科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

検査の終わり方。いつ、だれが、鈴をつけに行くのか?

斎藤 勲

キーワード:

FOOCOMウェブサイトで、白井洋一さんが8月4日のコラムでBSEの健康牛の検査廃止について、松永和紀さんが7月22日のコラムで放射性セシウムの検査について、述べている。その2つのコラムを読んで、常々感じている「検査のやめ方」について考えてみた。

 1.8月4日 農と食の周辺情報/白井洋一:「BSEの検査基準変更 健康牛の検査は廃止するが異常行動はしっかりチェック」について

食品安全委員会は、牛海綿状脳症(BSE)国内対策の見直しに係る食品健康影響評価(健康なと畜牛のBSE検査の廃止)に関する審議結果(案)について、本年7月13日から8月11日までの意見・情報の募集を行った。

BSE発生からの経緯は、

2001年 国内1頭目のBSE発生、10月全頭検査開始、肉骨粉飼料禁止

2005年 検査対象20月齢以上に引き上げ(しかし、各自治体は風評被害を恐れ全頭検査継続)

2009年 4月と畜場でのピッシング(脊髄にワイヤを挿入し牛が暴れないようにする)完全禁止、5月OIE総会で日本は管理されたリスク国に認定

2013年 4月国産牛検査対象30月齢以上に引き上げ、5月OIE総会で日本・米国は無視できるリスク国(清浄国)に認定、7月国産牛検査対象を48月齢以上に引き上げ(各自治体は全頭検査廃止)

2016年 健康牛の検査廃止の提案

紆余曲折はあったが、飼料管理・特定部位除去と、世界でもまれな全頭検査という仕組みを採用してBSE牛の対応を進めその結果を逐一報告し、日本におけるBSE汚染牛の発生を図式化(講演資料より)して対応策の有効性を示してきた。そして、リスク管理部門の厚生労働省が検査廃止に伴うリスク審査を依頼し、リスク評価を食品安全委員会が実施するリスク分析の仕組みが働いていると思う。国が評価し施策を実施しても、各自治体ではたとえ科学的に正しい判断でもなかなか全頭検査をやめられなかった過去もあったが、やっとここまで来たかという感じである。しかし、残念ながら実態は、現実のリスクを理解されたというよりも、消費者やマスコミのBSEに対する関心の低下が施策実現には必要であったということかもしれない。

2.7月22日 めんどな話になりますが/松永和紀:「5年を経た今、食品から放射性セシウムは検出されていない」について

冒頭に「何度でも、書かねばならない」との文字があり、松永さんの気持ちが良いも悪いも素直に出ている。厚生労働省は2011年3月から毎月放射性物質の食品検査結果を公表し続けている。毎年30万件ちかい検査(全品目で)が行われている。膨大な量である。検出頻度、レベルはこの5年間でイノシシなど野生動物や野生の山菜、きのこ等一部の限られた食材を除いて確実に下がっている。

実際に食べているものは大丈夫なのかという不安については、国や自治体などの検査結果は信用できないという方もいる。生協グループでは、日本生活協同組合連合会が中心となって組合員を対象として、実際に食べた食事を丸ごと検査する影膳方式で放射性物質の摂取量調査を2011年秋から進めている。その測定結果の経時変化もこのコラムで丁寧に紹介していただき、ありがたいことである。食品中放射性セシウムは、確実に減少してきていることは事実である。これは国の食事摂取量調査結果でも、ほとんどの食事でリスクの懸念のないことを示している。

問題は牛肉である。当初田んぼに落下し放射性物質が付着した稲わらを食べた牛の肉から放射性物質が検出される事例があり大騒ぎとなり、その結果と場などで事実上の全頭検査となり5年を経た今も測り続けられている。その数、全検査数の8割近くを占めているが、放射性セシウムの検出は2014年11月以降は測定限界(25ベクレル/kgが多い)未満である。毎月公表されている厚生労働省ホームページの検査結果のエクセル表を見てみるとよい。正直見るのが嫌になるくらい「検出せず」の牛肉が並んでいる。そろそろ何とかしないと。

あまり報道されたわけではないが、5月9日付で全国農業協同組合連合会、全国畜産農業協同組合連合会、日本食肉協会、日本食肉加工協会など牛の生産流通団体が協議し、本年6月1日から自主検査を終了する申し合せ書を出した。飼育管理が徹底され、2015年以降基準値を超えるのはなくなった、必要な検査は行政が行っているとの理由で、自主検査終了とした。

では行政が行っている膨大な牛肉中放射性物質の検査はどうすべきか?状況としては2005年に国はBSE全頭検査を20月齢以上に引き上げの指示を出したが、どこの地方自治体も従わなかった、というより従えなかったあの閉塞状況と似ている。それならば、BSE検査の様に牛肉の現行基準100ベクレル/kgで運用した結果、検査牛肉は測定限界未満の状況が続いており、この牛肉検査をやめた場合のリスク評価をリスク管理部門の厚生労働省はリスク評価の食品安全委員会に審査を依頼したらどうだろうかと単純に考えてしまう。

しかし、話はそう単純ではないらしい。食品安全委員会はすでに全食品で現状の規制が行われていれば十分安全性は保たれているとの見解であり、さらに牛肉だけそういった検査の廃止云々の評価(審査する前から結論はわかっている)はそぐわない。むしろ、リスク管理部門の厚生労働省が判断をだせばすむことかもしれない。

では、いつだれが鈴をつけに行くか?食品中放射性物質に対する取り組みと検査の在り方を考える等のリスクコミュニケーションの場も設けられているが、こういった機会を増やし、広く多くの方に参加して現状検査の意味を適切に理解していただく。まとめのあたりで、牛の生産流通団体の検査中止のような提言を、先ずは福島県をはじめ指定5県以外の検査の中止から実行したいと発言し、消費者の認識・理解を進め、生産者・流通団体が従えるような環境づくりをしていくしかないのかと思う。リスクコミュニケーションの相互理解をリスク管理に反映させる仕組みづくりである。リスクコミュニケーションの場も意見募集の場も、従来の何を言っても変わらないという諦観が変わるような取り組みと担当者の意気込みがほしい。

これが軌道に乗れば、夢物語かもしれないが、残留農薬問題も同様なステップで現状にそぐわない課題を議論して相互理解を深め、一律基準超過=廃棄などの不要なリスク管理を減らしていくために、食品衛生法第11条3項の一律基準超過時の対応も変更し(法律文を変える大変な仕事だが)、そのリスクを適切に評価判断・対応する仕組みづくりにつながっていけばと期待してしまう。

先は永いなあ‐‐‐。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。