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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

隣は何をする国ぞ~アジア諸国のバイテク事情発表会から

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2012年4月30日

 2012年3月の最終週、Crop Life AsiaBiotech Coalition of the Philippines
が共催するthe 6th Pan-Asia Farmers Exchange Programme が、マニラにおいて開催 された。共催者からも分かる通り、毎年開催されているこのイベントの目的は、農家と研究者やジャーナリストを含む他のステークホルダーに対し、遺伝子組換え(GM)作物の利点についての認識を促すことだ。

 今回は、フィリピン以外に中国、韓国、台湾、インド、インドネシア、タイ、パキスタン、ヴェトナムの計9カ国が参加し、プレゼンテーションと意見交換が行われた。以下は、傍聴したパキスタンの記者による2012年4月10日付レポート からの概要。

<中国:研究者の報告>Btワタが、1990年代のCotton Bollworm(オオタバコガ)による壊滅的被害と殺虫剤の過剰散布による農民の中毒(死亡事故もあった)からワタ産業を救い、農家の人気を得た。今や計64品種が存在するBtワタ種子の95%は国内開発品種であり、2011年の栽培面積は71.5%に相当する390万ヘクタールに達し、700万人もの農民が採用している。

中国政府は、2020年までに穀物生産を5億4000万トンに増産する目標を掲げており、バイテク農産物は重要な寄与を期待されている(尚、中国の2011-12年ワタ生産量は、米国農務省USDA調べで1293万トンであり、世界第一位)。

<フィリピン:バイテク連合事務局長の報告>東南アジアで、GM作物規制のシステムを確立した最初の国であり、唯一のGM作物(Btトウモロコシ)商業栽培国である。Btトウモロコシの採用は、雑草処理人件費の大幅な縮小と殺虫剤使用を60%削減したことにより、生産コストを下げてトウモロコシ農民を助けた。

非 Bt品種に対し、BT トウモロコシの反収は34%も多く、この利益も農家にとって莫大である。2003年から2009年までの間で、Btトウモロコシは農家に1億800万米ドルの利益をもたらしたと推定できる。

<インド:バイテク団体理事の報告>大規模商業栽培されている唯一のGM作物はBtワタであり、ワタ栽培面積の驚異的増加はインドを世界第二位のワタ生産国(USDA調べで、2011-12年1150万トン)に押し上げた。

しかし、コメやナスのような他のGM作物導入は、(安全性)論争により打撃を受けた。この問題は、もっとよく農民と論議されるべきであり、GM作物導入のために彼らの懸念は解消されるべきである。

<タイ:農業バイテクセンター役員の報告>GM作物が登場して20年経つが、タイには明白な開発がない。2001年4月3日、内閣の決定により、加工食品と食用、飼料用、工業用のダイズとトウモロコシの輸入と販売を除き、いかなるGM作物の商用目的の輸入と生産及び試験栽培を禁じた。

the Thailand National Biotechnology Policy Committeeは、2003年にthe Thailand GMO roadmapを支持し、2004年にはGM作物の研究開発の状況を「社会のための選択」として、遺伝子工学とバイオセーフティーについての政策を承認してはいるのだが。

<インドネシア:研究者の報告>インドネシアの科学者と政策決定者は、バイテクが潜在的に農業生産を増やすと信じている。しかしながら、1990年初頭にGM作物の研究開発を目的とする複数研究センターが設立された後、今日までこの分野では目立った進展がない。

<パキスタン:Monsantoパキスタン社と農民連盟の報告> 国から正式認証されたGM作物の導入が種々の要因で遅れている。ほとんどすべてのBtワタ種子は適切に保証されず、非公式な供給源から来ている。GMトウモロコシの試験栽培が実施されており、規定された手続きを経たのち商業化されることが期待されている。

バイテク農産物に対する怖れの一部は、科学的根拠というより生物多様性への損害、生態系と人間の健康への影響のようなむしろ将来起きるかもしれない潜在的可能性に基づいている。たとえ、それらが仮定に基づく、全く心理的なものであるとしても、それらは答えられる必要がある。従って、民間・公共の部門を問わず、バイテク作物を開発している組織は、この問題に対処していかなければならない。(記事引用おわり)

 ところで、イベント開催国のフィリピンには、ビタミンA前駆体ベータカロチンを強化したゴールデン・ライス の開発・商品化への取り組みと、冠水耐性や耐塩性イネなどの研究で名高い国際イネ研究所(International Rice Research Institute:IRRI) がホームベースを置いている。イベント中のIRRIのプレゼンに触れた2012年4月7日付記事 もある。

 これによると、世界の人口増を満たすには毎年1.5%ずつ(800万から1000万トン)コメを増産していかなければならない。コメの90%がアジアで生産され消費される。IRRIは、環境上持続可能な方法でコメの品質を改善し、世界の稲作農民が収量を増やせるようゴールデン・ライスを含む新しいバイテクイネの品種を開発しているとのことだ。

 尚、冠水耐性と耐塩性イネについては、2012年4月17日付UPI が、ヴェトナムにおけるIRRIの活動を小特集しており、興味深い。

 メコンデルタの稲作への洪水被害を解決するのが目的だが、洪水に抵抗性のある「scuba rice」を、様々な協力者を得た結果IRRIは既に開発済み だ。

 しかし、これは解決の半分。気候温暖化により内陸部への南シナ海からの海水侵略が拡大しているメコンデルタでは、「scuba rice」といえども塩分でやられてしまう。「scuba rice」に交配可能な塩分に強いイネの品種を見つけ、冠水・塩分の両方に耐性のある品種を作出するのは、IRRIといえどもなかなか困難らしく、研究者も4年はかかるだろうと述べている。しかも、商業品種は一定の収量や良好な食味も求められるから、研究者たちの苦労は並大抵ではない。

 一方、上述の通り、東南アジアで唯一のBtトウモロコシ栽培国として10年目を迎えたフィリピンをハイライトした2012年4月18日付記事 もある。

 2002年12月下旬から、政府は1999年から試験栽培を続行してきたBt トウモロコシの商業栽培を許可した。最初に導入されたのは、トウモロコシ収量を30~40%減らしてしまうAsian corn borer(アワノメイガ)をターゲットとした米国Monsanto社のMON810だ。

 収量維持と殺虫剤投入の60%減少(2006年9月、フィリピン大学ロスバニョス校の研究 )は、トウモロコシ農家の人気を博し、従来のハイブリッド種子からBt種子への置換が進んだ結果、Btトウモロコシ栽培面積は2003年の1万1000ヘクタールから2011年6万9000ヘクタールに急成長した。

 種子開発企業も、Monsanto社に続きスイスSyngenta社、米国Pioneer Hi-Bred社、同Dow Agrosciences社、ドイツBayer CropScience社などが相次いで進出した。この結果、トウモロコシを栽培する8州の農家は、2010年時点でスタック(除草剤耐性や複数Bt形質の掛け合わせ)品種も含めて8系統の承認済みBtトウモロコシから、豊富なGMトウモロコシ品種の選択が可能となっている。

 ご多聞に漏れず、2001年8月の試験圃場破壊など当初はBtトウモロコシへの反対運動もあったが、農家の圧倒的な実績と支持を目の前にして沈静化していったようだ(但し、Btナスの新たな商業化計画はGreenpeaceなどによる抵抗 に遭遇している)。

 気になるBt耐性Asian corn borerの発生については、2012年4月20日付の別の記事 が、伝えている。モニタリングを継続しているフィリピン大学ロスバニョス校によれば、現在のところ耐性害虫の発生は認められ ないとのことだ。

 さて、上記UPIの耐塩性イネに関する記事の最後に、「英国と日本の科学者たちも耐塩性イネの開発に取り組んでいる」とはあるものの、冒頭のフィリピンで開催されたイベントに、マレーシアと共に日本が参加していないのは残念なことだ。しかし、もし参加したとしても韓国、台湾、ヴェトナムもろともパキスタンの記者から「特記事項なんてなし、以下省略!」扱いされたらもっと悲しい、と思いませんか?

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