科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

なにも決まらない食品表示一元化検討会。企業に莫大な損害の恐れも

笈川 和男

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 食品衛生監視員として勤務していた20年位前、詳細は忘れたが、私たちが従前から指導していた食品衛生法の表示の規準と、後から定められたJAS法の表示が違っており製造業者指導に大変苦労したことがあった。その点、昨年9月から消費者庁で始まった食品衛生法、JAS法、健康増進法の食品表示の一元化検討会は、各法律によりバラバラになっている部分を統一することは大変有意義であると考える。

 私は2011年11月から食品製造業A社の品質管理の手伝いをしており、A社の品質管理部門で表示も担当している。2010年から始まり、2012年夏から初秋に表示の全面変更を計画しており作業を進めている。2011年11月末に、「食品表示一元化検討会の中間報告が2012年1月だされることになっており、中間報告で大方の方向性が決まってくるので、それまで様子を見よう」と品質管理の皆様に提案した。しかし、去る2月21日の第6回の検討会を傍聴して、ほとんど決まってなくてガッカリした。

 決まっていることとは「容器包装の加工食品に関して食品衛生法、JAS法、健康増進法の食品表示を一元化にする」だけであると言っても過言でない状況である。3月23日に「中間論点整理に関する意見交換会」が開催されるが、その資料は今まで議論した内容の羅列でしかなく、方向性が不明である。

 検討会において文字の大きさが議論されているが、個人的には、最初に文字の大きさを決めていただきたい。文字を大きくした場合には、表示面積が小さい商品において、記載内容が制限される。このような商品の場合には、最低限表示義務とする基本事項を決めていただきたい。このような場合には、原料原産地、栄養表示、調味料等の健康に影響が少ないと考えられる食品添加物などは除いても良いのではないか。

 原料原産地表示が議論されているが、経済的・経営的に表示が無理な商品がある。現職の頃、我が国を代表する大手漬物業の監視もしたが、その時の実状を思い出す。キュウリの漬物は、国内の原産地で塩漬けされたものが、製造工場に搬入され、刻み、塩抜きしてから、自社の調味液につけられ包装、消費者が購入する頃、ちょうどよい味となり、一年中同じ味が担保されるのである。

 この原材料であるが、冬、初春は南九州産、その後高知県などの四国、愛知県など中部、茨城県などの関東と少しずつ北へ上がり、真夏は北海道産を使っていた。県別表示をするとなると、包装資材を数十用意しておく必要があり、これは大手といえども無理である。「福神漬」は多くの野菜を使用するが、同様に多くの原産地の野菜を使用している。県別表示となった場合には、より多くの包装資材を用意しておく必要が出てくる。

 また、サンドイッチの場合には、キャベツ、トマト、レタスなどの野菜は納入業者に一括依頼しており、その日により産地が異なる。毎日、野菜の納品後、原産地を確認してから表示ラベルを作るのは、商品が1種類の場合にはできるかもしれないが、現実的には無理と考えられる。

 A社は、検討会の方向性が不明のまま、今年計画している全商品の表示変更の作業を進めており、佳境に入っている。今後の検討会の成り行き次第であるが、変更できない方向に進んだ場合には、莫大な損害となる可能性がある。同様の食品製造業もあると考える。

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい