科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

中国離れにもリスクがある—中国期限切れ肉問題

斎藤 勲

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 米国大手食品卸会社OSIグループが所有する(owned by)企業「上海福喜食品」の従業員が期限切れの牛肉や鶏肉の使用、再包装や床に落ちた材料をまた拾って戻す映像などが報じられた。消費者には衝撃的な中国国営TV局の潜入取材の報道であり、通常の品質管理点検の弱点も報じられている。TVの前で堂々と?写っているのが事実なら会社と従業員の間には全く信頼関係がない。日本の大手ファストフード(fast food)店やコンビニが取り扱っていたため、「またか」という感じで、チキンナゲットなどの回収やタイ国への製造元変更などが相次いでいる。

 「中国の食品会社」が製造したと報道されているが、米国大手食品卸会社OSIグループの所有する食品会社の工場で生産されたものであり、当然、米国系大手などが食肉製品を利用するのは理解できる。27日には親会社が上海福喜の全商品回収へとの報道もなされている。

 2002年の中国産冷凍ホウレンソウ問題を契機に日本企業の多くは、中国で生産したものを輸入する場合、生産現場から作り上げる仕組みを構築し、農薬問題などが発生しない環境作りを進めてきた。しかし、輸入件数は第1位であり、違反率から見れば他の国よりも低いにもかかわらず、違反の絶対数では1位となることや、中国国内で報じられる段ボールの破片を入れた肉まん、廃油を集めて食用油にして販売している等々、中国の食品汚染問題は消費者の頭の中に根強く残っている。

 2007年末から2008年1月にかけて発生した冷凍餃子事件は、会社に不平を持つ従業員が製品にメタミドホスを注入し、その餃子を食べた10人の方が中毒を起こした。これで、一気に中国離れが進んだ。その結果、一般に販売されている冷凍食品等では国産製造表示の商品が増えているが、業務用では大量の原料・加工食材を安定的且つ安価に仕入れるために、衛生管理のシステムがいろいろの経験を経て出来上がっている中国製造の食品原材料・加工品が使われているのも事実である。

 大手ファストフード店が製造の変更先として決めたタイ国には日本の食品企業も進出しており、衛生管理レベルは向上しており、やむを得ない選択とは思う。だが、皆が一気に他国に変更したときこそ、食品問題のリスクは高まる。農薬だけでなく衛生面でも、通常の取引では問題ない場合も、注文点数がはね上がった場合の対応が一番リスクが高いのは、食品企業が身にしみて知っていることだと思う。生産能力、物流(気温、時間含む)、製造処理能力など、適正に行われて初めて力を発揮するものである。

 「やはり中国製は」「どうして中国から」「中国製造!」等々、テレビ報道などでは気持ち悪いという感情に訴えた批判報道が多い。だからといって、それを他国に変えたから大丈夫という保証はないし、むしろ短期的なリスクは高まる。

 いつもいつもこういった情緒的な対応ではなく、もう一度自分達作り上げてきたものを再点検して、今回のような事例への対応ができていたかどうか確認するのが一番大切である。それを捨ててすぐに他に乗り移っても当座は表面的には良いだろうが、今まで自分は何を努力してきたのか、小手先の衛生管理でいいのかということになる。

 中国の製造現場では、黙々と働く(働かされる)従業員のおかれた作業環境の厳しさは、実際見てみると実感できる。だからこそ現場で常駐職員などが日本的な気配りなどもしながら、決めた仕組みを守って働いてくれる環境作りを怠らないようにしておくことがリスク低減の近道であることは自明だろう。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。