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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

インドの農民自殺とBtワタ再考~神話vs.統計なのか?(下)

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2013年2月18日

 2013年1月26日と27日に、GM(遺伝子組換え)のBtワタとインドの農民自殺の関連について書かれた海外の記事2本が新しく発表された。この極めて論争的なトピックについて考えるために、これらの記事を・下2回に分けて紹介している。

 二番目の記事は、1月27日にイスラエルの個人資金による非営利ウェブサイト Redress Information & Analysisに掲載された「Indian farmers trapped and desperate 」で、これを書いたGraham Peebles氏は、英国の慈善団体The Create Trust創設者でライター。尚、参考文献へのリンクは原文に貼られている。

「抜き差しならない状況に追い込まれて絶望したインドの農民たち」

 インドは、推計によって-6億人-世界最多の小自作農民を持ちます。この労働者群から貧困に陥って絶望した一人の男、あるいは女性が、負債の締め縄を首に回されて、平均30分ごとに自分自身の生命を断ちます。それは、ここ15年で農村に押し寄せた自殺の高波を示しており、ほとんど理解不能な統計値です。

生きる意志を失います

 農民自殺が悲惨な結末である農業恐慌は、一つの根本的要因に根ざす大災害です、それを「インド史で最も大きな転換」を強制している「地方の略奪的な商業化」を前提とした「企業農業に突き進む動き」であると、(インド)Hindu紙の地方編集者P. Sainathが述べています(訳者注:Palagummi Sainathは「rural reporter」を自称するインドの高名なジャーナリスト)。ショッキングで破壊的ですが、それはインドが直面する相互に結びついた問題のもっと大きな全体の一部として見られるべきです。Sainath は、これを明確にします:「この国全体の政治、経済、社会的な傾向から、この危機を切り離さないでください」と彼が言います。

 農民自殺の数は-人類史上最大で-30万人以上に達したと推計され、私たちが話をしている今も増え続けています。これに、自殺を試みて失敗する1日当たり400人、毎日2,200人の離農者、自殺により影響を受ける150万人の家族たちを加え、さらに悲劇を促進させているこの問題にまさに直面する何百万人を上積みしてみれば、地獄の天秤は明確になり始めます。

 恐ろしいことに、これらの数字は表に出ているものだけです;ほとんどが土地の所有権を持たないため、女性たちは公式データから一般的に除外される8つのグループの一つです。女性たちは、農民として分類されません;彼女らは農民の妻で、その自殺は数字に含められません。NewYork大学の人権と世界の正義センター(HRGJ)によれば、同じく統計値から除外されるのが、自殺した農民の家族たち-農地を引き継いで、その後に負債により自殺する人たち-です。同じく、Dalitと土着の Adivasi (訳者注:不可触民、故国を喪失した先住民などいずれも社会的マイノリティを指すが正確な定義は難しい)のような人々も、彼らの生活や死を無視する政府のために数字には現れません。

 この自殺流行の主因は、銀行と金貸しへの債務です。しかし、負債の陰に隠されているのは、あらゆる農業支援を打ち切り、潅漑に投資せず、農村のクレジット枠を改善せず、生産物買い取り条件を付けた代替種子を農家に提供しなかった-GM種子購買を除いては-政府による20年間の市場自由化です。政府統計値を用いて HRGJ によって描かれた悲観的展望は、何よりの証拠です。それは「1995年から2009年の間に241,679人のインド農民が自殺した」と述べます。彼らの大部分は、換金作物-特にリスクのあるワタ-を栽培する農民でした。すべてワタの主産地であるMaharashtra、Andhra Pradesh、 Karnataka、Chhattisgarh、Madhya Pradesh、Tamil NaduとWest Bengalの諸州で、自殺は最も多いのです。

高まりつつある不利

 国際通貨基金と世界銀行によって計画され、受け入れさせられた経済自由化の結果として、Sainathが「 McEconomics-それは世界中どこでも同じ味です」と名付けた世界市場に、インドは組み込まれました。国家は次第に公共部門から撤退し、「ますます実業界と超エリートのための仲介者」になりました。農民に対する国家の支援が打ち切られたため、インドは巨大な規模の外国企業と彼らに等しく巨大な自国のパートナーに開かれました。

 HRGJ が明確にするように、外国の多国籍企業群は「彼らの生産物価格を、自国の農業補助金制度の結果として人為的に低く設定しました」から、インド(とアフリカ)の農民のコストに影響を与えて、大きな強みがありました。

 第二に、これも等しく破壊的ですが「インド政府による輸入割り当てと輸入関税および関税率の撤廃は、これらの(市場)参加者が彼らの生産物の国内への輸入をより割安にしました」。一方で、およそ20年前に実施されたこれらの政策は「大多数が身を削る貧困に耐え続けているうちに、これらの増加分は不公平に配分され、主として国のエリートのために役立って、劇的な経済成長の先駆けとなるのに役立ちました」。

 よくある話ですか?企業政策における政治的な忠誠とは、企業としっかり結びつき、市場原理主義における政治家の義務とは、人間か環境のコストにかかわらず成長と最大利益を促進させ続けることです。

遺伝子組換え騒動

 多国籍企業の侵略に伴い、彼らが好んで使う農業兵器-GMワタ種子が来ました。その有効性に疑わしい証拠があるにもかかわらず、一部のインドの州では非 BT種子を買うことが現在不可能である限りにおいて、MonsantoのBT種子はインドの市場を水浸しにしました。

 選択肢を失い、全国を覆い尽くす広告と理想的な状態で行われた誤解を招くデモンストレーションに説得されて、農民の95パーセントがローン契約をし、New York Times紙によれば「従来の種子の3倍から8倍も高価な」GM BT種子に投資しました。品薄に乗じて、公認の種子販売代理店の他にブラックマーケットがはびこり、「1袋当たり2,000ルピー(38米ドル)もする高い価格は、GM種子として海賊版種子の違法な大量販売につながりました」。

 因みにすべてが同じ会社によって供給された種子、肥料と殺虫剤のコストは、対前年比で増加しました。1人の農民がNew York Times紙で説明しています。「古い殺虫剤はリットル当り200ルピーでしたが、今では2,000から3,000ルピーのコストがかかり、毎年ますますそれを使用する必要があります」。政府投資の破綻と同様に少ない収穫量と低い市場相場によって、インドの農民はますますローンに依存し、逃れられない負債サイクルに陥ります。

 非常にコストがかかることに加えて、BTワタ種子はずっと多くの水を必要としますが、種子パッケージの英文の使用説明書と水の警告を読むことができないインドの農民からは隠されているのが事実です-おそらく予期せぬ企業の見落とし。貧弱な潅漑から、ほとんどの農民は降雨を当てにします。モンスーンの雨が降らなければ作物も実らず、返済と翌年に農業を続けるためのさらなるローン計画の多額の負債が農民に残されます。政府が水道(私たちが信じがたい思いで首を振るように)と潅漑水路の民営化に突き進み、おそらくインド企業にこれらを売り払うので、インド農民の活力源はさらに欠乏する危険があります。ここでDalit や Adivasi 農業協同組合に農民が参加していることを、人は疑います-これっぽっちでしかない参加民主主義のために。

 GM種子の批判者が「増加するコストと負債スパイラルに対する解決は、有機と環境に優しい農法への移行である」と主張します。「そして、これらは単純で、コストがかからないロー・テクノロジーです-殺虫剤やGM種子の高いコストは不要です」と、New York Times紙は報告します。当然ながら、Monsanto社はこの社会的悲劇への異なる解決法を提案します:単収を増やすべく「もっと BT 種子を買ってください」。負債が、水不足、高価な BT種子の影響によるものだという主張は疑わしく、「誤報」であると断言して、当然ながら彼らは農民自殺に対するどのような責任からも身をかわします。すなわち、企業責任とは初めから終わりまで市場利益を意味します!

負債の遺産

 自殺した農民の負債は、悲しいかな、彼と一緒に死にません:ローンは、多くの場合は最後に自殺を繰り返す被害者の妻(または夫)の責任になるだけです。一部の家族では、2つあるいは3つの自殺を目の当たりにします。貧困状態にある家族の負債の山に持参金が加わります。未亡人は莫大な負債の耐えられない重圧にさらされ、娘たちに伴侶を見つけなければならないという負担から、絶望のあまり自殺に走るかもしれません。

 負債のサイクルは死のスパイラルを産み、多数の苦しみを広めました;父親か母親を自殺で失った子供たちは学校や大学を去って、農場で働くことを強いられます。何千人かを代表する1人の若者を、Sainath は描きます:「準備ができていない境遇に放り込まれて、どんなに怖がっているか目が物語っている子供を、私は見ます」。1960年代と1970年代には、インドでも農業改革が提案され、Sainathが関与した農民反乱がありました。しかし1990年代と2000年代には「集団自殺と絶望があります」、誰もがいたるところで、企業の政治的なプランとあらゆる商業化をまったく妨げようとしない結果として。

 自殺の蔓延を考えると、インド政府は驚くべき無視に関して、道徳上そして法律的に有罪です。詰まるところ、すべての基本的な国際人権諸条約の署名国として、政府は農民と家族の人権に敬意を払い、保護し、見守らなければなりません。それらに代わり、企業政策に足並みを揃えて、基本的人権がふんだんに無視され続けています。HRGJ によれば、基本的人権は生命に対する権利、しかるべき生活水準を保つ権利、就労への権利、十分な食料を得る権利、水への権利と健康に対する権利を含みます。それらの責任を果たす代わりに、最も無難な官僚主義的手法に従い、危機調査のために一連の委員会を政府は設置しました。 Sainath によれば、これがインドのやり方です:「欲する報告書を誰かが出すまで、委員会が組織され続けます。例えば農民自殺について13の報告書が出されました」。 これらは、インド社会の最も弱い立場の人々の人権は無視するけれど富裕層を助成し、深い絶望に陥った農民が果てしない負債の拷問から逃れるために農薬や殺鼠剤を飲むのを先送りしていることから、政府に対する注意を無意味にそらすものです。

 政府の行動と無活動は、「地方を商業化する」ために働くことを熱心に望んでいる企業には連帯と共有利益の、そして農民と地方共同体には明確な無関心のメッセージ送ることで、危機の炎を煽りました。多くが何世代にもわたり土地を耕してきて、今や彼らを押しつぶしている経済原理主義の機構に立ち向かうことができない、地方に住み社会的に無視された男性たち、女性たちと子供たちのために、行動すべき道徳的・法的義務があるインド政府による見せかけの民主主義の恥ずべき血の赤い染みが農民の自殺なのです。

(Redress Information & Analysis の抄訳終わり)

 さて、これら2本の記事を読み比べた感想は如何でしょうか?良く書けてはいるが所詮女子大生のレポートと鼻白むか、嫌いな企業に過剰に責任転嫁して、インドの農民を騙されやすいお人好しと決めつける手垢のついたBt ワタ大惨事神話の繰り返しにすぎないと苦笑するか。

 2本の記事に共通しているのは、農民自殺は基本的に政府による無為無策の失政が招いたという指摘のみ。Btワタの関与に関する結論は正反対ながら、先入観を排除して読めば、双方がそれなりの説得力を持つ。論旨展開や引用振りに瑕疵や多少の強引さがあるのも仲良く引き分けだろう。

 本稿を読むほどの読者なら、問題意識と知見を既にお持ちだろうから、あれこれ欠点を指摘はしないが、一つずつ挙げれば統計を利用して神話の打破を試みている(上)で紹介した女子大生ライターは、自殺農民数、同国民全体数、時間当たりの自殺者数、10万人当たりの自殺者数などが、恣意的に使われているので注意が必要。

 但し、これは(下)の慈善団体創設者ライターとても同じことだし、Btワタ種子が高単収を理由に一般的にインドの農家から支持を得ていることは否定しえない。需要と供給が市場を決める自由経済社会において、非Bt種子が入手できないから売れているというのは疑わしい説明だし、人気のないものにコピー商品(海賊版Bt種子)は存在しえない。

 これでは、読者としてはどちらを信じるべきか迷い、結論を出せないだろう。部分的に同じ論文を引用しながら、正反対の結論が導き出されているのも、反論への反論に再反論というループ構造なのも、この問題の複雑さと正確なデータの欠落を雄弁に物語る。

 Btワタと農民自殺の因果関係については、Btワタ導入により自殺者数は増えてはいないことは統計的事実だが、Btワタが原因で自殺した農民は一人もいないとは言い切れないし、自殺した農民のすべてがBtワタのせいだというのも言い過ぎだろう。

 真実は、その両極論の中間のどこかにあるのだろうが、今のところその正しいポジショニングは誰もなしえない。だから、読者のフラストレーションと同様に筆者の食い足りなさも依然解消されない。この問題の解明について進展があれば、また改めて報告したい。

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