科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

小学校で発生するジャガイモによる植物性自然毒の食中毒

笈川 和男

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 児童が自分たちで農作物の種を蒔き、成長を観察して収穫、それを食べることは、理想的な総合的な学習の一つとと考える。農作物の中でも、ジャガイモは成長が早く、北海道、東北、降雪の多い地域を除いた国内の広い地域で、夏休み前に収穫できるので、学習に大変良い作物である。しかし、毎年、全国のどこかの小学校で、ジャガイモによる食中毒が発生している。そのほとんどが、校内での総合的な学習で児童が栽培し、収穫したジャガイモである。

 6月末にも、埼玉県内でジャガイモによる食中毒が発生した。小学3年生30人が、総合的な学習として市民活動センターでジャガイモを収穫し、翌日ふかして食べたところ、12人が嘔吐などの症状を呈して医療機関で診察を受けた。保健所の調査で、原因はジャガイモに含まれるソラニン類による食中毒であった。

 そこでジャガイモ食中毒の共通点、原因、対策を述べる。
 本題に入る前に、市販品での食中毒の発生報告が見られないことを理解しておく必要がある。
食中毒発生の共通点
(1) 1個当たりの重さは20グラム以下(直径3、4㎝)の小さなもの。
(2) 皮が緑になったものを食べていた
(3) ソラニン等の植物性自然毒(以下、植物性自然毒)が、市販品より5~10倍多く含まれていた。
 小学校での食中毒事故はメークインが多いが、作付する割合が多いのと、男爵に比べメークインの方が植物性自然毒の含有量が多いためと考えられる1,2)。
 対策として「小さく未成熟のものは食べない。皮が緑になったものは食べない、収穫後直射日光にあてない」とされている。なお、皮が緑になっているイモは全体に植物性毒素が広がっており、緑になった部分を取り除いても事故が起きる可能性が高い。このように、根本的な原因、対策は書かれていない。
根本的原因は何か
 密植、元肥が少ない、作付時期が遅い、である。
 現役の頃見た多くの小学校では、密植で栄養失調であり、植物性自然毒によって食中毒が発生しても不思議はないと思った。そのため、潜在的な食中毒はもっとあると考える。

 私自身(横浜在住)、2年前まで10年余り畑にジャガイモを植え付け毎年200㎏程度収穫していた。株間(種イモの間)30㎝、畝間45㎝以上を取っていた。多くの小学校では株間、畝間とも20㎝程度で、栄養失調になりやすく、成長して盛り上がっても、畝間にクワが入らず土寄せができず、皮が緑色になることが多い。

 種イモを蒔く時期であるが、3月の第1週としていたが、2月末の年もあった。少なくともその2週間前には牛糞、鶏糞等の有機肥料をも施していた。小学校はどうであろうか、栄耀失調の茎・葉から見て、肥料を十分に施していたとは考えられない。そして、新しいクラスになってから種イモを蒔くので、その時期は4月10日過ぎで、7月中旬になれば暑さで茎・葉が枯れるので、生育期間は1か月以上短く、未成熟の小さいイモがあっても不思議はない。
対策
 関東以西においては、種イモを蒔くのは3月下旬までとし、その前に十分に肥料を施し、密植しない。
 「20年、30年前は4月になって蒔いていた」と反論する人もいるかも知れないが、地球温暖化が原因と考えられ、仕方がないと思う。
 市民農園を見ると、小学校の農園と同じように、時々密植が見られ、潜在的な事故は発生していると考える。
1)東京都健康安全センター:くらしの健康(知っていると安心),第16号(2007年6月)、2-5
2)日本中毒情報センター:ソラニン食中毒

次の資料もある。
農林水産省:知識があればこわくない!天然毒素
厚生労働省:自然毒のリスクファイル:高等植物:じゃがいも

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい