科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国Prop.37敗北以後のGM食品表示要求運動はいま(下)

宗谷 敏

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 2012年11月6日、カリフォルニア州における遺伝子組換え(GM)食品表示州民投票(Prop.37)の否決以後の米国内におけるGM食品表示を求める運動の状況を上・下2回連載で整理している。下は、州別の動き(ABC順)の続き。

 個々の州別の動き(ABC順、続き)、年号がない月日はすべて2013年。

<東部メリーランド州>
 下院でGM食品の情報公開と表示を必要とする法案HB903が提案されたが、審議を行った健康・政府事業委員会の報告が議会で2月26日に撤回された模様である。

<中西部ミネソタ州>
 2月21日、下院議員9名が支持するGM食品と種子への情報開示(表示)を要求する法案HF850が提案された。2月28日には上院でも表示無しでGM食品と種子を販売することを禁じる法案SF821が提案された。

<中西部ミズーリ州>
 2015年9月1日までに、州内で生産され、ヒトの消費のために販売されるすべての肉と魚製品にGM表示を必要とする法案SB155が上院で提案され、農業・食糧生産・屋外資源委員会が審議中だ。穀物主産地なので、当然ながら作物類は問題にしない。

<東部ニューハンプシャー州>
 5人の下院議員が支持して2014年7月1日からGM食品と農産物には表示が必要とする法案HB660が州議会に提出され、下院委員会で2月28日現在留保されている。

<東部ニュージャージー州>
 上下両院で、州内で販売されるGM成分を含むすべての食品への表示を義務づけるA 2955/S1367とA3192およびクローン動物と子孫由来食品への表示を必要とするA1192などが提案されているが、2月現在委員会での審議は開始されていない模様だ。

<南西部ニューメキシコ州>
 上院議員がGM食品表示法案SB18を提出し、社会問題委員会を5票対3票で通過した。しかし、上院は、社会問題委員会報告を採用しないことを票決し、この結果1月31日にSB18は廃案となった。

<西部オレゴン州>
 GM食品表示に関しては老舗の州であり、2002年11月5日に全米初のGM食品表示義務に対する州民投票が実施されたが、7割以上が反対し法案導入は見送られた。今年1月には、下院でGM食品表示法案HB2532が提案されている。

 また、郡にGM製品を禁止する地域を確立する権限を与えるHB2715、州内でGMアルファルファ栽培を禁止するHB3290、一定の安全性条件を満たさないGM作物の栽培や流通を禁止するHB3292など、過激な規制強化法案の提出が目白押しだ。

 なお1月10日、州内のジャクソン郡では、GMテンサイの交雑懸念から医療と研究目的を除くGM栽培郡内禁止を要求する住民発議が規定数をクリヤーし、2014年5月に郡民投票が行われると発表された。

<東部ペンシルベニア州>
 3月12日、州議会上院議員が、GM食品表示法案 SB653を提案すると発表している。

<東部バーモント州>
 2011年と2012年に下院がGM食品表示法案立法を試みたが、いずれも失敗している。2012年は4月20日に下院農業委員会が9票対1票で法案を通過させたが、バイテク産業ロビイストが州政府に訴訟を警告したため、州議会は法案を廃案とした。

 今年になっても、40名以上の下院議員が支持するHB112が提案され、3月1日に下院農業委員会を通過した。法案は州議会に送られる前に司法委員会がチェックすると見られているが、州知事が訴訟問題に強い懸念を表明しており、先行きは不透明だ。

 上院でも、GM食品表示を含むGM規制改正案SB89が、上院議員10名の支持を得て提案され、農業委員会で審議中である。

<西部ワシントン州>
 カリフォルニア州と同様にGM食品表示を求める住民発議Initiative522が35万人分の署名を集め、(2013年)11月の州民投票が予定されている。住民による違反訴訟頻発が懸念されたProp.37の失敗に学び、州検事総長に罰則に係わる司法権を一任しているのが特徴だ。表示実施の権限は州衛生局の管轄になる。しかし、2月17日のSeattle Times紙は、この動きに対し否定的な社説を掲げた。

 州議会の動きとしては、表示を含むGM規制を地方自治体の専権にしようとする下院の改正法案HB1407SB5167が提案されており、上院でも、5人の議員によりGM食品の情報開示に関する法案SB5073が提案されている。

 なお、州内のサンフワン郡(人口約16,000人)は、2012年11月6日の住民投票で、
GM作物郡内栽培禁止令Prop.2012-4を、賛成5,183票対反対3,329票で成立させている。

 こうして並べてみた以外にも、30以上の州がGM食品表示に関する法案導入を考慮しているらしい。住民発議としてはワシントン州のI-522が、2013年11月に投票が予定されているが、諸州の中で最大の人口とイタリア一国に匹敵するGDPを誇るカリフォルニア州のProp.37の影響力とは比べるべくもないだろう。マイナーな州なら、食品企業はその州だけのためにGM食品表示などせず、「お求めになりたい場合はお隣の州へどうぞ」という対応も可能だろう。

 また、星の数ほどあれこれ議員立法が行われる米国の各州議会の動きも、実はローカルメディアが騒ぐほどたいした問題ではないのかもしれない。州によってはもともと連邦法に準拠している既存の州法を改正して、連邦法にはないGM食品表示をさせようとしているから、これには木に竹を接ぐムリがあり、「貼らせればいいだけだろう」という提案議員のポピュリズム迎合のパフォーマンスだけが目立つ。細かい技術検討が行われたフシはない。

 しかも、各州のローカル事情で方法や内容はてんでんばらばらだから、食品企業側の実行可能性は疑問だし、農業部門やバイテク・食品業界からの反対や連邦法との整合性を問題とする違憲訴訟の可能性など、担当委員会、上・下両院州議会のハードルは相当高いため、次に起きるのは各州で廃案の嵐ということが予想される。

 国会での議員立法の進展も現実的にはかなり難しそうだとするなら、やはり注目されるのは(上)のはじめに書いたFDAへの請願や企業ブランドをターゲットとする全国横断ベースの動きと流通業界が鍵になりそうだ。

 3月8日の米国メディアは、Whole Foods Market社が2018年までに販売するすべての食品にGM表示をすると発表したことを一斉に伝えた。テキサス州に本拠を置くWhole Foodsは、米国・カナダ・英国の345カ所で店舗を展開する大手食品チェーンではあるが、もともとNon-GMやオーガニック食品など自然食品販売をウリにしてきた企業なので、影響は限定的だろう。

 流通業界でカリフォルニア州級のインパクトを持つ企業を捜せば、やはり世界最大の売上額を持つスーパーマーケットチェーン大手のWal-Mart Stores社だろう。同社は、2012年夏、Monsanto社のGMスィートコーンを表示なしで販売しようとしたため、GM食品反対派からターゲットにされたが、コンプライアンス上なんら問題はないとして屈しなかった。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい