植物で同じです。生体の遺伝子の周りには調整システムがあり、遺伝子がよりよく働くように進化しています。しかし、どんな生物においても、それらは同じタンパク質を作るための遺伝情報となります」と、カナダオンタリオ州Guelph 大学の植物科学者Peter Paulsが言います。

 言い換えれば、少数の有望な塩基対のために、生命系統樹全体のゲノムを、研究者はくまなく調べています。ですから、耐干ばつ耐性遺伝子を探すことは、地球上のどこにでも、どんな干し草の山にでも、隠すことができるたった一本の針を捜すようなものなのです。

 有望そうな遺伝子を見いだすと、研究者はその何百万というコピーを作るために、サンプルを「増幅」させる酵素と一緒に試験管に入れます。それから複雑な部分が来ます:遺伝子をターゲットである作物のゲノムに入れること。

 具体例のために、私たちがトウモロコシをターゲットとしていると仮定しましょう。この研究には費用がかかるので、ほとんどの場合企業がトウモロコシ、ダイズやコムギのような価値が高い農作物のみに着目します。遺伝子組み換えソラマメでは儲かりません。

 トウモロコシのゲノムを組み換えるには、2つの方法があります。ちょっと荒っぽい方法は、タングステンまたは金の微細片に1群のサンプル遺伝子をつけて、トウモロコシの細胞の中に撃ち込むことです。遺伝情報が突然殺到するので、植物細胞はそれらのいくらかを、自身のゲノムに統合しないわけにはいかなくなります。

 しかしながらたいていの場合、科学者はアグロバクテリウムと呼ばれる微生物を使います。Peter Paulsは、アグロバクテリウムをその野生状態での働きのために「自然界の遺伝子工学師」と呼びます。

 普通の状態のアグロバクテリウムがトウモロコシの細胞に感染すると、アグロバクテリウム自身の広がりを助けるために栄養を作るようにトウモロコシを操る遺伝子配列を入れることによって、トウモロコシの細胞機構を乗っ取ります。

 単にバクテリア自身を助けることだけの代わりに、私たちが欲するほぼどんな遺伝子であっても、植物細胞に入れるためにアグロバクテリウムは再プログラミングできることを、研究者たちは発見しました。彼らは、再加工されたアグロバクテリウム溶液にトウモロコシを入れて、バクテリアにトウモロコシの細胞を感染させ、その結果として干ばつへの抵抗性を強めたり、菌類と戦ったりする遺伝子をつけ加えます。

 次に、科学者は問題に直面します:どのトウモロコシ細胞に新しい遺伝配列が結合したのかを、どうやって見分けたらいいのか。

 プロセスは常に機能するわけではありませんし、外見から遺伝子組換えトウモロコシの細胞を識別することはできません。

 この問題を解決するために、科学者が検査するためのマーカー遺伝子を遺伝子に加えます;これらは、トウモロコシの細胞を確認することだけを目的とする遺伝子なのですが、 マーカー遺伝子は、例えばトウモロコシに抗生物質耐性を与えてしまうかもしれません。それから科学者が、アグロバクテリウム-トウモロコシの混合体に普通ならトウモロコシを殺すはずの量の抗生物質を与えます。こうして生き残ったサンプルは新しい遺伝物質-抗生物質耐性遺伝子と検査済みの遺伝子の両方-を、DNAに結合したに違いありません。

 このすべての終わりに、研究者が、遺伝子組換えトウモロコシと呼ばれるための少数の細胞を持つことを希望します。私は「希望」と言いました。なぜなら、どちらかと言えば成功率は低いからです。時として、どの細胞も遺伝子を拾い上げません。他のケースでは、遺伝子組換えが、トウモロコシの正常機能を弱体化させます。

 テストは、基本的に園芸術と同じです。研究者は、遺伝子組み換えされた細胞からトウモロコシ作物の数世代を成長させて、それらが望ましい新しい形質(特徴)を持っているかどうか見るためにテストします。

 農作物を市場に出す前に、企業が大規模な安全性試験をしなければなりません-例えば、潜在的な健康危害要因を調べるために、マウスに大量の新製品を与えることなどによって。

 英国Sainsbury研究所の研究者であるJonathan Jonesは、あなたが遺伝子組換え作物について1つのことを思い出すのを望みます:「30,000の遺伝子を持っている植物に、もう1つ遺伝子を加えたとしても、それは99.999パーセント同一の植物であり、それがヒトの健康に相違を生じさせるかもしれないことは、まずありえません。」

 このことは、栄養と毒性についてだけではなく、環境問題を懸念する反対者を納得させられそうにはありません。しかしながら、フランケンシュタイン食品について人々が悲鳴を上げ始めるとき、少なくともあなたは、どのようにしてその怪物が作られたかを今では知っています。


 以上が、Brian Palmer氏の遺伝子組換え技術に対する平易を心がけたらしい解説なのだが、もう少し詳しく知りたいという方には、筆者も編集に参画し、STAFF((社)農林水産先端技術産業振興センター、現・(社)農林水産・食品産業技術振興協会)が配布していた農水省の「バイテク小辞典」を参照して欲しい、と言いたいところだ。

 ところが、である。漏れ伝え聞くところでは、GMがお嫌いな民主党政権の前・農林水産大臣(2010年6月~同年9月在職)が、一昨年大臣に就任早々、これはGM推進派寄りに過ぎるなどとして、PAのパンフレットもろとも「バイテク小辞典」も農水省に大量廃棄処分させたというではないか。好意的?に解釈すれば、内容が良くご理解できなかったのかもしれないが、それでもこれはないだろう。

 ミニミニ独裁による血税のムダ遣い(GKB48のポスター廃棄も、だよね)は措くとして、問答無用のパワーハラスメントとは、こういう愚挙を指すのだろう。焚書坑儒(今時なら、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」か)や、中世の魔女狩りを想起させる非文明社会的な蛮行であり、ガリレオならずとも「それでも地球は回る」と、権力乱用された担当諸氏はボヤきたいところだろう。

 それならば、と故・「バイテク小辞典」に代わり推薦したいのは、GMOの入門書としては数少ない良書である元木一朗氏の「遺伝子組み換え食品との付き合いかた~GMOの普及と今後のありかたは?」(2011年11月、オーム社刊)だ。そして、実に意味深いことなのだが、そのエピローグにはこうある。

 「『なるべく科学的に、なるべくフラットに、遺伝子組換えを推進する側にも、忌避する側にもつかず、公平なスタンスに立とう』と考えたが、調べれば調べるほど肯定的な方向に向かってしまった。それは私が『科学的に考えよう』としたからに他ならず、明らかになったのは遺伝子組換え作物に関する問題の本質は、『科学』と『感情』の対立だということです。」

 さらに元木氏は、「科学」と「感情」には本来優劣はないのだが、自分の立ち位置を認識し、両者が共存する状態が文明社会ではないのか、と結んでいることを併せて考えたい。自分の立ち位置を認識すべきは、「読者」であるのだが、前述のおじゃまんが前・農林水産大臣も、であることは自明の理と言えよう。

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