科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

「遺伝子組み換え食品表示」の何が問題か

佐藤 達夫

キーワード:

●「遺伝子組み換えではない」表示に違反が出ないか!?

2019年1月25日に東京都千代田区で開催された消費者委員会食品表示部会の第50回の主題は「食品表示基準の一部改正(遺伝子組み換え表示)に係わる審議」。審議も回を重ねているが、今回の主たるテーマは「監視」つまり「遺伝子組み換えに関する表示に違反があるかどうかを、どのような仕組みで監視するか」である。

遺伝子組み換え表示は(加工食品であれば)原材料の農産物が「遺伝子組み換えかどうか」に着目した食品表示制度だ。表示の監視は「遺伝子組み換え農産物が混入していない」ことを証明する書類の確認(これを社会的検証という)を基本として、その食品に「遺伝子組み換え成分が含まれているかどうか」という科学的検証を組み合わせて行なわれる(詳細は当日資料3「科学的検証と社会的検証を用いた遺伝子組換え表示の監視の考え方」参照)。

当日資料3-1

冒頭、消費者庁の担当者が、加工食品の監視の仕組みを説明。それによると、監視は基本的に「二段階方式」で行なわれる。まずは加工食品自体に「遺伝子組み換え」の根拠(導入された遺伝子等)が見つかるかどうか。それがあれば、次に加工食品に使われている原材料に遡って「遺伝子組み換え作物」が使われているかどうか(使われていればどのくらいの割合であるか)を調べることになる。

後者の原材料の監視も、前述した社会的検証と科学的検証を組み合わせた方式が行なわれる。遺伝子組み換え成分が「不検出」の場合には、新しい制度では「遺伝子組み換えでない」という表示ができることになっている。この新ルールが守られているかどうかを最終製品でまずチェックして、問題があれば書類と原材料を調べるということ。

ここで問題となるのは、この「遺伝子組み換えでない」と表示してある食品に違反が出ないのか?という懸念である。この点に関しては、消費者委員会でも(主として消費者側を代表する委員から)これまでに何度も指摘があった。 

●スクリーニング検査と詳細検査の二段構え

とりわけ加工食品の場合には、食品製造過程が複雑なためにな工程で微量でも混入する可能性があり、表示違反が出る可能性も高いのではないかと懸念されている。すなわち「遺伝子組み換えではない」と表示されている加工食品から「遺伝子組み換え陽性反応」が出るケースをどうするか、という問題だ。

これに対する監視としては、まず市場に出回っている加工食品に対してスクリーニング検査実施する(委員会の場で明言はされなかったが、実質上、「遺伝子組み換えでない」表示をしてある加工食品に対するスクリーニング検査であろう:筆者注)。そこで「陰性」であれば表示に違反はないと判断する。ここで「陽性」が出た場合には、その加工食品の原材料のうちの「どの原材料が遺伝子組み換え作物であるか」を絞り込む検査を実施することになる(当日資料3-2)。

当日資料3-2

同時に遺伝子組み換え作物が混入した原因をも探る作業が行なわれる。製造ラインの管理が不適正であったために(意図せずに)混ざってしまったのか(コンタミネーションといわれる)、遺伝子組み換え作物ではない原材料を分別流通したにもかかわらず(意図しない何らかの原因で)遺伝子組み換え作物が混ざってしまったのか、あるいは、意図的に混入したケースもあるだろう(この場合は悪質と判断される)。

●「不検出=ゼロ」ではない

ここで1つ注意しなければならないことがある。それは「不検出」という結果が出る検証法の精度である。科学的検証法の精度によっては、遺伝子組み換え成分がごくごくわずかな場合には「検出できない」こともある。つまり「不検出=ゼロ」ではない。

検出法の精度を上げればごくごく微量の場合でも「陽性」になるし、精度が低ければ多少入っていても「陰性=不検出」となる。それがわかっていれば、最初(スクリーニングの段階)から精度の高い検出法を用いればいいと考えるかもしれないが、それには人手も時間もお金も膨大に必要となる。

どういう検出法を用いることになりそうなのか、が今回の委員会の主な議論となり、それに会議時間(2時間)の多くを費やした。遺伝子組み換え食品の流通や販売に反対の人の中には「できるだけ厳しい検出法」を採用してほしいと考える人もあるだろう。事業者サイドは、あまり厳しくすると「ごくわずかな意図せぬ混入」までもが検出されてしまい、それが表示違反になるのは避けたいと考える。監視する立場(消費者庁)としてはなるべく効率的であり、かつ効果的な検出法を採用したいところだろう。

事業者サイドも消費者サイドも、いずれにしてもできるだけ早く検出法を明らかにしてほしいところだが、結論は持ち越された(審議中なので当然だが)。

●アレルゲンと遺伝子組み換え成分とは違う

委員会も終盤にさしかかったころ、委員から、「ごくわずかに含まれているかもしれない遺伝子組み換え成分の検出に多大な労力を費やすことにはあまり意味がないのではないか。そんなことは事業者だけではなく、消費者も望んではないのではないか」という指摘があった。重要なことは遺伝子組み換え作物を原料として(意図して)使っているにもかかわらず「遺伝子組み換えではない」と、消費者を欺く表示をすることであり、そういうことをする事業者を監視・摘発することである。

これには筆者も同感である。遺伝子組み換え成分はアレルゲンとは違う。アレルゲンはごくごく微量に含まれていても、その物質に対してアレルギー反応を起こす人にとっては、重大な結果をもたらす危険性がある。そのため、可能な限りの科学的手法を用いてごく微量のアレルゲンであっても検出する必要がある。

また、アレルゲン表示が不正確であった場合には、それが「意図したものであっても・意図せざるものであっても」もたらす結果が重大なので、監視や取り締まりは厳重に行なわれるべきであろう。

しかし、遺伝子組み換え成分(作物)の場合は、アレルギー成分とは異なり、食べたからといってすぐに重大な事態を招くことはない。というか、そういう事態を招かないことが証明されているものしか流通・使用が許可されていない。法的な扱いや社会的な制度も異なってしかるべきだろう。

どの程度(レベル)の科学的検証法を採用するかは、たとえば事業者にとっては、それによって検査や分別管理のための等が異なってくるので明確にしなければならないだろう。しかし、全体像をながめた場合、この問題は多大な時間をかけて議論することではないのではなかろうか。

消費者委員会食品表示部会が議論・決定しなければならないことは山積している。効率的に審議を進めるべきではなかろうか。

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

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