科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

食品衛生監視員の目

新食品表示法の執行機関はどうするのか

笈川 和男

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 11月22日に消費者庁主催の「新食品表示制度についての意見交換会」が三田共用会議所で開催され、傍聴した。25の団体等から意見が出され、「食品添加物の全てについて物質名・用途名を併せて表示」「原料原産地を全ての食品に記載すべき」「表示はシンプルに」など、広範囲の要望が寄せられた。

 このような一部の消費者団体の意見の要望の全てに応えると、とても容器包装に表示ができず、各食品にリーフレットを添付しなければならなくなるのでは、と危惧した。それほど消費者団体の要望が多く、細かいのである。そのなかで、執行機関のあり方について明確に述べていたのは、食の安全・監視市民委員会の神山美智子弁護士だけであった。当日の配布資料には次のように書かれている。

 「執行機関の強化策として、農水省に約1860人いる食品表示Gメンを消費者庁に移管させるべきである。また韓国で実績を上げている消費者監視員制度をわが国に導入し、民間の力を活かすべきである。」

 以上の意見について、まず食品表示Gメンは元食糧庁の出身の皆様が多く、原料原産地表示、和牛、地鶏などの解釈等、偽装表示にかんする指導はできると考える。しかし、保健所の食品衛生監視員のように、細菌検査、化学検査結果に基づく、食品製造・加工施設への現場指導を行うまでには多くの時間を要すると考えられ、そのうえ検査機関の整備も必要となってくる。また、日本版の消費者監視員制度を導入したとしても、その皆様の教育には同様に多くの時間を要すると考える。

地方自治体(保健所・保健センター)の食品衛生監視員がどうであるか

 東京23区のように財政が豊かなほんの少しの自治体を除けば、10年前に比べ実働の食品衛生監視員の人数は大きく削減されているのが現状である。大都市圏を除けば保健所・保健センターの設置数は3割程度減少している。食品衛生監視員が統計上で同数近くであっても環境衛生監視員、薬事監視員、狂犬病予防員、と畜検査員などを兼ねており、特に薬事監視業務が増えている。そして感染症予防、介護保険法、水質汚濁防止法などの業務を兼ねていることも多い。

 また、ノロウイルス、腸管出血性大腸菌事故などでは食中毒か、感染症であるかの区別がつけられないことが多く、原因調査、感染拡大防止を同時に行った方が適切であり、食品衛生監視員が行っていることがある。私自身、現職の頃、ノロウイルス、腸管出血性大腸菌事故で、食中毒事件ではなく感染症の疑いが高い場合で、主務が保健予防課であっても現場の調査指導を行ったことがあった。このように切り離せないのが現状であり、千葉県(健康生活支援課)のように同一課で行っている自治体もある。

 食品衛生監視員の業務が多岐にわたっている状況で、衛生以外の原料原産地表示、その他細かい表示を確認するのは、現状の食品衛生監視員の数では無理と考えられる。飲食店等営業施設への監視指導件数が減る原因ともなる。

消費者庁は法案作成の前に

 消費者庁が執行機関として保健所の役割を強化することが望ましいと思われたなら、必ず保健所の食品衛生監視員の現状を確認願いたい。また、本当に農水省の食品表示Gメンを消費者庁に移管を考えるのであれば、法の施行までに3年程度は必要と考えるが、そうなれば行政のスリム化に逆行しており、公務員の焼け太りになる。

 消費者庁と関係深い機関として、自治体の消費生活センターがあるが、常勤の職員は少なく、相談員の多くは非常勤職員であることも理解してもらいたい。そして、同じ法律で執行機関を複数にすることは混乱を招く可能性が高い。

提案・どうあるべきか

 食品表示の執行機関は保健所・保健センターが適当と考え、実務は食品衛生監視員が行うのが適当と考えられる。その際に、表示の義務付けする内容は、名称(食品の種類)、製造者(販売者)、衛生上の項目(期限表示、使用食品添加物、アレルギーそして消費者の要望が高い遺伝子組換表示)だけのシンプルな内容とする。その他の消費者団体が要望している表示内容・栄養表示に関しては、法令で定めることはなるべく少なくして、行きすぎを防ぐために一部は行政でアウトラインを定めるが、多くは業界の自主基準あるいは製造・加工者の自主記載とする。

 これらの指導は全国の農林水産省の出先機関が、確認のために、民間活用としての日本版の消費者監視員制度を設けるのが適当と考える。つまり、食品衛生法に表示を残し、表示の一元化は解釈、言葉の整合性の程度とし、法律による食品表示の一元化は必要ないと考える。

 さいごに、消費者の中には保存料は悪者とする解釈があり、日持向上剤、pH調整剤を使われていることが多い。しかし、保存料はADI(一日摂取許容量)により使用規準が定められており安全性は担保されていると考える。今回の意見交換会においても食品添加物は「全て悪者」であるかのような意見があったが、缶コーヒーの成分が缶底に固まらないのも食品添加物を使用しているからである。このように加工食品には必要な食品添加物は多くある。

執筆者

笈川 和男

保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している

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元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい