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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

カリフォルニア州GM食品表示法案の研究(下)~日本市場にも影響か?

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2012年9月7日

 2012年11月6日に州民投票が予定され、現在のところ成立する見込みが高いと伝えられるカリフォルニア州のGM(遺伝子組み換え、以下原文にGEとある場合はこれに従うが意味は同じ)食品表示法案(Proposition37)を検証している。9月3日の(上)及び9月5日の(中)に続く最終回だ。

 日本の表示が(中)の最後に述べた制度的欠陥をクリヤーしているのは、原料への閾値設定以外にも対象品目を加工食品全体に無闇に網掛けせず、果菜類とは異なりバルク流通している主な原料農産物の実態を調査研究の上、科学的な知見も加えて細かく絞り込んだからだ。精製食用油のようにGMされた遺伝子(DNA)や発現するタンパク質が破壊・除去されて検証さえままならず、実質的にnon-GM製品となんら相違のない製品へは表示義務を課していない。

 (中)で例示したコーンスナック菓子の例で考えれば、食品メーカーは原料のコーンのみの閾値5%に留意すれば、揚げ油の供給元や原料閾値のことまであれこれ心配する必要がない。これは、食品メーカーと違反を規制すべき行政側に実行可能性を担保し、ムリな制度設計により徒に違反者を増やす愚を避けている。

 他方、Prop 37のカリフォルニア州では、そうは行かない。原料供給元の立場からは、宣誓陳述しか求められていない自社商品に対し、川下の食品メーカーからの面倒な0.5%のビジネス上の原料(食品)閾値要求に応ずべき法的責任は一切ない。

 そうなると、どうしてもGE表示を避けたい食品メーカーは困ってしまい、その行き着く先は輸出向けも含め市場規模が小さいnon-GM認証原料の調達ということにならないか。そうなると、限定的ではあるが影響が、日本や韓国にも及んでくる可能性がある。

 それは、non-GMというニッチな日本市場を直撃するかもしれない。米国の大手食品メーカーが、non-GMダイズやトウモロコシを、ダイズの場合はフード・グレードである価格差を無視して緊急避難的にカリフォルニア市場向けに大量購入し始めたら、日本への供給を今まで通り確保できるのだろうかという疑問が浮上するからだ。国内で調達できなければ、米国以外のnon-GM農産物まで手を出すかもしれない。

 (農家との)契約栽培だから大丈夫だろうという考えは甘い。non-GM原料確保への米国内の取り組みは、2014年7月1日のカリフォルニア州法令施行を待って、という呑気なことにはならないから、2013-14年産non-GMクロップは米国内大手食品メーカーへのサプライヤーと日本や韓国への輸出業者との、提示価格・栽培農家囲い込みの争いになるだろう。場合によっては、契約違約金を支払ってでも奪いに出るかもなるかもしれない。

 その帰結的意味は、国際的にnon-GM原料価格のとんでもない高騰と品薄を招くだろう。グレインメジャー(の集荷業者)に本気でnon-GM原料狩りに出られたら、日本や韓国のnon-GM食品市場は縮小や一部撤退を余儀なくされるかもしれないのだ。(米国産)non-GMトウモロコシが払底したとき、販売する製品にGMOを避けてきた一部生協が、一斉にGMトウモロコシの利用に切り替えざるをえなかったことは、記憶に新しい。

 需要に伴って供給元農家も増えるという反論があるかもしれない。しかし、2013-14年の播種用種子の大部分は2012年中に準備されなければならず、しかも種子業界の大勢をGM開発メーカー群が牛耳っているのは周知の通りだ。

 これでは、TPPハンターイ!のように悠長な話どころではない。日本のGM食品反対派でnon-GM食品愛好家は、「素晴らしい制度で、日本の表示制度は時代遅れになる」などと能天気なコメントを出していないで、Prop 37には断固反対すべきだ。一方、GM推進派で日本市場からnon-GM表示製品を一掃したいと考えている方たちは喜んで賛成すべきだ、というパラドクスも成立しかねない。

 もちろん、この制度が成立してもカリフォルニア州の食品市場全体に大した影響を及ぼさないだろうというクールな見方も、米国にはある。従って、米国の大手食品メーカーが、(GM表示制度決定に合わせて日本のように)パニくって一斉にnon-GM原料調達に走るのかどうかも、今のところあくまで不確定要因なのだが、市場動向によっては否定しえないのだ。

 結論として、Prop 37の表示制度は、日本のように現実的な実行可能性を優先させてもいないし、一般の個人による大甘なお気楽提訴を認めているため、EUのように理念的な美しさにこだわった制度だけを作り、実施状況には目くじらを立てないオトナの対応を望むべくもないし、ひょっとしたら日本にとっては有害かもしれない。

 もう一つ、Prop 37は、GM表示を義務化しているEUなどが熟慮の末「表示制度としてはなんら意味をなさない」と捨て去った「May be Partially Produced with Genetic Engineering」という曖昧な表示を許している。このカテゴリーには、① GE100%と、② そこそこGE成分と、③ ほんのちょっぴりGE成分と、④ もしかしたらGE成分ゼロの4種類の(加工)食品が混在してしまい、皮肉なことにこの表示制度の目的に謳われている知る権利に基づく消費者の選択には、あまり寄与しないことになる。

 しかも、この表示制度がこのまま実行されたなら、訴訟リスクを避けたい食品メーカーは、(上)でも紹介したカリフォルニア大学の経済分析報告書によると、従来のnon-GM認証表示食品も含め、この曖昧表示に殺到することも予想されている(この現象が100%になれば、日本などへの影響は回避されるが、精製植物油のような訴訟リスクを伴わない加工食品では、non-GM表示商品が生き残り、拡大するかもしれない)。Non-GM認証食品の市場からの喪失は、当然ながら消費者の選択肢を狭めることになる。

 その結果、州民消費者の選択肢は、どんなGE原料農産物が実際に含まれているか一切分からない(「110809.GE食品の開示」の(b))「May be Partially Produced with Genetic Engineering」表示加工食品(「110809.GE食品の開示」の(a)の (2))か、GE成分の偶発的混入については全く問われないUSDAオーガニック基準に基づき、最初からGE表示を免除された(訴訟リスクを一切伴わない)有機加工食品(「110809.2. GE食品表示―免除(品)」の(g))か、という二択になる可能性がある。そして、このあたりが、この表示制度を立案したグループの隠された意図かもしれない。

 もう少し説明すると、USDA基準は有機農産物には100%有機を要求しGM混入を認めていないが、有機加工食品は95%以上の有機原材料を含むと定めているのみだ。残りの5%にGM成分が入っていることに対する制限は無い。だから、カリフォルニア大学の分析は、「USDAがGM成分の偶発的混入に対しゼロ・トレランスも閾値も定めていない」と述べているのだ。

 実際に含まれている(かもしれない)GE原料農産物や原料食品が具体的に一切分からないのは、GE表示と原料成分表示が独立し、日本の枠内表示のようにリンクされていないからである。GE表示自体を目立たせるためなのか、原料成分表示項目は上位法で決められているからなのかは不明だが、これでは、せっかくGE表示されても、知る権利を標榜する消費者には、依然フラストレーションが残るだろう。

 要するに、この表示制度はGM嫌いでこの世からどうしても抹殺したい一部の消費者運動活動家と、訴訟頻発による収入目的の弁護士たちと、シェア拡大を目論む有機食品のグループに、もしかしたら有機農産物の拡販に熱心な州政府も荷担しての「消費者の知る権利」をお題目にしながら、実は市場での一人勝ちを画策する「有機食品の、有機食品による、有機食品のための表示制度」でしかないのだ。これは、市場でnon-GM認証食品と共に直接のライバル関係にある「Natural」表示も、訴訟リスクをちらつかせて蹴落とす(110809.1.を拡大解釈する州政府の解説)ことからも明らかだろう。この合目的性のみからなら、「誠に素晴らしい表示制度」と言っても過言ではない。

 「Prop 37がより多くの選択肢とより良い情報をもたらすであろうという主張にもかかわらず、そのような制度機能は発揮されることなく、逆にカリフォルニア州消費者に食品市場でより少ない選択肢と、紛らわしい情報に直面することを強いる可能性が高いだろう」というカリフォルニア大学の結論に、筆者の分析もやはり一致する。

 あとがき代わりの雑感を少し書いておく。法制度は明快な実行可能性と規制する検証の確実性を必須条件とすべきで、それらが困難である場合にはガイドラインなど任意の枠組みに留めるべきだ。Prop 37は、規制の難しさを訴訟リスクにより肩代わりさせている点が、巧妙ではあるが、やはり卑怯だ。検討に約2年をかけて日本のGM表示制度を決めた農水省食品表示問題懇談会遺伝子組換え食品表示部会の担当課長補佐が、「守れない制度を絶対に作ってはいけない」と筆者にも度々語っていたのが強く印象に残っている。

 GM食品表示のような対立的要素を含む制度では、三方一両損が原則であり一方三両得はやはりまずい。同じく遺伝子組換え食品表示部会の最終回で、座長が「誰もが不満な表示制度ができた」と総括(議事録では少し「消毒」されている)したのは、これもけだし名言。

 先週、米国中西部のダイズ農家代表との業界ミーティングがあった。Prop 37についてロビートークで尋ねたところ、彼らにとっても関心は高いものの米国一般紙報道以上の知識は持っていなかった。米国内の実態は案外そんなものかもしれないが、是非を問わず敢えて言わせて頂ければ、Prop 37は壮大な規模の社会実験としては、その結果がかなり興味深い。(筆者の分析はあくまで現在の法案条文をベースにしており、州議会などにより今後部分修正される可能性もあること、環境保護に真面目に取り組まれている農家もある有機農業のすべてを批判する意図は毛頭ないことをお断りしておきます。)

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