科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

国民生活センターの予算とイニエスタの年俸

佐藤 達夫

キーワード:

国民生活センター相模原事務所

「全身はスリムになるのに、胸だけが大きくなる。AカップがDカップに!」などの宣伝文句につられて、多くの若い女性が月経不順や皮膚障害などに襲われたニュースを覚えているだろうか? 消費者からの相談を受けて情報発信したのが国民生活センター。神奈川県にある本部を見学する機会をえたので【※】ご紹介する。

 

■こんな詐欺や危険な目に遭ったことはないか?

消費者が、効きもしない健康食品をだまされて買ってしまったり、子どもが小さなおもちゃを間違って飲み込んで重大な障害を負ったりしたような際のニュースで耳にする国民生活センターという名称。「聞いたことはあるけど何をしている組織なのかはよくわからない」という人がほとんどだろう。

独立行政法人国民生活センターは、1970年に発足し、2003年に新制度の元で再スタートした組織で、「消費者問題・暮らしの問題」に取り組む“要”の存在。消費者・生活者と事業者と行政を「たしかな情報」でつなぎ、公正で健全な社会を、さらに、安全で安心できる生活を実現するための組織だ。

国民生活センターの活動の中から、最近話題になった事例を具体的にいくつかご紹介する。

■美容を目的とした「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品

プエラリア・ミリフィカの展示

まずは冒頭で紹介した「バストUPとスリムUPを同時にかなえる」と銘打った健康食品の例。全身は痩せるけど胸だけ大きくなる、と聞いただけでも「アヤシイ!」と気づきそうなものだが、2015年あたりから被害者が急増した。消化器障害・皮膚障害・月経不順または不正出血などの被害が寄せられた。

国民生活センターの調査の結果、プエラリア・ミリフィカには女性ホルモンに似た作用を持つ成分(植物性エストロゲン)が含まれており、それが主原因だとして、注意喚起をした。

医薬品のような成分を含んでいて何らかの作用があるのであれば、必ず副作用もある。食品だから(健康食品だから)といって、いい作用(有効性)だけあって、悪い作用(副作用?)がない、などということはありえない。逆にいえば、悪い作用がまったくないのであれば.効き目もまったくないと考えるべき。

■震災に便乗した悪質商法

「地震で落ちた屋根瓦の修理をする」といって高額な修理を契約させられる。「震災後のリフォームには行政から補助金が出る」とウソの情報を提供して勧誘する。中には「いま北海道産のカニを購入すれば、その売上金の一部を震災の義援金にする」などという善意につけ込む手口もある。

国民生活センターでは、すぐに契約をしたり義援金を支払ったりするようなことはせずに、少しでも不安を感じたらお近くの消費者ホットライン=電話で188(イヤヤ)番、あるいは警察に連絡するように注意喚起している。

■架空請求ハガキなどの裁判起訴最終告知ハガキによる詐欺

「スマホで閲覧した有料サイトの料金が支払われてない」あるいは「購入した商品の料金が支払われてない」ので、裁判所に訴えるというハガキが届く。「訴訟」「差し押さえ」などの専門用語が書いてあり、差出人があたかも実在する行政機関のようなので(本物の行政機関の名前が書いてあることもある)、あわてて電話をすると、弁護士を名乗る人物が対応し、多額の金銭を要求される。

ネットでさまざまなサイトを閲覧した覚えがある若者や、買い物をしても忘れてしまうことが多い高齢者は、あわてて電話してしまいがちだとか。国民生活センターでは、ハガキに書かれてある番号にはけっして電話をせず、消費生活センター等に連絡するように薦めている。

■多発する「子どもの事故」

日常的に発生する「事故」の中では小さな子どもの事例が圧倒的に多い。今年に入ってからでも、トイレのおむつ交換台からの転落、倒れてきた家具やテレビの下敷きになった事故、車の中に残してきた子どもの熱中症事故、ベランダや窓からの転落事故等々、あとを絶たない。

国民生活センターでは、それぞれのケースで「原因となった器具や道具に危険な要素がなかったか」を検証し、事業者や使用者に注意喚起をする

マグネットボールの誤飲事故

今回の見学会で実際に見せてもらったのは、小指の先ほどもない小さな丸い磁石(マグネットボール)。赤ちゃんでも飲み込める大きさ(小ささ)だが磁力は強大。金属製なので、1つだけ飲み込んでも、もちろん大変。重篤な事例では、赤ちゃんがこれを複数個飲み込み、胃の中の磁石と腸の中の磁石がくっついてしまい、その間にある胃壁と腸壁が壊死して穴が空いてしまった例もある。

 

■暮らしを守るのに充分な人員と予算を!

ここで紹介したのは、国民生活センターの活動のごくごく一部。同センターで扱っている「国民生活を脅かす事例」は山ほどある。その対象となる年齢は生まれたばかりの赤ちゃんから超高齢者まで、取り扱う物品は食品・車・電化製品・玩具・衣服・家具など「すべての物」、健康な人から病人まで、生活保護を受けている人や投資に余念がない人等々、きわめて広範囲に及ぶ。同センターで取り扱う事例と関係なく日常生活を送っている人は「1人もいない」といってよいだろう。すべての消費者・国民の味方だ。にもかかわらず、同センターの存在やその中身を知っている人は限られている。

■国民生活センターの主たる業務は次の7つ。

1)相談:消費者センター等では解決困難な相談の処理方法等をアドバイスしたり、「消費者ホットライン」(188)で最寄りの消費生活センター等に繋がらなかった相談を受付たりする。また、相談に基づく注意喚起や制度等に関して改善要望。

2)相談情報の収集・分析・提供:PIO-NETを通じた相談情報の収集・分析。国会・中央省庁、消費者団体等からの照会等に相談情報に基づく情報提供を行なう。

ロボットによる耐久試験・商品テスト

3)商品テスト:各地の消費者センター等に寄せられた商品の「苦情相談を解決する為のテスト」や、危険が予測される商品による「被害の未然防止・拡大防止の為のテスト」などを、「現物」を使って行ない、商品改善、規格・基準等に関する改善要望。

4)広報・啓発:消費者への注意喚起情報などを、記者会見やリーフレット、ホームページ等で情報提供するとともに、地方消費者行政事業を支援。

5)教育研修・資格制度:消費生活相談員や行政職員等の能力向上のための研修。「消費生活相談員資格試験」(国家資格取得のための試験)を実施。

6)裁判外紛争解決手続:「重要消費者紛争」の適切・迅速な解決に向けた裁判外手続きを実施し、結果概要を公表。

7)適格消費者団体支援:特定適格消費者団体が申し立てをする消費者被害回復のための仮差押命令の担保を立てる事務の実施と支援。

主な活動は上にあげたようなものだが、どれ1つをとっても、膨大な時間と人員と予算を必要とする。これを、国民生活センターは150人に満たない人数で実施している。

さらには、その予算規模は平成30年度(の当初予算)で32億9千万円である。これを多いとみるか少ないとみるかは個人の考え方によるのかもしれないが、潤沢な予算とはいいがたい。

 

突然に話は変わるが、今年、Jリーグのヴィッセル神戸に入ったサッカー選手・イニエスタの年俸が32億5千万円と報道されている。イニエスタ選手は世界でもトップレベルの選手だが、ピークは過ぎている。これと比較するのは不適切ではあろうが、国民の生活を守るための予算が、1人のサッカー選手の年俸とほぼ同じというのは、あまりにも情けなくはないだろうか。

国民の生命・財産を守る「本気度」は、政治家の言葉にではなく、そこに費やす予算に現れる。国民(消費者)はこういうところにもっと声を上げるべきではなかろうか!

【※】公益を目的とする機関や企業・グループの方々が、国民生活センターを見学(教育や研修などが目的)するには、原則として10人以上のグループで申し込むことが必要。ただし、政治や宗教に関連するもの、あるいは商品やサービスの販売のための説明会などの場合はお断りすることもある。希望者は直接問い合わせること。

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

生活習慣病を予防し、健康で長生きするための食生活情報を提供します。氾濫する「アヤシゲな健康情報」の見極めかたも