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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

Btワタはインドの小規模農家に経済利益をもたらし食生活を改善した

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2013年6月10日

 インドのBtワタ導入と農民経済との関係について新しい研究論文が発表されたので、前回の「Nature誌が「ウソ」と断定~Btワタとインド農民自殺の因果関係」に続き、これを紹介する。「遺伝子組み換え(GM)作物と食料安全保障」(Genetically Modified Crops and Food Security)と題された労作は、2013年6月5日オープンアクセスジャーナル PLoS ONE誌に発表された。

 著者はドイツのゲッティンゲンGeorg-August大学(GAU)のMatin Qaim と Shahzad Kouserであるが、Qaimはインド農家のBtワタの経済性研究に長年取り組んできた研究者で、この問題の周辺を調べれば必ず出てくる名前だ。因みに、前回紹介したNature誌にも彼のコメントが複数掲載されている。

 Qaim氏らは、2002年から2008年の7年間にわたり、ランダムに抽出したインドの小規模農家(Btワタ採用1085軒、非採用346軒の合計1431軒を4ラウンドにわたり追跡監視した)を調査し500以上のデータから、換金作物としてBtワタを導入した農家は産出を向上させ、増加した農業収入により家族のカロリー消費と食事の品質を向上させた結果、インド小規模農民のための食料安全保証を改善したと結論している。

 調査を開始した2002年時点ではBtワタを作付けする農家の割合はまだ小さかったが、2008年までに調査した農民の99%がこの新技術を採用した。この結果、すべての社会経済学と農場関連の特徴などの他の要因を考慮に入れて調整しても、これらの家庭における食料不足が15~20%緩和された(平均カロリー消費量の5パーセントの増加によりもたらされる)という。

 栄養不足に悩む世界中の人々の大きい割合を占めるのがアジアとアフリカの小規模自作農家であり、単独のGM作物だけでは飢えの問題は解決しないが、より広範な食料安全保証戦略上の重要なコンポーネントであるかもしれないと、このミクロレベルの調査のマクロなテーマについて研究者たちは語っている。

 筆者は、前回紹介したNature誌についてBtワタの農民自殺との関連は否定しつつ、産出増加に伴う経済効果については確実な証拠の不足からまだ結論が得られないとする異種格闘技型両論併記だと論じた。

 Qaim氏らの非常に骨の折れたであろう研究は、経済効果についての綿密な証拠を提出しており、Nature誌が投げかけたいくつかの疑問に対する回答になっている。このことは、6月6日のForbes India誌 が掲載しているQaimやインドDelhi大学経済成長研究所のN Chandrasekhara Rao教授へのインタビューを通じた突っ込んだ論説により明らかである。

 例えば、Qaimらが調査の対象としたのはマハラシュトラ、カルナータカ、アンドラ・プラデシュとタミルナヅの4州で、中央と南インドに位置し小規模自作農によるワタ生産の大部分を占める。北インドにもこの調査結果が適用できるのかという問いに、北インドではワタ農場の規模がより大きく農民は平均してより富裕であるとQaimは断っている。

 これは、Washington大学のGlenn Stoneが、Btワタによる産出増加については実証的証拠が不足しており、Bt ワタによる産出増加に関するほとんどの研究報告は短期間で、しばしば技術が実用化された直後だったために偏りを生じた、最初に技術を採用した農民はより裕福で、教養も高くすでに従来からのワタの平均より高い産出を生みだしていたとNature誌で述べたことへの反証となっている。

 但し、Qaimは自身のデータが発展途上国世界一般を代表してはいないと注意喚起している。これはGM換金作物の採用がある特定の条件下で収入を経由して、家庭の栄養を改善することができることを示すインドのために研究であり、数値の結果をもって他の国々にそのまま当てはめるべきではないというのだ。しかし、一方でGM作物の食料安全保証への影響について他のどのような実証的研究もないから、全体的な結果はインドを越えて重要であるかもしれないとも述べている。

 政治的理由によるGM拒否姿勢が継続するヨーロッパや、未承認GMコムギ発見騒動とGM食品表示論争などで混乱する米国を横目に、GM技術を禁止するヨーロッパのリードに今まで従ってきたアフリカ諸国が、収穫量を増やし、飢えを軽減し、気候変動から自国を守るためGM作物への反対理由を再考しはじめた、と6月6日付のReuters が伝え、アフリカ諸国における様々な取り組みを紹介している。

 「GM作物に奇跡を期待すべきではないが、同じくGM技術の使用は望まれていない進展だと決めつけるのもやめるべきです」という一研究者としての Qaim の言葉に耳を傾けるべき時は、今でしょう。

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