科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

漬物製造、カット野菜製造では、野菜は汚染されていると考えての洗浄消毒が必要

笈川 和男

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 札幌市の漬物製造業が製造した浅漬けによって腸管出血性大腸菌O157(以下O157)食中毒が発生し、患者数が110人を超え、4歳の女児を含め7人が亡くなり大きな事件に発展した。原因食品は白菜の浅漬け(商品名:白菜きりづけ)であった。原因となった製造日には、通常の2倍程度の漬物を製造していたために消毒液の塩素濃度が低下し殺菌が不十分なったとされている。
 浅漬けによるO157食中毒は過去に何件も報告されており、同様の非加熱野菜でもO157食中毒全体が発生している。そこで、浅漬けによる事故事例を紹介してから、非加熱野菜による食中毒事例を紹介し、対策を述べる。

浅漬けによる食中毒事例

 2000年6月埼玉県の高齢者施設で自家製の「かぶの浅漬け」でO157食中毒が発生。患者数8人、死亡者3人、消毒濃度が半減していたと考えられた。
 2001年8月埼玉県内の漬物業者が製造した「和風キムチ」で、埼玉県、東京都、群馬県でO157食中毒が発生。患者数27人。
 2002年6月福岡県の保育園において購入した「キュウリの浅漬け」でO157食中毒が発生。患者数82人。発生原因は特定されていない。
 2011年8月に大手レストラン系列の食材センターで製造された「浅漬け」で赤痢菌食中毒が東北4県18店舗で発生。患者数52人。発生原因は特定されていない。

非加熱野菜摂食による食中毒

 1996年6月岐阜県の学校給食の「おかかサラダ」でO157食中毒が発生。患者数343人。食材はレタス、玉ねぎ、キュウリ、かつお節に調味料の非加熱メニューであった。
 1996年7月堺市の貝割れによるO157食中毒の集団発生の地域で、貝割れの根を切った後に水道水で付けておいた小学校1校だけで発生が無かった。他の学校は根を切らずに水に付けていた。
 1997年6月岡山県の病院給食で「冷やし非日本そば」によるO157食中毒が発生。患者数171人。日本そばは広範囲流通商品で、他から発生が無かった。そばに添えられた刻みネギは、病院内で刻まれ流水洗浄により処理されていたが、消毒されておらず、原因としての可能性は否定できなかった。
 2011年9月大手給食事業者が請け負っている給食施設で「刻みネギ」による病原性大腸菌O148食中毒が発生。カットした施設での塩素消毒が不十分であったとされる。神奈川県、山梨県、長野県、東京都の11施設で452人が発症した。

なぜO157が多いのか

 浅漬け、非加熱摂取野菜による食中毒の多くはO157で、O157が多い理由として極めて少ない菌量で感染発症するからで、数個で感染するとの報告がある。そして、有機農法で露地栽培法の場合、多くは熟成した牛糞を使用しているが、完熟していない厩肥が流通していると考える。O157は牛の常在菌(8%程度から検出される)であり、確実に熟成されればO157は死滅するはずであるが期待できなく、野菜を汚染していることが十分に考えられる。そのため、浅漬け、カット野菜など提供する場合には、十分な洗浄消毒が必要である。

洗浄消毒方法とその必要性

 業界の推奨マニュアル及び厚生労働省の指導基準は次のとおりになっている。
 全日本漬物協同組合連合会は、「浅漬及びキムチの製造・衛生管理マニュアル」で、効果的な消毒液の濃度として「塩素濃度100~200pppm」を推奨しているようである。(しかし、時間は不明)
 厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、野菜の消毒濃度は次亜塩素酸ナトリウム溶液200mg/ℓ(200ppm)で5分間又は100mg/ℓ(100ppm)で10分間となっており、大手の製造者はこの基準を守っているものと思う。

 私個人的には、これに泡を立てるなりして、水流を付けることにより、重なった部分を剥がす必要があると考える。同一容器に通常の2倍の野菜を入れた場合には、塩素濃度が下がるが、それ以上に重なり合った部分が消毒されなくO157などが残る可能性が高いと考える。

 露地栽培の場合、O157に汚染されている野菜は1%あるいはそれ以下で極めて少ないと考えられるが、たとえば白菜1000個を処理した場合、そのうちの1個でも汚染されていて、洗浄消毒の際に全体に広がる可能性が高いので、日頃からの洗浄消毒の徹底が必要と考える。
 青ネギのヌメリ部分に細菌が入った場合、塩素消毒での殺菌は無理と考えられ、ヌメリが多い場合には洗浄前にカットした方が賢明と考える。

問題点

 現実的には漬物製造、野菜のカットする業者の90%以上は小企業及び農家であり、洗浄消毒方法を指導していても実際には行っていない施設が見られる。20年ほど前、秋が深まると朝市会場で販売している農家を回った。漬物の製造施設は専用と指導してあっても守られてなく、年配者が季節的(秋から冬)にしか行ってなく、農機具が置かれている納屋みたいな施設もあった。

 漬物製造、野菜のカットは食品衛生法の許可を要しないので、保健所において管内の全施設を把握していないことがある。朝市だけでなく、農協の直売所、道の駅の直売所も同様と考えられるが、漬物製造を許可にするのには大きな抵抗があると考える。
 少なくとも、スーパーで販売している業者だけは衛生指導を徹底することが必要と考える。
 なお、北海道では漬物製造業は条例許可としているので、施設の把握、監視指導はされているものと考える。

<付記>

 浅漬け、一夜漬けの定義は明確ではないが、一夜漬け:野菜に3%程度の塩を加え、低温で一夜塩押しした漬物、浅漬け:野菜を調味液に短時間漬けた漬物。塩分濃度3%程度、と考える。

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい