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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

Nature誌が「ウソ」と断定~Btワタとインド農民自殺の因果関係

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2013年5月14日

 インドのBtワタ導入により農民自殺が増加したという説については、2013年2月に(上)(下) 2回にわたり賛・否両論を紹介した。この時には、今のところ正しい結論は得られていないので、この問題の解明について進展があれば、改めて報告すると約束した。

 2013年5月2日刊のNature誌Vol. 497は、「植物バイオテクノロジー~傷つけられた有望な見込み」という特集を掲載しており、GM(遺伝子組み換え)作物が誇大宣伝と憎悪を生み出しているとして、様々な角度からの検証が試みられている。

 「ケース・スタディ:GM作物の綿密な検証」と題されたそれらのうちの1本がBtワタと農民自殺を扱っていたので、今回はこれを読んでみたい。

GMワタが農民を自殺に追いやった:ウソ

 3月のインタビューで、インドの環境とフェミニズムの積極行動主義者 Vandana Shivaはただごとではない統計値を繰り返しました:「Monsanto社がインドの種子市場に参入したときから、27万人のインド農民が自殺しました」と彼女は言ったのです。「それは大量虐殺です」と。

 この主張は、1990年代の終わりに国中の全体の自殺率が増加したことに基づいて、Monsanto社が2002年にインドでGM種子を販売し始めたときから、企業による搾取の物語としてしばしば繰り返されてきました。

 特定の害虫を撃退するためにバクテリアBacillus thuringiensisからの遺伝子を含んでいる Bt ワタは、荒れたスタートを切りました。種子価格が、地元のハイブリッド種子より5倍以上も高額だったことが、地元のトレーダが Bt と従来のワタを混ぜ合わせたパックをより安く売るよう駆り立てました。偽の種子とどのようにこの製品を使うべきかについての誤報は、収穫と財政上の損失を招きました。これは疑いなく、地元の金融業者からの借金を強いた厳しいクレジットシステムのプレッシャーの下に長くいた地方の農民に負担を加えました。

 しかし、Glover が「農民自殺をBt ワタのせいだけにすることはナンセンスです」と言います。財政的な苦境がインドの農民自殺増加の要因ではあるが、Btワタが導入されてからも農民の自殺率に本質的な変化はありませんでした。

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出典:参照5, Adapted by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature vol.497,24-26, copyright 2013

 インドにおけるBtワタと自殺についての政府統計、学術論文とメディア報道を徹底的に調べたワシントンDCにある国際食糧政策研究所(IFPRI)の研究者たちによって、それは示されました。2008年に発表された彼らの調査結果(参照 4  ) と2011年の更新版(参照5 ) は、インドの住民の年間自殺者数の合計が1997年の10万人弱から2007年の12万人以上に増加したことを示します。しかし、同じ期間内の農民の自殺者数は年間およそ2万人前後で推移してきました。

 そして、その困難なスタートから Btワタが農民に利益をもたらしましたと、これまでの10年間インドで Btワタの社会的、経済的影響を調査してきたドイツ、ゲッティンゲンにあるGeorg August大学の農業エコノミストMatin Qaim は言います。中央と南インドにおける533軒のワタ農家の研究で、2002年から2008年にかけ害虫被害の減少に起因して産出量がエーカー当たり24%増大したのをQaim は見出しました(参照6)。農民の収益は、同じ期間で主に産出利益に起因して平均50%増えました(図「A steady rate of tragedy」参照)。収益から判断して、今やインドで栽培されるワタの90%以上が遺伝子組み換えなのは当然のことですと、Qaim が言います

 セントルイスのWashington大学における環境人類学者Glenn Stone は、Btワタによる産出増加については実証的証拠が不足していると言います。彼は独自の現地調査(参照7 )を行なうと共にインドのBtワタの産出に関する研究文献を分析(参照8 )しました。そして、Bt ワタによる産出増加に関するほとんどのピアレビューされた研究報告は短期間に目を向けており、しばしば技術が実用化された直後だったと言います。

 これは偏りを生じました、と彼が言います:最初に技術を採用した農民はより裕福で、教養も高いという傾向があり、彼らの農場はすでに従来からのワタの平均より高い産出を生みだしていました。高価なGM種子に彼らが惜しみなく注意を注いだということが一部の理由で、彼らはBtワタの高い産出を達成しました。問題なのは、GMの産出と収益を比較すべき従来からのワタ農家が、今やインドにはほとんど残存していないことです、とStoneが言います。Qaim も、金銭的利益を示している多くの研究が短期の影響に焦点を合わせていることに同意します。しかし2012年に発表された彼の研究は、これらの偏りを考慮に入れて調整しても、なお継続的な収益を見出しました。

 Btワタは自殺率を上昇させた原因ではありません、とGloverが言います。しかしまた、それは産出を向上させた唯一の理由でもありません。「技術の成否についての総括的な結論は、微妙な差異での正しいレベルに欠けます」と、彼が言います。「それはインドで進化する物語であり、まだ決定的な結論に達していません」

(Nature誌の抄訳おわり、尚、一部のリンク先は訳者が追加している)。

 Nature誌の結論は、Btワタの導入により「農民の自殺率が上昇」(憎悪)していないが、「産出の増加に寄与した」(誇大宣伝)のかどうかは、現状では確実な証拠が不足しており、まだ結論が得られないとするものだ。いわば異種格闘技型両論併記。

 Nature誌の特集は、「News & Comment」として掲載されており学術研究論文ではない。しかし、Btワタの検証はピアレビューされた複数の論文に基づいており、天下のNature誌がBtワタで自殺増加論を「ウソ」と断定し、その主張者の中でもっともパワフルな地位と影響力を持つVandana Shiva 女史をやんわり批判していることは注目される。

参照

4. Gruère, G. P., Mehta-Bhatt, P. & Sengupta, D. Bt Cotton and Farmer Suicides in India. Discussion paper 00808 (International Food Policy Research Institute, 2008).

5. Gruère, G. & Sengupta, D. J. Dev. Stud. 47, 316–337 (2011).

6. Kathage, J. & Qaim, M. Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 11652–11656 (2012).

7. Stone, G. D. World Dev. 39, 387–398 (2011).

8. Stone, G. D. Econ. Polit. Weekly 47, 62–70 (2012).

Translated by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature vol.497. 24-26, copyright2013.

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