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農薬の今|内田 又左衛門

どんなコラム?
消費者の皆さん方のお役に立つ農薬の情報を提供し、科学的に説明し、疑問や質問等にも答えたい。トップバッターは私ですが以降、農薬の専門家が順次コラムを担当する予定です
プロフィール
大学時代(京大、UC Berkeley)から農薬の安全性研究に携わる。現在は農薬工業会事務局長、緑の安全協会委嘱講師。日本農薬学会会員

農薬と放射能についての安心とは・後編

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2011年4月8日

<編集部注:筆者のプロフィールは、執筆当時のものです>

(前編より続く)

2.安心への道筋
 安心は、安全と信頼により得られる。安全であっても、信頼がないと不安になる。例えば、中国製冷凍餃子事件で毒物メタミドホス混入による中毒発生があった時、一時的に残留農薬や中国製食品、さらには冷凍食品の信頼が失われてしまった。日本では、メタミドホスは厳密には農薬ではない。冷凍餃子における濃度も極めて高く、使用された農薬が残留した結果生ずる濃度レベルではなかった。したがって、これは毒物混入事件で、犯罪であるとして理解が進み、今の「安心」できる状態に回復したと考えている。

 中国製冷凍餃子事件のような人の健康に危害が及ぶ危機(クライシス)の場合、対応はリスク管理ではない。一部の餃子を抜き取り、分析して大丈夫だとは言えない。全部を分析しないと、意図的に混入したメタミドホスを検出できない可能性があり、安全だとは言えない。この場合は、兆候を見出した後、速やかな判断と的確な対応が要求される。クライシスマネジメント(危機管理)とリスク管理の違いは特に留意すべきである。

 目下、信頼が揺るいでいるのが、原子力発電所であり、放射能の安全管理である。想定外の出来事があった時のコミュニケーションとはどのようなものか? 当事者である東京電力あるいは国のクライシスコミュニケーションが有効であり且つ信頼に足るものであるかどうかが問われているのだと思う。有事のクライシスコミュニケーションは、当然に平常時のリスクコミュニケーションとは異なる。責任ある立場の人が、相手が安心できる発信をタイムリーに且つ継続的に出し続ける必要がある。しかし、まだその域に達してないのではないだろうか。

 諸外国では日本からの輸入農産物の放射能汚染監視を徹底したり、輸入禁止にすると言うが、なかば当然のことであり風評でも何でもない。一刻も早く事態を沈静化し安全性を保証すれば良いだけのこと。また、放射能汚染は一部に高濃度で混入したものではないので、抜き取り検査で十分安全担保ができる。しかしながら検査には特殊な検出器が必要で、その能力が不足している現状にある。これらの充実が喫緊の課題であるが、我国でももっと積極的な監視体制や安心対策、その結果公表があっても良いと思う。

 誤解されては困るが、これは「安心」の問題である。たとえ放射能汚染があっても暫定規制値(暫定基準)以下であれば「安全」であり、目下心配することはないと考える。

 最後に、有事のマスコミ報道が大変重要であることを申し上げたい。クライシスコミュニケーションは有事における情報や指示の伝達であり、時には科学的判断よりも政策的判断が重視されることがある。専門家からでる雑多な科学的見解や意見は非常時に求められる人々の速やかな判断や的確な対応を乱しかねないので、特に留意が必要であると。

3.人々との関わり(ベネフィット)
 農薬と原子力は、両者とも一般の人々には間接的ベネフィットしか与えない(直接的ベネフィットは農薬では農家、原子力では電力会社が享受する)。直接、消費者にベネフィットがあるモノではない。農産物や電力の安定供給やコスト削減等の間接的な恩恵を受けるだけである。その為、消費者にとっては有っても無かってもかまわない。「絶対安全」が得られないのであれば、無い方が良いと考えるのであろう。
 したがって、今回の地震による原子力発電所でのトラブルがあったりすると、極端に拒否反応や不安を掻き立てることになる。但し、今回は計画停電等もあったので人々もかなり不便を感じて間接的ベネフィットを実感できたかもしれない。

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