科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

質問票は簡便?:質問票開発の裏側お見せします

児林 聡美

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図1. わたしたちの研究室で開発された食事歴法質問票:あらかじめ記載されている様々な食品を食べている頻度やその他の食習慣に関して選択肢にチェックマークをつけて回答する質問票です。

図1. わたしたちの研究室で開発された食事歴法質問票:あらかじめ記載されている様々な食品を食べている頻度やその他の食習慣に関して選択肢にチェックマークをつけて回答する質問票です。

 前回ご紹介した食事記録法は、実際に食べた物をとても詳しく調べることができる方法でした(連載第14回 はかるだけなら簡単?:食事記録法の裏側お見せします 参照)。
 とはいえ、食材ごとに秤や計量スプーンで秤量する方法は、対象者の方にも調査員にも負担の大きな方法で、数日間の実施がやっとです。
 一方で、食べている食事は毎日違っていて、ある1日だけを調査しても食習慣を知ることはできません(連載第13回 昨日の食事は「いつもの」食事?食事に見られる日間変動 参照)。
 健康に影響を与えるのは長期間の食習慣ですから、食事改善のためには詳しい数日の食事の内容ではなく、少しあいまいでもよいので長期間の食事の内容を調べる必要があります。
 それを簡便に行える方法としては質問票を用いた方法がありました(連載第12回 太っている人の「食べていない」はウソ!? 申告誤差の実態 参照)。
 はかるのは簡便とはいえ、この質問票が開発されるまでには様々な苦労があります。
 その開発の過程を見てみましょう。

●食事歴法質問票とは

 今回は、私たちの研究室で開発された食事歴法質問票を紹介します。
 A4で4ページあり、この中におよそ90項目の質問が書かれています。
 最近1か月の間に食べた食事の内容を思い出して答えるようになっており、「脂の少ない魚」や「たまご」などの食品を1か月の間にどのくらいの頻度で食べたか、「毎日1回」「週2~3回」「週1回」「食べなかった」などの選択肢から選ぶようになっています(図1)。
 そのほかに、めんのスープは飲むか、肉料理の調理法のうち「焼く」「煮る」「揚げる」の頻度はどのくらいか、といった、食行動や調理・調味に関する質問も含まれています。
 通常15分くらいで回答できる人が多いようです。

●どんな構成にする?

 質問票を簡便に、機械的に処理するためには、記述式ではなく、選択式にするほうが適切です。
 紙面は限られていて、ページ数を増やすと回答の負担も増えてしまいますから、なるべく質問項目は少なくして、回答してほしい質問項目をすべて盛り込みたいところです。
 その回答だけで日常的な食習慣がはかれるようにするためには、いったいどのようにたずねるとよいでしょうか。

 まず、食べている食事の内容に関して、食品でたずねるのか、それらを調理した料理でたずねるのかは、大きな問題です。
 私たちはふつう、料理された食品を食べているので、料理で答えるのは回答者にとって答えやすい方法かもしれません。

 海外の質問票では、料理でたずねているものもあります。
 調理法が単純で、ある料理に使われる典型的な食品がほぼ決まっている場合には、含まれる栄養素の計算もある程度正確にできそうです。

 しかし、日本の食事のように、例えばみそ汁ひとつをとっても、使われている具材は家庭によって、そして同じ家庭でも日によって様々です。
 そのため料理をたずねる方法では栄養素の計算が正確に行えない可能性があり、料理よりも食品をたずねた方がよいとする考え方もあります(文献1)。
 それに、毎日の色々な料理を食べている私たちが、長期に渡ってそれを思い出すのは難しそうです。

 一方食品に関しては、どのような食品が消費されているかを調べた国の調査結果などもありますし、根拠をもって質問票を作成できそうです。
 過去の研究、入手可能なデータなどを考慮しつつ、日常を観察すると、日本人の食習慣をはかる質問票は、料理ではなく食品をたずねる構成がよさそうです。

●どの食品を聞く?

 選択式の質問票の場合はたずねた食品の回答しか得られませんから、一般的に日常で食べられている食品すべてをたずねておかなければなりません。
 どの食品をたずねるか、国の公表している食品摂取量の調査データや、食品の流通・消費量のデータなどを根拠に、よく食べられている食品から選んでいきました。
 また、ここでも質問項目をより減らすため、例えば含まれる栄養素の似ている食品はまとめて「だいこん・かぶ」という1つの質問でたずねるなどの工夫をしています。

●どのように量を聞く?

 摂取量を調べるためには、食べている食品に関して、その量をたずねておかなければなりません。
 海外の質問票では、1回に食べる量とその頻度をたずねるものや、頻度のみをたずねるものなど、いくつか種類があります。

 このうち1回に食べる量は、毎回食べる量が異なると正確に回答するのはとても難しいですから、量はたずねていない質問票も多いようです(文献1)。
 今回はなるべく質問項目の少ない質問票を作成するために、量はたずねないことにして、全員に同じ量を使うことにしました。
 その1回に食べる量は、出版されている料理レシピ本などを片っ端から調べてゆき、そこから決めました。

 その結果、例えば鶏肉を1回食べたと回答したときには、その量は75 g/回とする、という値がきまりました。
 ただし、これは女性の量で、男性は1回に食べる量が女性よりも多いと考えられるので、国の公表しているデータを参考に(文献2)、女性よりも多くなるように係数をかけることにしました。

●どのくらいの期間の食事を聞く?

 習慣的な食事をはかるためには、ある程度の期間の食事を答えてもらう必要があります。
 けれども、今朝食べたものさえすぐには思い出せない私たちです。
 あまりに長い期間の食事を答えてもらうのは難しいでしょう。
 食べたものに関する人の記憶は1か月間くらいが限度で、それより長い期間の食習慣を尋ねても1か月くらいを中心に答えるのではないかと思われます。

 それに、日本人の栄養素摂取量で季節変動があるのはビタミンCだけで、その他の栄養素摂取量には明確な季節変動が見られません(文献3)。
 このことから、栄養素の摂取量をはかるために、1年間の食事を尋ねる必要はなさそうです。
 国の食事摂取基準も概ね1か月間で調整することを推奨していますし(文献2)、質問票では1か月間の食事をたずねることにしました。

●そのほかに聞くべきことは?

 多くの食品とは異なり、調味料は食品として頻度を思い出すのは難しいですよね。
 そこで、この質問票では、各食品をそれぞれどのように調理して食べているかという調理法もたずねています。
 また、食事のときにしょうゆやソースをよく使うか、めん類を食べるときにスープを飲むかなどの食習慣も調味料の摂取に影響しますので、その回答を用いて食塩や油の量の推定もできるようにしています。

●きちんとはかれている?

 最後に、この質問票から得られた食事摂取量が、実際に食べた量をきちんと反映できているか、そしてどのくらいずれがあるのかを、質問票を使う前にあらかじめ科学的に検証しておかなければなりません。

図2. 食事歴法質問票検証研究のスケジュール:質問票に答えてもらったのち、1年間にわたる16日間の食事記録調査を行い、この食事記録の結果を長期間の実際の食事とみなして、質問票の結果と比較しました。科学的には「質問票の妥当性研究」といいます。

図2. 食事歴法質問票検証研究のスケジュール:質問票に答えてもらったのち、1年間にわたる16日間の食事記録調査を行い、この食事記録の結果を長期間の実際の食事とみなして、質問票の結果と比較しました。科学的には「質問票の妥当性研究」といいます。

 私たちが行った検証の研究では、質問票に回答してもらった対象者の方に、1年間にわたって4日間×4季節(合計16日間)の食事記録も行っていただきました(図2)。
 食事記録も1日間ではなくて16日間もとれば、その平均値を習慣的な摂取量であるとみなすことができますから、この量を基準にし、質問票から推定した摂取量とを比べることで、質問票の精度を検証しています(文献4、5)。
 たった1日の食事記録さえとっても大変だというのは前回お話ししたとおりです。
 これを16日間もやっていただいたおよそ200人の対象者の方々には、本当に頭が下がります。

 このような研究から、最近1か月の食事をこの質問票で回答すると、その人の習慣的な食事がおおよそ分かることが示され、安心して質問票を使うことができるようになりました。
 短時間で負担のない、はかるのが簡便な食事質問票を使うためには、その裏側で、方法を開発するための長い時間とたくさんの対象者の方や調査員の苦労があるのです。

参考文献:
1. Cade J, Thompson R, Burley V, Warm D. Development, validation and utilisation of food-frequency questionnaires – a review. Public Health Nutr 2002; 5: 567-87.
2. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2015年版. 2014.
3. Sasaki S, Takahashi T, Iitoi Y, Iwase Y, Kobayashi M, Ishihara J, Akabane M, Tsugane S. Food and nutrient intakes assessed with dietary records for the validation study of a self-administered food frequency questionnaire in JPHC Study Cohort I. J Epidemiol 2003; 13: S23-50.
4. Kobayashi S, Murakami K, Sasaki S, Okubo H, Hirota N, Notsu A, Fukui M, Date C. Comparison of relative validity of food group intakes estimated by comprehensive and brief-type self-administered diet history questionnaires against 16 d dietary records in Japanese adults. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.
5. Kobayashi S, Honda S, Murakami K, Sasaki S, Okubo H, Hirota N, Notsu A, Fukui M, Date C. Both comprehensive and brief self-administered diet history questionnaires satisfactorily rank nutrient intakes in Japanese adults. J Epidemiol 2012; 22: 151-9.

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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