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知っておきたい食肉の話|近田 康二

どんなコラム?
世の中は空前の肉ブーム。でも生産や流通の現場はあまり知られていません。食肉一筋の畜産ライタ―が、お肉のイロハを伝えます
プロフィール
食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

日本の長期熟成生ハムが、ヨーロッパ産を凌駕する日

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2019年10月3日

三大生ハムの1つであるイタリアの「プロシュート・デ・パルマ」

豚もも肉を塩漬けしたあと加熱せずに乾燥、熟成させたいわゆる「生ハム」。フランスでは豚肉加工品の総称を意味する「シャルキュトリー」の仲間に入る。イタリアの「プロシュート・デ・パルマ(パルマハム)」、スペインの「ハモン・セラーノ」に中国の「金華火腿(金華ハム)」が加わって世界三大生ハムと言われている。

世界的にはフランスの「ジャンボン・ド・バイヨンヌ」などが有名だが、こうしたヨーロッパの著名ブランドに匹敵するような品質の長期熟成生ハムが日本国内でも生産され始めている。今回は、「シャルキュトリー」の続編として長期熟成生ハムを取り上げる。

●今夏、軽井沢で「国産生ハムフェスティバル」開催

今年7月軽井沢で開催された「第3回国産生ハムフェスティバル」

今年7月7日、全国13工房の国産生ハムが軽井沢に集結した。長野県軽井沢町の農産物直売施設「軽井沢発地市庭(ほっちいちば)」イベントホールおよび中庭で行われた「国産生ハムフェスティバル」である。国産生ハム生産者の多くが小規模な工房であることから、国内の製造者同士の交流と生ハムのマーケット拡大を目的に開いたもので、一昨年と昨年に秋田県仙北市で開催されたのに続いて今回で3回目。

主催したのは国産長期熟成生ハムの普及活動や正しい知識の啓蒙活動を通じて生ハム市場を拡大させようと2012年に設立された国産生ハム普及協会(野崎美江会長)。同協会は2017年2月に一般社団法人に改組し、①国内に点在する国産生ハム生産者ネットワークの構築と情報発信、②国産生ハムの普及セミナー・イベント事業、③国産生ハムの認証事業、④国産生ハムを活用した地域活性事業、⑤国産生ハムと国産農産物の消費拡大を目指した販売ネットワークの構築、などの事業を行っている。

同協会が定義する国産長期熟成生ハムとは「イタリア、スペイン等の伝統的製法を応用し、日本独自の製法により日本で育った国産豚を天然塩のみで塩漬、12ヵ月以上かけて長期熟成させた非加熱ハム」というもの。野崎会長は「日本でこのような長期熟成生ハムが作られていることを知らいない人がまだまだ多く、全国規模のイベントとして製造者同士の意見交換と一般消費者が各地の生ハムを食べ比べられる国産生ハムフェスティバルを開催することにした」とフェスティバルのコンセプトを説明する。

同フェスティバルには全国13工房の国産生ハムが集結した

今年、軽井沢に参集したのは、 (株)十勝生ハム製造研究所(北海道帯広市)、おおわに自然村生ハム工房(青森県大鰐町)、グランビア生ハム工房(秋田県仙北市)、(株)柴田畜産(秋田県横手市)、(株)東北ハム(山形県鶴岡市)、育風堂精肉店(群馬県みなかみ市)、メゾン・デュ・ジャンボン・ド・ヒメキ(長野県長和町)、プロシュット・ディ・モリモト(山梨県北杜市)、(株)惣左衛門(千葉県柏市)、ぐるめくにひろ(東京都杉並区)、NORMA(神奈川県藤沢市)、舟健ファーム(愛媛県西予市)、シャルキュティ田嶋(佐賀県太良町)の13の工房。養豚生産者、精肉店、フレンチレストランのシェフ、野生鳥獣被害対策や食品循環システム事業として生ハム生産に至った人などその経緯、狙いはさまざまだ。

フェスティバル当日は雨模様ながら午前10時の開場前から来場者が駆けつけ、夕方まで途切れることなく賑わった。軽井沢という土地柄からか、来場する自動車ナンバーの多くが首都圏など県外のもの。生産者が自ら生ハム原木から切り立てを提供。生産者と直接話をしながら生ハムの食べ比べができる機会は滅多にないとあって、一般の消費者のほかレストランや居酒屋など飲食店経営者、養豚・食肉関係者ら1000人近くが来場し、全国各地で製造された生ハムの香り、おいしさの違いを楽しんでいた。

●生ハムとは

スーパーで販売されている非加熱食肉製品のほとんどが「ラックスハム」

いまスーパーで販売されている「生ハム」のほとんどは長期熟成ではなく、促成でつくる半乾燥食肉製品の「ラックスハム」だ。日本農林(JAS)規格でラックスハムとは「豚のかた肉、ロース肉、またはもも肉を整形し、塩せきし、ケーシング等で包装してから、低温で燻煙するか、または燻煙しないで乾燥したもの」となっており、「ケーシングで包装する」ことが特徴といえる。「漬け込み工程」から製品となるまで1ヵ月足らずで出来上がる。

一方、バラ肉を原料にした2つの食肉製品がある。見た目は同じように見える。1つはベーコンで加熱食肉製品、もう1つは「パンチェッタ」として非加熱食肉製品に分類されることもある。どこが違うのか。そもそも日本のハム・ソーセージなどの食肉加工品は、食品衛生法の「食肉製品規格基準」で次の4つに分類されている。

・加熱食肉製品……中心温度63℃30分以上加熱したウインナー、ロースハム、ベーコンなど普通のハム・ソーセージ。このほか中心温度120℃、12分間以上加熱の加圧加熱ソーセージもこの分類に入る。
・特定加熱食肉製品……ローストビーフなど。中心温度60℃、12分以上加熱。
・非加熱食肉製品…単一肉塊が原料のラックスハム、生ハム。ひき肉原料としたセミドライソーセージ。
・乾燥食肉製品…ビーフジャーキー、ドライドビーフ、サラミソーセージなどAW0.87未満、常温保存。

このように法律(食品衛生法)の区分でいうと「生ハム」はラックスハムも長期熟成した生ハムもすべて「非加熱食肉製品」の区分になる。同法上で非加熱食肉製品とは、「食肉を塩漬けした後、くん煙し、又は乾燥させ、かつ、その中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法による加熱殺菌を行っていない食肉製品であって、非加熱食肉製品として販売するものをいう。ただし、乾燥食肉製品を除く」と定義されており、つまり、加熱してなく乾燥でもない食肉製品という。熟成期間については言及されていない。

ただし、同法の製造基準は細かく規定されているが、その1つに「くん煙又は乾燥は肉塊のままで製品の温度を20℃以下又は50℃以上に保持しながら水分活性が0.95未満になるまで行わなければならない。ただし、最終製品の水分活性を0.95以上とするものにあっては、水分活性はこの限りでない」とある。

●水分活性(乾燥の度合い)で決まる保存温度

水分活性(AW = Water Activity)とは、微生物の生育に利用できる食品中の水(自由水)の割合を表していて、食品の保存性の指標になっている。純水の水分活性は 1.000。この値が低いほど食品は乾燥していて、微生物が繁殖または生存できない環境になる。

AW(水分活性)が0.95未満なら10℃以下の保存

非加熱食肉製品は水分活性が0.95未満のものは10℃ 以下で保存することになっている(0.95以上のものは4℃以下)。pHが4.6未満又はpHが5.1未満かつ水分活性が0.93未満のものにあってはこの限りでない(常温で保存できる)。

AW0.95以上なら4℃以下の保存

ラックスハムはほとんどがAW(水分活性)0.95未満なので、10℃以下の保存温度となる(AW0.95以上なら4℃以下)。

このように日本の非加熱食肉製品はイタリアやスペインなどに比べかなり厳しい規制といわれる。加熱しない食肉製品は乾燥程度によって「非加熱食肉製品」と「乾燥食肉製品」と区分されているが、欧米諸国では法律的に区分されていないし、製造者も両者の相違を意識しながら製造しているわけではない。こうした背景には食肉製品の歴史の差があるようだ。昔から食肉製品が人びとの食生活に密着、さまざまな肉製品の特徴を製造者も消費者も深く理解しているので、あえて法律的に厳しく規制する必要がないためと考えられる。これはわが国で魚の刺身や干物に微生物規制がなくても食生活の智恵として支障なく流通・消費されているのと同じ状況といえる。

●長期熟成生ハムの市場規模は約50億円

日本で生ハム(非加熱食肉製品)が食品衛生法の中で規定されたのは1982年(昭和57年)5月。それまでは同法で生ハムの規定がなく製造・流通が閉ざされていたが、欧米との往来が盛んなるにつれに、日本国内でも生ハムが流通できる法律措置が求める声の高まりを受けて、食品衛生法の食肉製品の成分規格の中に生ハムについても製造基準、保存基準が定められた。輸入品についても1996年(平成8年)にイタリア、2000年(平成12年)にスペインからの輸入が解禁されている。

グランビア生ハム工房の熟成庫(秋田県仙北市)

生ハムが解禁されてから35年。当初は中堅加工メーカーも長期熟成タイプの生産に手がけたが、前述のように最近では製造期間が短いラックスハムがほとんどだ。1年以上の長期熟成生ハムの国内市場はイタリア、スペイン産が主流だが、ここ10年ほどの間に国内でも長期熟成タイプの生ハムを生産するところが増えてきた。数年前までは数えるほどだったが、最近では北海道から鹿児島県まで全国で30数カ所に及ぶ。専門業者、手づくりソーセージ店、レストランのほか、養豚関係者が手がけているのが目立つ。

平成 30 年度 JRA 補助事業として初めて行われた長期熟成生ハムの市場実態調査によると、日本のハムの年間市場規模3800億円のうち長期熟成生ハムは約50億円。イタリア、スペインなどEU産が大半を占めており、国産は2億7000万円、全体の5%程度と推定している。

日欧経済連携協定(EPA)が今年2月1日に発効し、関税が初年度で4.3%に下がる。さらに10年間で撤廃されるため国産の長期熟成生ハムのマーケット拡大は難しい面はあるものの、「近い将来、日本の長期熟成生ハムがヨーロッパ産を凌駕する」と断言する生産者もいる。豚肉部位の中では最も需要が低いもも肉がハイエンド商品の原料としての認知度が高まれば、今後の養豚振興に刺激を与えることになりそうだ。

野崎会長は「まだまだ国産長期熟成生ハムの認知度は皆無に等しく、生ハムフェスティバルのような食べてもらう場を重ねていくことが大切と思う。原料は工房のある地域に密着した国産もも肉が多く地域の活性化に繋がる」としており、第4回は来年10月に軽井沢で開催するほか、今後地域ごとのイベントも検討していくようだ。

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