科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

世に怪談の種は尽きまじ~遺伝子組換えトウモロコシの健康リスク(中)

宗谷 敏

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 体調不良に悩む米国人主婦Caitlin Shetterlyが、Paris Mansmann医師の助言により、トウモロコシを食事から排除したら完治した。彼女はGM(遺伝子組換え)トウモロコシがアレルゲンだったと確信して専門家の見解を求めた手記を、読者数110万人を誇る米国版Elle誌2013年7月24日号に発表した 。この記事に対する検証と反論を整理する。3回連載の2回(1回目はこちら)。

 最初に反応したのは、7月25日付DISCOVER誌Keith Kloorによるメディアパトロールを専門とするコラムCollide-a-Scapeの「Elle誌はGMO恐怖列車に飛び乗る」だ。

 以前指摘したように「GM食品が極めて有害である、あるいは潜在的に危険であるという信念」は、農業バイオテクノロジーに関する一般論を支配するようになりました。今や、科学者とバイテク領域に携わる科学ベースの情報伝達者は、自分たちが何を扱っているか気づくべきです。

 それは、本質的に GMO ヒステリーの社会的潮流です。目玉が飛び出るような最近の例は、人気が高い女性誌Elleの記事です。(この記事のあまりの酷さに絶望したあまり、私が想像するところ)何度も頭を壁に打ちつけた後で、Kevin Folta (訳者注:フロリダ大学准教授)がElle誌のコメント欄に登場します。

 「1人の学術科学者として、この恐怖を煽る大げささにただ愕然とします。GM技術が伝統的な育種以上のリスクをもたらしません。それは世界の最も重要な科学と医学の組織による確固とした意見です。

 この記事は、初めから終わりまで全く正しくない。何百もの独立した研究が行われました。反対派活動家によって喧伝される唯一の害を示す証拠(訳者注:SeraliniのRat Studyを意味すると思われる)は実験が再現されず、独立した学術科学者たちによって良くない科学として厳しく批判されています。

 アレルギーに関するすべてが、この記事では間違っています。アレルギー誘発性に対する評価のみならず、ヒトの血清との相互作用さえ何の証拠も提示されてはいません。これを読んだ後で、私は何時間も考えこみました。私は著者の症状が消えたことを喜ばしく思いますが、彼女の非難は見当違いです」。

 予想通り他のElle誌コメンターたちが、Folta はMonsanto社から支払いを受けており(訳者注:以前から本人は否定 ) 、「GMO 欺瞞」の一部であるとFoltaを告発します。1人が彼に言います:「Kevin、私の子供たちと私は誰かの科学実験台ではありません」。

 私が最近論じたように、GMO恐怖は人気が高いミーム(人から人へコピーされる情報)になりました。米国のポケットの中味をくまなく捜しても、GMO 恐怖に対処できる多くがない、と私は思い始めています。原因となっている不安は、私たちの時代(とメディアによるそそのかし)の産物です。

 いかに多くの人々が、あらゆる種類の病気について携帯電話、 WiFi 、頭上の送電線と風力タービンのせいにしてきたことでしょう。従って、なぜ GMOsだけがそれを免れられますか?

 GMO報道アカン警察のDISCOVER誌がElle誌に対する左のリードジャブだったとすれば、渾身の右ストレートを叩き込んだのが8月7日付Slate誌の「いいえ、GMOトウモロコシを怖れる必要はありません~いかにしてElleはGM食品の話で失敗したのか」 だ。著者は、the Genetic Literacy Project の創設者Jon Entineである。

 Slate誌の記事については、畝山智香子氏が8月13日付「食品安全情報blog」で一部訳文を掲載されている。重複を避けるために先ずこれを読んで頂いた上で、畝山氏が 「(以下長い詳細な追跡)」として省略した部分のサワリを紹介したい。

 Shetterlyの話は感情に訴えるだけで、科学の批判的吟味には耐えません。彼女の中心的命題から始めましょう:GM食品、あるいは特にGMトウモロコシが、アレルギー反応を起こしえますか。それは可能でしょうか? 遺伝子組換えのプロセスはアレルギーを作りえますか?

 「ありそうにありません」と、カリフォルニア大学デービス校の国際的に著名な植物遺伝学者Pamela Ronaldが言います。「16年の栽培と20億エーカーの耕作地面積累計の後に、GM作物の商業化に起因する健康あるいは環境への悪影響を示す証拠は一切ありません」。

 GMOs がアレルギー反応と自己免疫障害を起こすかもしれないという Mansmann医師 の信念は、16年にわたる米国の食物アレルギーの増加とGM作物消費量の急増を関連づける指摘を伴う、多くのバイテク作物反対派による良く知られた転義法です。

 しかし、この主張を成立させる科学文献はありません。アレルギーを含む自己免疫障害の上昇は、 GMO導入のずっと以前から始まりました。英国やヨーロッパなどGM食品の消費がない他の国々も、米国のトレンドに一致する発生率の上昇があります。

 Ronaldが言います。「GMトウモロコシもしくは市場にある承認済みのいかなるGM食品でも、アレルギーに関連づけられる研究は一つとしてありません。著者と、どうやらこの医者は、GMのプロセスがそれだけで、本質的に見いだされないか、容易に識別できず評価もされないユニークなアレルゲンを作り出せるという間違った信念を抱いています。それは全く正確ではありません」。

 600以上の研究(1/3以上は産業から資金を受け取ない独立した科学者による)を収集したBiology FortifiedGENERAデータベースには、GMトウモロコシとアレルギーを関連つけた研究は一つもありません。The American Medical Association(米国医師会)も、GMOとアレルギーを関連づける推測を断定的に拒絶しています。この科学的コンセンサスは、世界の主要な科学管理組織によって支持されました。Shetterlyは、これらの重要な意見に触れていません。

 私は、Shetterlyがコメントを引用した専門家のほとんどすべてと話をするか、電子メールを交換しました。フィードバックは一貫しており:彼女の記事は「不合理」で「ばかばかしい」などと評価されました。連絡を取った情報提供者の一人は、Shetterlyが彼らの発言を誤用したと不平を述べました。

 検証してみましょう。

 Shetterlyは、GMOs の政府のリスク評価査と規制の完全性について疑問を提起します。彼女は、企業や管理機関がアレルギー評価に使うネブラスカ大学リンカーン校(UNL)のアレルゲンオンラインデータベースを運行するRichard Goodmanにインタビューし、主要バイオテクノロジー企業6社が資金供給しているデータベースの「客観性」を疑問視します。

 これは公正な疑問ではありますが、この場合のように政府はしばしば企業に規制コストの負担を求めます。データベースは国際的に認められたアレルギー専門家のパネルによって独立して運営され、アレルゲンのリストアップについてレビューし、投票するプロセスを毎年1回経ます。

 資金提供している6社は、プロセスを批判し再検討を求めることはできますが、意志決定能力を持たず、科学的議論を超えた影響も与えられません。専門家-一人一人が食物アレルギーについて多くのピアレビューを経た科学論文を発表した-だけが、どんなアレルゲンを収録するかを決めます。

 Shetterlyのインタビューで、「未発見の」(彼女の強調)アレルゲンを追跡しないから、データベースがほとんど役に立たないという Mansmann の信念を確認するためにGoodmanは登場します。

 彼女は、そこに置くべき「十分な証拠」がないから、「GMO タンパク質」がデータベースにリストされないとGoodmanが言ったと引用します-これらの承認されたタンパク質の一部がアレルギーを起こすという若干の証拠があることを仄めかしながら。

 かくして、Shetterlyの理論の中心に到着しました:遺伝子組換えが、まったく新奇のタンパク質を私たちの食物に導入することができ、それは私たちが予知も予防もできない方法で、多くの人々に免疫反応を引き起こします。

 産業に屈した政府のモニタリング・プログラムが拾うよう設計されてない、新奇のいまだ識別されていないアレルゲンや毒素による未知の受け入れがたいリスクに、消費者は直面しているという考えです。これを積極行動主義者から見ると、私たちは「人体実験台」であり、政府は潜在的な健康や環境の破局を防ぐために適切な監視システムを持っていません。

 記事中で、Goodmanはその意見に同情的であるとして描かれます。それは本当に彼が信じるところでしょうか?

 「彼女は完全に私の発言をねじ曲げました」と、科学者(Goodman)が私に言いました。彼女が「未発見の」アレルゲンを警告するとき、彼女が何を意味するのか知ることは難しいです、と彼が付け加えました。「タンパク質が、ごく少数の個人あるいは場合によっては何千人、何百万という人々に反応を起こしえます」。

 「データベースは、アレルギーを起こすことが知られているすべての既知のタンパク質と、もしかすると反応を起こした可能性があると疑われるタンパク質もリストします」。

 しかし、データベースにはない「未知の」アレルゲン-おそらくまだ識別されていない GM トウモロコシのタンパク質-があるという告発はどうですか? 積極行動主義者の恐れは正当ではありませんか? 私たちが確実に知るまで、私たちは適切な用心をすべきではありませんか?

 「それは科学とリスクの基本的な誤解を反映しています」と、Goodmanが言いました。「はい、原則として、ある個人へのこれまで未知のタンパク質の反応が、データベースにリストされていないことが見いだされるかもしれません。

 確かにすべての食物やアレルギー反応の吸入源からの何百万ものタンパク質のすべてが、アレルギーについてテストされたわけではありません。しかし、それらのタンパク質は非 GMO の食物の中でも同じように存在します」と、彼が指摘します。新しいGM作物が創造されるとき「たった1つまたは少数の新しいタンパク質が作られます。そしてそれらはアレルギーの潜在的なリスクのために特に評価されます」

 「アレルギー反応の最大のリスクは新しいタンパク質を作ることではなく-それらはテストされます-ある新しい食物にアレルゲンを導入することです」。(訳者注:ここで、ブラジルナッツをGMダイズに導入したらアレルギー反応があったので開発が中止された有名な例と、この問題の研究主導し、現在はアレルゲンデータベース管理パネルの一人であるSteve Taylorへの電子メールインタビューが挿入されているが省略する)。

<8月27日の(下)に続く>

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい