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食情報、栄養疫学で読み解く!|児林 聡美

どんなコラム?
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
プロフィール
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在同大学特任助教。専門は栄養疫学。国家公務員の経験も持つ

若いときからの「節塩」で自分も社会も健康に

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2017年11月9日
図1. 年齢と血圧の関係:男女とも、年齢が上がるにつれて血圧は上昇しています。この上昇は30歳代の若いうちから見られ、高齢になってもずっと続いていることが分かります

図1. 年齢と血圧の関係:男女とも、年齢が上がるにつれて血圧は上昇しています。この上昇は30歳代の若いうちから見られ、高齢になってもずっと続いていることが分かります

 前回のコラムの終わりで、食塩と血圧の関係が話題になりました。
 よく耳にする「食塩は血圧を上げる」「高血圧予防のためには減塩が重要」という情報を、みなさんは正しく理解できていますか?
 「歳をとって、血圧が上がってきたら減塩しなくては」と勘違いしていませんか?
 そうではなくて、減塩というのは、実は若いうちから実施しておくことが大切なのです。
 今回は、知っておくべき食塩と血圧の関係と、めざすべき減塩の姿に関してお話ししたいと思います。

●若くても知らないうちに上がる血圧

 まず、食塩の話に入る前に、年齢と血圧の関係を知っておきましょう。
 図1は一般的な日本人の収縮期血圧の値を、年代ごとに示したものです(文献1)。
 男女とも、年代が上がるにつれて、血圧が上昇していることが分かります。
 注意したいことは、この上昇は30歳代の若いうちから徐々に起こっていて、そしてずっと続いているということです。
 血圧は、決して歳をとってから急に上がるわけではないのですね。

●食塩摂取量と血圧の本当の関係

 次に、食塩と血圧の関係を見ていきましょう。
 図2は、1日あたりに食塩をどのくらい摂取していると、1年後に収縮期血圧がどのくらい上昇するのかを示した図です(文献2)。

図2. 食塩摂取量と1年後の血圧上昇度の関係:血圧は年齢とともに誰でも上昇します。一方で、その上昇度は食塩摂取量が高いほど高くなります

図2. 食塩摂取量と1年後の血圧上昇度の関係:血圧は年齢とともに誰でも上昇します。一方で、その上昇度は食塩摂取量が高いほど高くなります

 この図から、食塩摂取量が多い人ほど、1年後に上昇する血圧が高くなることが分かります。
 もし、1日あたりの食塩摂取量がおよそ14 gの場合には、1年後には血圧がおよそ0.7 mmHg上昇しています。
 けれども、7 gの場合には、血圧の上昇は0.3 mmHgに抑えられます。
 これを1年後の違いだけを見ると、小さく見えるかもしれません。
 でも、食事は毎日食べていて、これの影響は何年も、何十年にもわたって続くことになります。
 そうなると、影響はとても大きくなります。

●30年後の血圧を予測してみよう

 これらの研究結果を使って、未来の血圧を予測してみましょう。
 例えば30歳代の男性の場合を考えてみます(図3)。

図3. 30年後の血圧の予測:食塩摂取量が多いほど、30年後の血圧は高くなります。若いうちから、もっと言えば子どものころから、未来の健康を見据えて食塩摂取量は低くしておきたいものです

図3. 30年後の血圧の予測:食塩摂取量が多いほど、30年後の血圧は高くなります。若いうちから、もっと言えば子どものころから、未来の健康を見据えて食塩摂取量は低くしておきたいものです

 図1から、30歳代の男性の血圧は124 mmHgでした。
 日本人の成人男性の1日あたりの食塩摂取量の平均値は14 gです(文献3)。
 この摂取量を30年間続けると、60歳代になったときの血圧は0.7×30からおよそ21 mmHgほど上昇して、145 mmHgとなっているはずです。
 すでに高血圧の仲間入りです(図3の黄色の丸印)。

 一方で、日本人の食事摂取基準(文献3)を守り、7 gの食塩摂取量を毎日続けたとします。
 すると、30年後の血圧上昇は0.3×30から9 mmHgですから、血圧の値は132 mmHgに抑えられています。
 まだ正常の範囲内です(緑の丸印)。
 この血圧132 mmHgという値は、食塩摂取量が毎日14 gだった人の50歳くらいのときの値です。
 食塩摂取量を若いうちから少なくしておくことで、30年後の血管年齢に15歳くらいの差が生じている、と言うこともできます。
 若いうちから減塩しておくことがいかに大切か、この予測からよく分かるのではないかと思います。

●薬よりも減塩!

 このように減塩の重要性が言われているにも関わらず、日本人の食塩摂取量は未だに高く、1日あたりの摂取量は、男性でおよそ14 g、女性でおよそ12 gです(文献4)。
 厚生労働省の定めている日本の基準値(文献3)は男性8 g未満、女性7 g未満です。
 本当は海外で定めている(文献5)5 g未満くらいに定めたいのですが、現状の摂取量があまりにも高すぎてその値はとうてい無理なので、日本の基準は仕方なくこの値になっています。
 日本人の食塩摂取量は欧米にくらべて高くなっていて(文献4)、その量を抑えることは、日本人全員が急いで取り組まなければならない課題です。
 それなのに、日本人の食塩摂取量を正しくはかることが長い間できておらず、摂取量はだんだん少なくなっていると誤解されていたために、その対策が遅れてしまっていることは、以前のコラムでご紹介したとおりです(連載第16回 見えない食塩をどうはかる?:24時間蓄尿 参照)。

 海外の研究によると、国民の食塩摂取量を減らすということは社会の健康づくりにとても大きな効果があるそうです。
 ある研究シミュレーションした結果によると「1日あたり1 gというわずかな減塩が2010年から10年間にわたって徐々に達成されるだけでも医療費抑制につながり、全高血圧患者への投薬よりも効果は大きいと考えられる。」と記述されています(文献5)。
 薬よりも減塩のほうが医療費抑制になるなんて、すごいことだと思いませんか?
 自分の健康のためにできることが、すぐにできる社会貢献につながっていくのですね。

●「減塩」よりも「節塩」がオススメ

 このような理由から、食塩摂取量をなるべく抑えることが重要であるという本当の意味をたくさんの人が知り、そして日本中で実践することはとても大切なことだと思います。
 私たちの研究チームでは、食塩を今より減らすという「減塩」よりも、食塩摂取量が多い人も少ない人もなるべく塩を節約して少なく使うという意味で「節塩」を呼び掛けています。
 大人も子どもも、みんなで節塩生活、ぜひとも取り組んでみませんか。
 そして、自分と社会を同時に健康にしてしまいましょう!

参考文献:
1. 厚生労働省. 第5次循環器疾患基礎調査. 2000.
2. Intersalt Cooperative Research Group. Intersalt: an international study of electrolyte excretion and blood pressure. Results for 24 hour urinary sodium and potassium excretion. BMJ 1988; 297: 319-328.
3. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2015年版. 2014.
4. Asakura K, Uechi K, Sasaki Y, Masayasu S, Sasaki S. Estimation of sodium and potassium intakes assessed by two 24 h urine collections in healthy Japanese adults: a nationwide study. Br J Nutr 2014; 112: 1195-1205.
5. WHO. Guideline: Sodium intake for adults and children. 2012
6. Anderson CA, Appel LJ, Okuda N, Brown IJ, Chan Q, Zhao L, Ueshima H, Kesteloot H, Miura K, Curb JD, Yoshita K, Elliott P, Yamamoto ME, Stamler J. Dietary sources of sodium in China, Japan, the United Kingdom, and the United States, women and men aged 40 to 59 years: the INTERMAP study. J Am Diet Assoc 2010; 110: 736-745.
7. Bibbins-Domingo K, Chertow GM, Coxson PG, Moran A, Lightwood JM, Pletcher MJ, Goldman L. Projected effect of dietary salt reductions on future cardiovascular disease. N Engl J Med 2010; 362: 590-599.

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