科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

養鶏場の対策はどうなっているのか

笈川 和男

キーワード:

 前回で「パック詰鶏卵」の表示に関して述べたが、今回は養鶏場の現状と対策を述べる。

●原種鶏は輸入、SE対策としてワクチンを投与
 
 日本は原種鶏(卵を生産する鶏の二世代前、つまり祖父母)のほとんどを欧米(欧州の方が多い)から輸入している。理由は、品種改良されて多卵、耐病鶏であるから。輸入鶏(ヒナ)に関しては動物検疫においてロットごとに糞便検査をして、サルモネラ・エンテリティディス(以下SE)が検出されれば、水際で処分している。しかし、欧米の方がSEの感染率が高いうえ、全鶏の検査はできないので、SEの感染を受けた原種鶏が輸入されていると考えられている。

 国内の、ほとんどの大規模養鶏場ではSE対策用のワクチンを投与しているが、法的な規制は無いので、中小の養鶏場ではワクチン投与をしていないところもあると聞く。なお、養鶏場の衛生指導は家畜保健衛生所が行っている。
 
●SE食中毒が発生したら

 保健所は、鶏卵が関係していると考えられる食中毒発生の際は、必ず残卵(使用した卵と同じ包装のもの)のSE検査を実施する。しかし、汚染率は極めて低いので、ほとんど検出されない。私自身が関係した食中毒において、残卵からSEを検出したことは無い。鶏卵が原因あるいは原因と推定された場合には、GP(格付、包装)センターが所在する農政部局、他県の衛生担当部局へ調査を依頼するが、実際は農政部局がGPセンターの調査を行っている。理由は、鶏卵は農産物の一次産品であるからである。

 私自身が関係した食中毒において調査を依頼したことはあるが、回答は他から苦情相談が無いとのことで、食中毒の原因となった養鶏場の特定はできなかった。でも、このような情報で、GPセンターが複数の養鶏場に注意喚起をしていると思い、少しは事故防止になっているものと考える。
 また、原因飲食店等に複数のGPセンターの鶏卵がある場合には、十分に対処できない場合もある。そして、自治体間でSEの遺伝子情報の交換も行っているが、全ての自治体で遺伝子検査ができる状況にはなっていない。

 私の経験から考えると、大手のGPセンターの場合、この量販店へ出荷したのはこの養鶏場であったと判明するが、中小のGPセンターの場合、集荷してくる養鶏場も小さく、一つの量販店へもいくつもの養鶏場の鶏卵を使用しているので、養鶏場の特定は難しい。
 なお、GPセンターの指導は農政部局であるが、私は保健所管内に所在したGPセンターへは現状確認等で何回も伺っていた。

●昨年の事例

 昨年、大分県で興味深い事例があった。12月30日の毎日新聞が「サルモネラ食中毒:県と大分市、情報共有なく被害拡大」と報じている。記事によれば、最初の食中毒は大分市内の飲食店で5月に発生したが、市は「原因が卵か飲食店の衛生管理かはっきりしない」として、養鶏場を指導する立場にある県に報告しなかった。7、8月に市内の飲食店でサルモネラ食中毒が発生し、いずれの場合も卵の調達先は複数だったものの、5月の食中毒で原因と疑われた養鶏場も含んでいたため、やっと9月、県に報告したという。
 記事は、7月に同県九重町のホテルでも高校生ら246人が発症し、同じ養鶏場の卵を使用していたことや、県大分家畜保健衛生所が調査し改善指導中だった10月にも、この養鶏場の卵を使った市内の病院で10人が発症していたことも伝えている。また、県の調査で飼育していた14,000羽のうち4分の1以上にサルモネラ感染暦があることを確認したという。

 自治体が異なると情報の共有量が少なくなるが、7月の食中毒発生後に、県と市の衛生部局が直ぐに情報交換をすれば8月、10月の食中毒は防げたかも知れない。飼育数が14,000羽であるので、複数の棟があったと考えられるが、四分の一以上にサルモネラ感染歴があるというのは極めて高く、衛生状態が悪かったのではないかと疑う。参考までに付け加えると、SE感染の鶏が毎日SE汚染卵を産むわけのではなく数日に1回であるため、特定が難しい。弱っているときに汚染卵を産むことが多い。なお、感染歴の場合は、以前感染していた鶏も含む。そのため、SE汚染卵を産まない鶏もいる。

 複数の県から、何件ものSE食中毒が発生したので遡り調査をして養鶏場を特定できたとの報告もある。特定できた場合には、全羽処分、養鶏場を撤去、清掃消毒の実施、新しい養鶏場を建設という厳しい指導を行ったとの報告もある。

●消費者の対策

 今後、国内の養鶏場においてSE感染鶏を淘汰しても、原種鶏が汚染されている可能性は残る。そこで、鶏卵によるSE食中毒予防策として、前号で述べたとおり、生食の場合には賞味期限内に食べ、調理する場合には調理直前に割卵するか、一人前ずつ割卵して調理する。

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい