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食情報、栄養疫学で読み解く!|児林 聡美

どんなコラム?
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
プロフィール
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在同大学特任助教。専門は栄養疫学。国家公務員の経験も持つ

計画は研究の要:疫学調査の裏側お見せします3

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2016年7月29日

 私が関わった「3世代研究」を例に、疫学調査がどのように進められるのか、その実態をご紹介しております。
 前回は最初に取り掛かった質問票づくりの手順をご紹介しました。
 しかし、まだ準備は終わりません。引き続き見ていきましょう。

●調査計画には他の研究者のチェックが入る

図1. 調査スケジュール:最も時間を要した質問票作成に続き、倫理審査の準備、参加校の募集、必要な物品の用意など、たくさんの準備が必要でした。

図1. 調査スケジュール:最も時間を要した質問票作成に続き、倫理審査の準備、参加校の募集、必要な物品の用意など、たくさんの準備が必要でした。

 質問票作成以外に行った準備は、調査実施の申請手続き、共同研究者への研究参加呼びかけ、調査で使うマニュアルや説明書の作成、必要物品購入など、多岐に渡ります(図1)。
 このうち、早めに開始したのは「倫理審査」と呼ばれる、調査実施計画書の審査を受けるための、大学への申請手続きです。

 ヒトを対象とした研究を実施する場合には、必ずこのような審査を受け、承認を得ておかなければなりません。
 研究対象者の同意を得て実施されるか、個人情報保護などの倫理的配慮は十分なされているか、対象者や協力者に対して過度な負担を強いていないか、といった、研究に関わる人たちの倫理面に特に注目しながら、第三者の目で研究計画が審査され、研究実施の承認を得ます。
 審査は大学や専門機関に設置されている倫理委員会で行われます。
 今回は東京大学医学部倫理委員会に審査を申請しました。

 3世代研究で実施するのは質問票調査ですので、調査中に対象者の方が何か危険な目にあうようなことはあまり考えられません。
 けれども、対象者の方からは様々な情報を頂きますから、その扱いには慎重になる必要があります。

 また、質問数がかなりの数ですから、回答にある程度時間もかかります。それは対象者に負担をかけるということになります。
 審査員からは、個人情報を削除したうえで入力業者に質問票を渡すようにとか、回答にかかる時間は適切かなど、細かい指摘や質問を受けました。
 審査ではそれらに丁寧に回答し、書類を修正し、再度申請し、ようやく承認を得る、という一連の事務手続きが必要です。

 委員会の開催も月1回程度とそれほど頻繁に行われるわけではないので、書類の作成を始めてから最終的に承認が下りるまで、少なくとも3か月はかかります。
 ヒトを対象にした研究の場合には、ある日思いついたことをすぐに調査することはできず、このように計画を第三者の目でも確認してもらい、実施に問題がないかを確認する作業が必要なのですね。
 そのためにも、計画書を丁寧に作成しておくことが大切です。

●研究者もお金を稼ぎ、管理する

 倫理審査の準備と並行して、対象者数を確定させ、必要な物品を購入しておかなければなりません。
 今回使える予算から、何人くらいなら調査できるかを計算することにしました。
 この予算とは研究費と呼ばれているお金のことです。
 今回は、研究責任者である当研究室の佐々木敏教授が、文部科学省の科学研究費という国の予算を獲得したため、調査を実施することができました。

 研究にはお金が必要ですが、ただ待っているだけでは研究費は回ってきません。
 国立大学でももちろん、研究をやりたければ自分たちで稼いで研究費を用意しなくてはなりません。
 そのため研究者たちは、色々な研究費に応募して他の研究者たちと研究計画の内容を競い合います。
 今後必要な知見が得られ、実施可能性のある優れた計画書を書けている研究者だけが研究費を獲得できるのです。
 そして、研究はその限られた予算のなかでやりくりしながら実施することになります。

 質問票の項目数にも予算が影響したことは前回ご説明したとおりです。
 このように、研究費を獲得するのにも計画書は重要です。
 何しろ、研究ができるかどうかは、必要な予算が獲得できるかどうかにかかっていますし、それが計画書によって判断されるのですから!

●一緒に研究したい人、この指とまれ

 予算額から、学生の参加者数を7千人程度にはできそうだという見込みが立ちました。
 そこで、2010年秋には、研究に協力してくださる共同研究者への呼びかけが始まりました。
 学会での説明会開催や、知り合いの先生方への呼びかけなどを行いました。
 過去に研究を一緒に行ったことのある先生方に加えて、新たに関わりたい、この経験を生かして調査を実施できるようになりたい、といった意欲のある先生方も手を挙げてくださいました。

 参加者見込み数が目標人数に達したところで、呼びかけを終えました。
 最終的には全国35都道府県の栄養士・管理栄養士養成校(栄養関連施設)85校の先生方に共同研究者となっていただき、一緒に調査を進め、その先生方が質問票を配布できる学生さんに参加を呼びかけることになりました。

●参加のお礼は個人ごとの食事結果票

 もちろん、調査をお願いしても、全員が答えてくださることはありません。
 特に今回は申し訳ないことですが、答えていただいても参加者のみなさんに謝礼などをお渡しする予算の余裕はありませんでした。

 ただ、各自の食事質問票の回答を基に作成される、現在の食習慣と食事改善のポイントのアドバイスが書かれた個人結果票を、参加者全員にお渡しすることにしていました(図2)。
 十分なお礼とは言えないかもしれませんが、参加者の方にも何らかのメリットも提供するべきであり、データをいただくだけではいけない、というのが、研究責任者である佐々木教授の教えであり、私たち調査実施側の重要視したことです。

図2. 参加者に返却した食事結果票:調査に参加くださった方へのせめてものお礼のため、全員に食事の結果票をお返ししました

図2. 参加者に返却した食事結果票:調査に参加くださった方へのせめてものお礼のため、全員に食事の結果票をお返ししました

 今回は、例えば母・祖母世代は参加できず、学生だけの参加となってもよい、としていましたが、結果的に学生7割、母親6割、祖母世代3割強の方が調査の呼びかけに応じて参加してくださいました。
 一般的な行政調査では回答率が3割程度と聞く中で、お礼が食事結果票のみにも関わらず、このようにたくさんの方が参加してくださったのは、丁寧に調査の内容を説明し、参加をお願いし、結果返却があることを伝えたことが関係しているかもしれません。

 こうして秋ごろまでに、大学内での準備が進み、調査校や参加者数の目途がたちました。
 間もなく共同研究者の先生方への必要物品の発送が始まります。
 準備はまだまだ続きます。

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