ホーム >  専門家コラム > 食品衛生監視員の目 > 記事

食品衛生監視員の目|笈川 和男

どんなコラム?
元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい
プロフィール
保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

パック詰鶏卵の表示に疑問を持ちませんか?

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2011年4月15日

 パック詰鶏卵の表示に関して賞味期限には十分に注意して購入していると思う。しかし、保存方法、使用方法に関して疑問を持ったことはないですか?

keiran

賞味期限が卵に直接印字している卵も、規格を別の場所に表示しているパックもある

●なぜ、流通販売時の温度管理が義務づけられていないか?

 まず、保存方法について考えてみる。牛乳、洋生菓子などは、要冷蔵(10℃以下で保存してください)等の表示がされて、販売店でも冷蔵庫内に陳列され、流通でも10℃以下が義務付けられている。しかし、パック詰鶏卵の場合には「購入後は冷蔵庫(10℃以下)で保存してください」と書かれているが、販売店では冷蔵庫内に陳列販売されていない場合がある。つまり、流通、販売での温度管理に関する義務付けが無いのである。

 鶏卵が原因とする食中毒の多くがサルモネラ・エンテリティディス(以下SE)である。我が国においては1989年(平成元年)から鶏卵が原因と考えられるSE食中毒が増加した。その後大規模な食中毒、痛ましい食中毒が多数発生した。大規模な食中毒としては、1990年に広島市の洋菓子店で製造した、鶏卵を使用して生の食感を大事にするティラミスによる食中毒が発生し、12都府県で約700人が発症した。子供が亡くなる痛ましい食中毒も起きている。1996年に東京都の家庭で卵料理(ニラ卵炒めと納豆卵)を食べた家族4人が発症し、中学生が死亡した。このニラ卵炒めには前日に割った鶏卵を使用していて、半熟状態であった。

 1997年4月に三重県桑名保健所が全国調査を基に鶏卵による事故防止対策をまとめた。これを受けて、1998年6月に鶏卵業界の指針として「鶏卵の日付等表示マニュアル」が定められ、1999年11月に、殻付き卵の「生食できる賞味期限」の表示が国によって義務付けられた。この際に「保存方法:購入後は冷蔵庫(10℃以下)で保存してください」「使用方法:生で食べる場合は賞味期限内に使用し、賞味期限経過後及び殻にヒビが入った卵を飲食する際は、品質を確認の上、なるべく早めに、充分に加熱調理してお召し上がりください」も表示することが義務付けられた。

 では、なぜ流通販売における温度管理は定められなかったのか?
 先ず、鶏卵のSE汚染割合は極めて低く10,000に3個程度といわれている。また、汚染卵に混入しているSEの菌数は数個と考えられており、数個であれば食べても発症しないとされている。鶏卵のSE汚染原因は、鶏の卵管から卵白の部分へ侵入することとされ、卵黄膜がしっかりしていれば、SEは増えない。しかし、卵黄膜は保存時間及び保存期間と一定の関係で弱化し、一定レベルまで弱化が進むと卵黄成分が卵白へ移動を起こし、SEが増殖する。

 そのため、卵黄成分の卵白へ移動する前であればSEは増えず生食でも食中毒は抑えられると考えて、卵黄膜の弱化までの期間と安全性を計算して「生食できる賞味期限」が設定されている。そして、保管温度変化が大きいと卵黄膜の弱化が早いとされている。

 ならば流通から販売まで低温保管を義務付ければ良い。だが、鶏卵の集荷、GP(格付・包装)センターでの保管、その後の流通、販売店において一貫して低温管理するのは無理と考えられ、「購入後は冷蔵庫(10℃以下)で保存してください」になったのだ。

 現在では、大手量販店では冷蔵販売されるようになったが、賞味期限が義務付けになった頃には大手量販店でも入荷の際には、数十分間直射日光が当たる場所に置かれていた。たとえ冷蔵車で運搬されても直射日光の当たる場所に置かれれば、温度変化が大きく傷みが早くなる。5年ほど前に大手GPセンターを見た際に、大手量販店用の鶏卵は入荷後直ぐに低温庫に置かれ、包装後も低温庫に置かれていたが、その他の店用は全て常温で保管されていた。

● 使用方法の意味

 次に、使用方法である。SEに汚染されている卵の比率は極めて低いのだが、賞味期限を超えた場合にはSEが増殖している可能性があり、卵黄が崩れている場合には、やはり卵黄膜が弱化しているのでSEが増殖している可能性がある。ヒビ割れをしている場合には外側からのSE汚染が考えられる。そのために、使用方法の表示が義務付けられ、生で食べる賞味期限を超えた場合、卵黄が崩れた場合、ヒビ割れた場合には、充分に加熱調理してから食べるとなった。

 SEには、もう一つ大きな問題がある。それは、前号の「生食のリスク管理」で述べたとおり、腸管出血性大腸菌O157、カンピロバクターと同様に100個以下と極めて少ない菌数で感染発症するということである。割卵すると卵黄膜が破れSEが増殖し、30℃程度の温度だと1時間で約10倍増殖する。たとえば昼食用にと数十個割卵すると、1個でもSE汚染卵があれば、全体を汚染し、増殖する。加熱不十分だと複数の患者が発生する食中毒となる。そのために生の食感が美味しいスクランブルエッグ、カツ丼、親子丼などは一人前ずつ割卵し、充分な加熱調理が必要なのである。

 私個人としては低温流通が徹底するのが望ましいと考える。しかし、都市近郊の養鶏農家が、付近の八百屋等へ直接卸し販売する場合には、冷蔵庫の設置の義務付けは無理な場合があると考えられる。

 生卵を食べる習慣があるのは、世界でも我が国だけと思う。今後とも、美味しく鶏卵が食べられるよう、消費者及び飲食店等が「生食できる賞味期限、保存方法、使用方法」を注意していただきたい。なお、ウズラ卵はサルモネラ・チフィムリウムによる汚染が多いようで、同様に注意が必要である。

⇒ 食品衛生監視員の目記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集