科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

唐木 英明

東京大学名誉教授。食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会専門委員。日本学術会議副会長

安全と安心のあいだに

健康食品に関する連載の開始と市民公開シンポのご案内

唐木 英明

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特定保健用食品(トクホ)誕生から27年、機能性表示食品誕生から3年が過ぎ、健康食品の市場規模は年々拡大している。その一方でプエラリア・ミリフィカを含む健康食品のホルモン様副作用に国民生活センターが注意喚起を出すなど、健康食品に関する問題が続発している。

そもそも健康食品とはどんなものなのか、どのようにして生まれたのか、その安全性や効果は科学的に証明されているのか、なぜ多くの消費者の支持を集めているのか、そのような健康食品の本当の姿を知る人が少ないことが混乱の一つの原因と考えられる。

●食品機能研究からトクホ、機能性表示食品が生まれる

想い出せば1984年から実施された旧文部省特定研究「食品機能の系統的解析と展開」において、食品には生体調節機能があることを明らかにされ、「機能性食品」という用語ができた。その研究の中心だった東大農芸化学科は当時私が勤務していた獣医学科の隣の建物にあり、食品機能の研究はよく耳にしていた。

私の専門は薬理学であり、心臓血管系の医薬品の研究をしていたのだが、あるとき農芸化学の先生に意見を求められ、「食品由来の物質に本当に効果があるなら薬にすべきであり、薬にならないものに機能があると言えるのか疑問に思う」と答えた覚えがある。その後、1991年には機能性食品の研究がトクホにまで成長したのだが、これに対する筆者の批判的な心情は変わらなかった。

それから20年後の2011年、新たな機能性表示の制度を開発するために行われた消費者庁「食品の機能性評価モデル事業」に私は参加することになり、それ以来、機能性表示食品の問題にかかわるようになった。改めて健康食品の歴史、現状、問題点を見直す中で、私は条件付きで機能性表示食品の存在を肯定するようになった。

その条件とは、機能性表示食品制度を「いわゆる健康食品」を排除するためのツールとして利用することである。ここで言う「いわゆる健康食品」とは、トクホや機能性表示食品のように国が制度化したものではないもかかわらず、健康をうたう食品のことだ。もし、科学的根拠が明確であれば機能性表示食品に届出ればよく、それができないのであれば排除するというのが条件である。これに加えて、これだけ多くの消費者を健康食品に引き付けている背景にはプラセボ効果と心の癒しの効果があり、その検討を行う必要があるのではないかと考えるようになった。

●「健康食品の真実」と題した連載を開始します

そのようなときに、FOOCOM.NETの森田満樹代表に健康食品に関する記事の寄稿を依頼され、喜んでお引き受けすることにした。そして、せっかく書くのであれば健康食品の全体像が理解できるような記事を連載で書かせていただくことにした。この先、多少の変更はあるだろうが、現在のところ考えている内容は大筋次のようなものである。心の癒しが体調を好転させる効果があることは多くのエビデンスが集まりつつあるが、ここでは健康食品が安心や期待という心の癒しをもたらし、それがプラセボ効果を発揮して体調の好転という体の癒しにつながる可能性とその積極的な利用についても書こうと思っている。「こんなことも知りたい」などのリクエストがあればぜひお知らせいただきたい。

<連載のタイトル> 『健康食品の真実』-心の癒しと体の癒し―

<あらすじ>

1 医療の歴史

明治時代以前は医師も医薬品もなく、治療法は加持祈祷と経験的な民間療法だけだった。体の癒しはほとんど不可能で、心の癒しが中心の医療だったといえる。明治政府は西洋医療を取り入れて、僧医や漢方医が行う民間療法の根絶に努力した。心の癒しから体の癒しへの大転換である。戦後、高度経済成長の中で科学と医療は飛躍的に進歩したにもかかわらず、多くの人が「健康食品」と名前を変えた民間療法に夢を託し、神社仏閣で病気平癒を祈願する姿が続いた。人々は体の癒しだけでなく心の癒しもまた求めていたのだ。旧厚生省は健康食品の規制を強化したが、その効果はほとんどなかったのは、人々がそれを求めていたからだった。

2 安全に対する誤解

科学技術の発展が日本の高度経済成長を支え、人々は経済的に豊かにはなったのだが、その代償として化学物質公害や食品の汚染が発生し、科学に対する人々の信頼は不信に変わっていった。化学物質はがんを引き起こすという考え方が常識になり、食品添加物や農薬が嫌われるようになった。人工は危険、天然・自然は安全という考え方が広まり、日本では遺伝子組換え作物の栽培は実質的にできなくなり、医療を拒否して健康食品で病気を治療しようとする極端な考え方まで現れた。現実の被害がなくてもこれらを拒否するという心情は、健康食品に心の癒しを求める心情と類似の心理的構造を持つのであろう。

3 認知された健康食品

健康食品を厳しく規制していた旧厚生省が方針を転換し、安全性と効果が科学的に証明されたものには有効性の表示を認めることとしたのがトクホである。トクホがそれ以外の「いわゆる健康食品」を排除することを期待した措置だったのだが、その思惑は成功しなかった。そこで制度を思い切って簡略にした機能性表示食品制度が生まれた。果たして今度は成功するのだろうか?

4 健康食品の効果と安全性

健康食品はあくまで食品であり、その効果は医薬品を「有効」とすれば「微効」程度である。しかし、医薬品にも健康食品にもプラセボ効果、すなわち心の働きで体に変化が起こる現象がみられる。この効果を考慮すると、健康食品の効果は微効以上のものといえる。だからこそ多くの人が健康食品に頼り、心の癒しを得ているのであろう。安全性についてはトクホについては国が審査し、機能性表示食品については届け出企業が何らかの形で担保している。他方、「いわゆる健康食品」については効果はもちろん、安全性に関する情報は「宣伝広告」以外にはない。表示されている成分が実際に含まれているのかについてさえ分からない。

5 健康食品をめぐる問題

これまでにどのような問題が起こっているのだろうか。数多くの問題の中から、水素水、エコナ、ビタミン剤、グルコサミンなどについて考えてみる。また、このような問題が起こらないようにするために何をすべきかも考える。

6 健康食品とどう付き合うか

消費者、科学者、厚労省、企業の考え方の違いから、健康食品との付き合い方を考える。

●10月13日(土)市民公開シンポを開催

最後に、連載の内容の紹介も兼ねて、下記のような市民公開シンポジウムを開催することにしました。皆様のご参加をお待ちしています。

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名 称:第33回エイチ・エー・ビー研究機構市民公開シンポジウム

主 題:健康食品を食べたら健康になるの?

日 時:2018年10月13日(土)13時00分より

会 場:慶應義塾大学薬学部芝共立キャンパス記念講堂(港区芝公園1-5-30)

主 催:特定非営利活動法人エイチ・エー・ビー研究機構

共 催:慶應義塾大学薬学部、消費者庁

後 援:港区、日本医師会、東京都医師会、食の安全・安心財団

プログラム:

唐木英明「健康食品は効果があるの?」

畝山智香子「健康食品は安全なの?」

小島正美「健康食品に関する広告やメディア情報をどう読むかー賢い活用法はあるのかー」

参加予約:information@hab.or.jpまたは047-329-3563まで

詳細:https://hab.or.jp/sympo/next_sympo.html

 

執筆者

唐木 英明

東京大学名誉教授。食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会専門委員。日本学術会議副会長

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