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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

深刻化する除草剤耐性雑草~傾向と対策

宗谷 敏

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 2012年5月、世界を代表する科学誌である北米の「The Scientist」 と英国の「The Nature」 が、相次いで除草剤耐性雑草の問題をフィーチャーした。2010年5月3日付の「The New York Times」は一歩先んじた形だったが、両科学誌を突き動かしたのは2012年5月10日にthe National Academy of Sciences(全米科学学会)が招集した「Superweeds」サミットである。

「雑草の復讐~Scientist」の概要(リンク先は筆者が追加しています)

進化生物学上は、毒素に抵抗する生存者が必然的に選択され、それら少数の個体は生殖の利点を増やして、増殖する;時には、最も強力な化学物質でさえそれを止められません。何年間もこの話は、抗生物質抵抗性とがん研究の分野で話題を作ってきましたが、最近の主役は植物になりました。

世界中の雑草が、市場で最も一般的な除草剤グリホサートに対する抵抗性を発達させつつあり、多くの雑草が複数の他の毒素にも耐えられるようになりつつあるのです。1月には、カナダのアルバータ州において、グリホサートから生き延び、さらにALS(アセトラクテート合成酵素)の活性を阻害するタイプの農薬にも抵抗性を持つ kochia(ホウキギ) の蔓延が確認 されました。

米国でも、最近テネシー州でpalmer amaranth(pigweed、オオホナガアオゲイトウ)が、(カナダと)同じ二種類の農薬に対する抵抗性を発達させました。カリフォルニア州のブドウ園でも、グリホサートとパラコートの両方に耐性のあるhairy fleabane(アレチノギク)が見つかっています。

International Survey of Herbicide Resistant Weeds によれば、世界的に見ると23種の雑草がグリホサート抵抗性を発達させ、これらの少なくとも10種類が同じく他の除草剤に対する抵抗性を発達させています。

ワシントンD.C.のthe Center for Food Safety は、これらの数は過小評価だと考えている。抵抗性雑草とは、4回の除草剤散布に耐えたものを言うが、いくつかの雑草がそれ以下のレベルのグリホサートに耐えており、これらも畑には大きな影響を与えているからです。

アラバマ州では、ダイズ畑の61%とワタ畑の80%にグリホサート耐性palmer amaranth(pigweed 、オオホナガアオゲイトウ)がはびこり、各々の収量の減少は年間7100万ドルと1090万ドルの損失を、農家に与えています。

遅い進化速度は、耐性雑草をありそうもなく思わせます。単一の除草剤抵抗性を起こす突然変異は10万分の1であり、二つの抵抗性の場合は100億分の1以下です。初期の産業がスポンサーとなった研究は、グリホサート耐性は起こりそうもないことを示唆しました。しかし、この主張は甘かった。そして、抵抗雑草は本当に出現したのです。

ほとんどすべてのダイズとワタとトウモロコシの大きいパーセンテージに農薬が広域に用いられる時、選択圧はあまりにも強烈です。グリホサートの使用量は、2000年にトウモロコシに用いられた4百万ポンド程度から去年の6千5百万ポンドまで、劇的に増加しました。

Monsanto社は、1996年にRoundup Readyダイズとカノーラ(ナタネ)をリリースし、ワタとトウモロコシがこれらに続き、2001年までにGM(遺伝子組み換え)農作物は何百万エーカーにも拡大しました。グリホサートは1970年代から存在していましたが、除草剤耐性GM作物が出現するまで、抵抗性雑草は重大な問題になってはいませんでした。

しかしながら、Monsanto社によれば、過剰使用が問題なのではなく、解決は単純に異なった2番目の除草剤を使用することです。「問題はグリホサートが繰り返し何度も、たったそれだけで 使われるということです。2番目の作用形態を使うことで抵抗のリスクは減らせます。」

5月10日のサミットで、the Weed Science Society of Americaが発表したレコメンデーションは、除草剤使用を最少にすることに加えて、農家が長期的に除草剤の効果を保つために使用する化学物質を多様化することを提案しています。開発メーカーが計画している化学物質を結合させることは、潜在的に両方の除草剤に対する多剤抵抗性を与える一般的なメカニズムに選択するチャンスを増やすから、常に上手くは行かないだろうというのが、研究者たちの見解です。

多剤抵抗性が起きるという科学的データと、9カ国における実績がすでにある一方、これを根本的に制御すべき技術的理論・手法は確立されていません。そして、Monsanto社は、グリホサート・ジカンバ耐性ダイズを、Dow社は、グリホサート・2,4-D耐性トウモロコシを投入するリスクを冒そうとしているのです。

「雑草との戦争は形成が不利に~Nature」の概要(リンク先は筆者が追加しています)

Monsanto社のベストセラー除草剤グリホサートに耐性を持った雑草pigweed(palmer amaranth、オオホナガアオゲイトウ)の出現が、GMワタやダイズを栽培する米国南東部の農家を悩ましているが、それは特殊な状況ではありません。一種類もしくは複数の除草剤から生き残る383種類の雑草が既に知られているからです。薬剤耐性が医療産業のゲームチェンジャーであったのと同様、耐性雑草は農業のゲームチェンジャーです。

従来からのアプローチは除草剤を切り替え、それに耐える農作物を設計することであり、現在USDA(米国農務省)が承認を急いでいるDow社のグリホサートと2,4-Dに耐性を併せ持つトウモロコシなどがこれに相当します。両方の除草剤に抵抗する雑草が存在する確率は、非常に低いとDow社は主張します。

しかし、2,4-D は(最も有毒ではないにしろ)ベトナム戦争で使われた枯葉剤「Agent Orange」の成分の1つであったという過去から、環境保護団体がDow社の申請に反対しています。また、研究者たちも、この自然界の軍備競争には警戒心を抱いています。多くのアナリストが、多耐性雑草の出現を早めることになるだろうから、このアプローチは近視眼的で、失敗を運命づけられているのではないかと感じています。

多耐性雑草出現への脅威は、雑草防除のより古い方法の復活を促しました。例えば、カバークロップとしてライ麦を植えることは日光を阻害して、発芽する雑草の数を75%減らします。機械的なアプローチの新考案としては、作物を収穫すると同時に雑草の種子の約95%を拾い集めて、砕いてから畑に戻す刈り取り機が、オーストラリアのメーカー によって開発されています。

USDAと農薬産業は、微生物を用いた生物除草剤の使用を研究しており、カリフォルニア州のMarrone Bio Innovations社の生物除草剤が、5月17日にEPA(米国環境庁)により認可 されました。主成分は、土壌バクテリアの放線菌から得られ、雑草の細胞分裂を混乱させます。このような解決は、より環境にやさしいかもしれませんが、やはり使われ過ぎたなら抵抗を引き起こすかもしれません。

ほとんどの専門家が、「銀の銃弾」だったグリホサートが無くなった後の時代に、以前の雑草管理に回帰する複雑さ-作物ローテーション、栽培法、耕作法、適切な除草剤処理など-に同意しています。それはより多くの時間と、より注意深い管理の必要性と、おそらくより多くの経費がかかるでしょう。(記事概要終わり)

 以上を整理すれば、

1)除草剤耐性雑草の発生は、進化生物学的に自然の摂理であり、不可避の問題。
2)除草剤耐性GM作物の導入により、グリホサート耐性作物が農家の人気を博して急拡大した結果、予見されていたグリホサート耐性雑草問題が顕在化してきた。
3)米国の南部ではすでに深刻な問題となっているが、主産地の中西部ではまだ予兆程度。しかし仮に、ここで問題が起きれば米国農業の壊滅を招きかねず、世界がパン籠を失う悪夢も(但し、この惨劇は突然一気に起きる訳では無く、ボディーブロー効果である)。
4)そうはさせじと開発メーカーは、複数の除草剤に耐性を持たせたGM作物の投入で、危機的状況を乗り切ろうとしているのだが、
5)この問題における米国の最高権威を結集した「Superweeds」サミットで、研究者たちはすでに世界で発生しつつある多剤耐性雑草の出現を誘発し、早めるリスクがあるとして、このアプローチにはすこぶる懐疑的。
6)結局、除草剤の使用自粛と化学成分の多様化、クラシックな雑草管理法や生物除草剤を組み合わせるなどの方法による農家の理解と自制に頼るしかない。
ということになるらしい。
 追い込まれると画期的ブレークスルーをひねり出してきた人類の叡智に期待したいところだが、この問題に限り新しい「銀の銃弾」は今のところどうやら期待薄のようだ。

* 読者である研究者の方から、雑草の和名及び表記に関してご指摘を頂きましたので、下記の通り訂正致しました。

(1)palmer amaranth(pigweed)の和名を、 アオゲイトウからオオホナガアオゲイトウに訂正。

(2) hairy fleabane(荒れ地野菊)の和名表記をアレチノギクに訂正

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい