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執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

遺伝子組換え表示:「不分別」と「不検出」がキーワード

佐藤 達夫

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2019年2月21日、東京・霞ヶ関で消費者委員会第51回食品表示部会が開催された。主たるテーマは前回に引き続き、遺伝子組み換え表示に係る審議。審議時間が最も費やされたのは(前回に引き続き)加工食品に混入している可能性のある組み換え遺伝子の「監視や検査法」について。

消費者庁が資料を元に、「監視体制の現状」と「検査の基本的な流れ」を解説した。内容が専門的でもあることと、この説明に対する委員の質問や意見が前回と重複することもあるので、ここでの解説は省く。この点に興味ある人は、近日中に議事録が公開されるであろうから、そちらをご覧いただきたい。ちなみに前回(第50回)の議事録は消費者庁のホームページに公開されてある。

ここでは、筆者がここ何回かの食品表示部会に参加していて「一般消費者が(遺伝子組み換え表示だけではなく)食品表示を正しく理解する上で避けては通れない用語」があることに気がついたので、それについてご説明したい。

食品表示部会でもたびたび議論されるし、実際の食品表示にも用いられるであろう「不分別」と「不検出」という2つの言葉である。まずはじめは「不分別」。

●「不分別」は「ほぼ、混入している」という意味

「遺伝子組換え不分別」の表示があるマッシュポテト

消費者(こう表現していけなければ「少なくとも筆者」)は、遺伝子組み換え作物がこの世に登場・流通するまでは「不分別」という言葉を耳にしたことがなかった。そこにいきなり、たとえば「原材料名:トウモロコシ(遺伝子組み換え不分別)」などという表示が義務づけられたのだから、消費者が混乱するのも無理はない。何の予備知識もなくてこの表示に出会ったとき「この加工食品には遺伝子組み換えトウモロコシが含まれているのか・いないのか」がわかる消費者はいないだろう。

不分別というのは、読んで字のごとく「分別してない」という意味だ。現在、地球上ではきわめて多くの遺伝子組み換え作物が栽培されており、日本のように大量の農作物を輸入している国には、遺伝子組み換え作物が流入していると考えてよい。とりわけ、ダイズ・トウモロコシ・ワタ・ナタネ等を原材料とした加工食品には、遺伝子組み換え作物が原材料として含まれている可能性がきわめて高い。

栽培する作物の種はもちろんのこと、栽培する土地、収穫する機械、収納する倉庫、運搬車両、食品生産工程等々の、すべての段階において、遺伝子組み換え作物が混入しないように厳密に「分別」しなければ、原材料中に遺伝子組み換え作物が含まれてしまう可能性のほうが高いのである。つまり実質上、「遺伝子組み換え不分別」というのは「ほぼ、遺伝子組み換え作物が混入してます」という意味に受け取っていいだろう。

●分別の努力したのだから「遺伝子組み換えでない」表示を認めてほしい

消費者が遺伝子組み換え食品を「好んではいない」現状では、自社の食品に「遺伝子組み換え不分別」ではなく、遺伝子組み換えを分別した「遺伝子組み換えでない」という表示(こちらは任意表示)をしたい事業者が多くなる。しかし前項に書いたように、分別して「でない」と表示するためには生産・流通から加工・販売にいたるまで、多大なエネルギー投入を余儀なくされる。もちろん、費用も膨大にかかってくる。

そこまでやっても(神様のやることではないので)「100%確実」というわけにはいかなかろう。何らかの事情で「意図せぬ混入」があるかもしれない。上に書いたように「でない」表示は任意表示つまり「書いても書かなくてもいい」表示である。事業者の都合で勝手に(?)書いたのにそれが(結果的に)ウソ表示だとなると、消費者の理解は得られない。でも、混入しないように多大な努力をしてあるので「でない」表示はしたい・・・・事業者にとっては悩ましいところだ。

●「遺伝子組換えでない」と表示するためには「不検出」

そこで、分別の努力をしたのであれば、「ごくわずか」に混入があったとしても「おとがめなし」にしてほしい、と考える事業者が出てくるのは当然だろう。そこで問題になるのが「ごくわずか」というのはどのくらいなのか、という問題である。ここで2つめのキーワード「不検出」が出てくる。

これまで(2011年の表示制度が決まったとき)は、その数値が5%以下とされていた。しかし、諸外国を見ても3%以下だとか0.9%以下で、5%近くまで認めている国はない。5%近くも入っているのに「遺伝子組換えでない」と表示をするのはいかがなものか―こうした意見がずっとあった。

それではどこまで下げるのか。0%ということはまずありえないので、「不検出」とする方針が消費者庁の検討会(2018年3月報告書まとめ)で決まった。そして「不検出」はどこまでなら「よしとする」のか、分析方法や監視指導も含めて食品表示部会で議論されている。現時点では、不検出でなければ「遺伝子組み換えでない」とは表示できなくなるという方針が決まっている。

●代わりの表示をどうする?

しかし、分別の努力をしたのに、少し混ざってしまうような場合、どう表示すればいいのか。代わりの表示として、消費者にほとんど理解してもらえない「遺伝子組み換えの混入を防ぐため分別」などという言葉では物足りないので、その場合には「遺伝子組み換えではない」という表示も許容してほしいという事業者も現れる。微妙な問題なので、なかなか結論が出ないのも理解できるところ。

代わりの表示をめぐっては、食品表示部会で「遺伝子組換え品種混入率5%以下」などの提案が出ているが、数値を示すのはどうかという意見もあり、なかなかまとまらなかった。こうした議論を受けて、消費者庁は今後、Q&Aなどで事例を示すことになる。

遺伝子組み換え表示に関して、いずれは、何らかの結論が出されて、具体的な表示案が示されることになる。いずれにしても、遺伝子組み換え表示を理解するポイントは「不分別」と「不検出」という2つのキーワードになりそうだ。消費者はこの言葉の持つ意味をしっかりと理解しておく必要があるだろう。

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

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