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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

USDAがGMサトウダイコンの最終EISを発表~栽培の全面規制緩和へ

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2012年6月11日

 2012年6月1日、USDA(米国農務省)は、GM(遺伝子組換え)サトウダイコン(テンサイ)に関する最終EIS(環境影響評価)を発表した。全国環境政策法令(NEPA)を主管するEPA(環境保護局)による6月8日付官報告知(EIS No. 20120178)や30日間のパブリックコメントを経て、作付けシーズンの秋までには完全な規制緩和(農家は自由に栽培できる)に持ち込む作戦だ。

 一方、GMサトウダイコンやGMアルファルファで問題が顕在化したUSDAのGM作物規制に対する司法介入の影響を回避しようとする動きが議会筋にあることを、6月5日付Reuters が伝えている。

 これらの背景に関しては、2011年4月3日付の拙稿で概要を整理したので、当該部分を再掲する。

GMアルファルファとGMサトウダイコンの栽培禁止裁定:2007年5月、北カリフォルニア州地方裁判所(Charles Breyer判事)は、不十分とされたUSDA(米農務省)によるEIS(環境影響評価)が完了するまで米Monsanto社の除草剤耐性GMアルファル ファの栽培を禁止し、09年6月の控訴審もこれを支持した。しかし、10年6月21日最高裁はこれらの裁定を下級裁判所に差し戻した。

 USDAは、10年12月17日最終EISを公表し、栽培方法のオプションとして共存政策を示す。この可否を巡り、栽培禁止の主導者であるオーガニック業界は内部意見に亀裂を生じる。このスキを突いて11年1月27日、USDAのTom Vilsack長官は、GMアルファルファの規制を緩和し栽培を無条件で認めると発表した。しかしながら、これを不服とするCFS(the Center for Food Safety)などが、3月18日サンフランシスコで連邦裁判所に再提訴し、「No end in sight for biotech battle」となっている。

 CFSなどは、08年1月23日にGMサトウダイコンに対しても同様の訴訟を起こしてお り、09年9月22日に北カリフォルニア地方裁判所(Jeffrey S. White判事)から、「EISを不要としたUSDAは違法」との裁定を勝ち取った。そして、10年8月13日、地方裁判所はGMサトウダイコンの栽培を 禁止する。米国の砂糖原料の半分はサトウダイコンで、その95%がGMだったために、そのインパクトはGMアルファルファ栽培禁止以上であった。

 「使うのは根だから、花粉が飛ばないうちに収穫しちゃえばいいのだ」という一休さんみたいなUSDAに立腹したWhite判事は、10年11月30日ついに畑のGMサトウダイコン破壊命令を出す。ところが、11年2月25日連邦控訴院は、USDAとMonsanto社の控訴を認め、地裁の栽培禁止措置は越権とする逆転判決を出す。この結果、11年2月4日にUSDA /APHIS(動植物検疫局)が発表した部分的な規制緩和(条件付き栽培承認)に基づき、GMサトウダイコンの春蒔きが農家は可能となった。

 環境保護団体やオーガニック農家が、これらの訴訟を起こす拠り所としているのは全国環境政策法令(NEPA)であり、必要とされているUSDAの環境アセスメントが不十分だという主張である。(再掲終わり)

 その後の経過について記せば、先ずGMアルファルファに対するCFSやEarthjusticeによる再提訴は、2012年1月5日サンフランシスコ連邦地方裁判所(Samuel Conti判事)により却下された。

 尚、2110年6月の最高裁差し戻し判決に至るまでの詳細については、宮城大学食産業学部フードビジネス学科三石誠司教授による素晴らしい論考が、社団法人農協共済総合研究所の定期刊行物「共済総合研究」第63号に掲載されている。本国米国も顔負けのたいへんな労作なので、是非ご一読を。

 活動家たちは、その後Monsanto社がUSDAの承認前に(種子生産用)GMアルファルファを栽培しており、USDAもそれを知りながら看過したなどと2012年5月に新たな疑惑を申し立てているが、もう飽きたらしいメディアからは無視されている。

 さて、GMアルファルファに続きGMサトウダイコンについても、APHIS (動植物検疫局)から発表されたこの最終EISのUSDAによるRecord of Decision(正式判断)をもって、農家は自由にGMサトウダイコンを作付け出来るようになる。2011年2月4日にUSDAが発表した現行の部分的な規制緩和措置においては、GMサトウダイコン栽培に当たり農家は、近縁種作物からの隔離距離遵守やモニタリングなどを必要条件として要求されている。

 しかし、本件周辺は依然として火種を抱えている。USDAに対抗する勢力は、部分的な規制緩和自体がNEPAに違反しているという訴訟を起こしており、6月22日には口頭弁論が予定されているからだ。USDAによるGMサトウダイコン全面規制緩和の動きが、この法廷論争に与える影響は、今のところ読めないという。

 最後に、冒頭に示したこれらに関連する議会の動きについて。米国下院歳出委員会の農業歳出小委員会が作成したUSDA予算案に埋め込まれた「Rider」が、CFSなどから問題視されている。「Rider」とは、審議される法案の趣旨とは直接関係の無い付帯条項のことで、立法手続き中にそれ自体が法案としては通過しにくい論争的な条項を通過させる手段として、通常用いられる。

 問題の条項は、USDAがその作物を栽培するのが安全であるかどうかを決定するために「必要とされるいかなる分析や協議」を完了する間にあっても、USDAに対しGM作物栽培を承認することを許すというものだ。即ちこれは、当該作物の安全性に関して法廷闘争中ではあっても、GM作物を栽培することを農家に許すものだと、CFS所属弁護士のGeorge Kimbrell氏は怒りを露わにしている。

 米国下院 のログを調べたところ、この条項は、6月4日に歳出委員会から下院に対し趣旨説明が行われた歳出委員会承認済み予算法案 中の85ページの13行目から86ページの12行目に記載されているSEC. 733.に、相当するもののようだ。

 この「Rider」条項を含む予算案が議会を通過したなら、「完全なEISを怠ったことは他法令のNEPAに違反している」といういわばUSDAの失点を突いた形のCFSやEarthjusticeによる行政訴訟は、殆どその実効性を失うことになるからKimbrell弁護士の怒りは当然だろう。

 GM作物を推進してきた米国において、その実効経済性と環境保護を理由とした主張とのコンフリクトを巡る論争は、今後も果てしなく続くようだ。

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