科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

ついにきた、静岡の一番茶から規制値を超えるセシウム検出

斎藤 勲

キーワード:

● 民間の自主検査で、判明

 お茶の生産日本一の静岡県が6月7日と9日、独自に19産地の一番茶(製茶)を採取して検査したところ、結果は128~413ベクレル(Bq)/kg(製茶)で暫定規制値500Bq/kgを下回った。県は9日、「健康への影響を心配するレベルではなく、問題ないことを確認しました」と発表した。

 
 しかし、有機食品などを扱う東京の通販会社の自主検査で、静岡市・藁科地区(本山茶)の一番茶の製茶から放射性セシウムが暫定基準を超える量、検出されたため、県が9日、再度検査を行った。その結果、暫定規制値を超える679Bq/kgの放射性セシウムが検出された。通販業者は出荷を止め、製品を回収中という。
静岡県の茶の放射能調査結果ページ

 
 有名な通販会社が扱うのだからそれなりの品質銘柄のお茶なのだろうが、想定されていたとはいえショックな結果だろう。皮肉にも県の調査結果の一番高い414Bq/kgが本山茶なのである。9日夜のテレビニュースには関連生産者が集まって途方にくれた表情で協議している姿が映っていた。県がその後、藁科地区の茶工場の一番茶(製茶)の検査をしたところ、5工場で暫定規制値を上回り、県は出荷自粛と自主回収を要請した。

 
 行政は、全体的視野からサンプル調査してその結果を継続して発信し続けることがまず大切である。産地は広く商品数は多く、放射性物質の量も当然、バラツキがある。したがって、業者が自主検査を行った結果、暫定規制値を超過する商品も当然発生することであろう。

 
 その際は、個別対応をきちんとしていくことが大切である。悩ましいことであるが、全品検査はできない以上、冷静になり全体対応、個別対応をうまくかみ合わせて当座を乗り切るしかないだろう。発端となった神奈川県の生茶の検査も、安全のアピールのために始めた検査が裏目に出てしまった事例である。

 
● 茶葉か飲用茶か、農薬検査でも同じ悩み

 今回の茶騒動でもめたのは、どこの段階でのサンプルを検査するかであった。報道によれば、生産者をサポートする農水省は生茶と飲用茶での検査で安全性を確認すべきと主張したが、消費者団体は製品での検査を希望し、消費者庁を管轄する蓮舫大臣も「茶葉はふりかけとして食べる場合もあるので荒茶でやることが望ましい」と言ったという。

 
 厚生労働省は、原料の生茶だけでなく、水分が生茶と比べ5分の1位(その分濃度は逆に高くなる)の荒茶(ブレンド前の製品茶)にも暫定基準500Bq/kgを適用すると主張し、結局食品衛生法の暫定規制値を管轄する厚労省の考えで進むことになった。それが、今回の結果を招いている。

 
 では、残留農薬の検査はどうしているのか?
 市販品である製茶を検査するが、今回の問題を含んだ形で運用されている。茶の検査はそれぞれの農薬について、製茶から直接抽出して検査するものと、今回問題となっている飲用の形で抽出した後、検査を行う2通りの方法で行われているのだ。

 
 一斉分析で茶葉を直接抽出して結果を出した際に農薬の残留に問題がある場合、検査担当者はどちらの方法で検査すべき農薬か、厚労省の通知をチェックして、お湯で抽出する場合は再度、その方法でやり直す必要がある。
 どんな抽出操作をするのか通知法の一部を紹介する。

 
「(3) 抹茶以外の茶の場合: 検体9.00gを100℃の水540 mLに浸し、室温で5分間放置した後、ろ過し、冷後ろ液360 mLを500 mLの三角フラスコに移す。これにアセトン100 mL及び飽和酢酸鉛溶液2mLを加え、室温で1時間静置した後、ケイソウ土を1cmの厚さに敷いたろ紙を用いて吸引ろ過し、ろ液を1,000 mLの分液漏斗に移す。   -途中省略-  40℃以下でn-ヘキサンを除去する。この残留物にn-ヘキサンを加えて溶かし、正確に5mLとする。」

 
 要するに、9gの茶葉に530mlの熱湯を入れて、抽出液の6g相当を農薬検査に用いるというものである。

 
 有機塩素系、有機リン系、ピレスロイド系農薬など従来からある90位の農薬が、お湯による抽出液からの検査となっている。結構な数である。このため、農薬検査の世界では茶の飲用の形での検査は違和感がない。

 
 水に溶けにくい多くの農薬は、お湯で抽出する方法では溶出量は少ないが、実際的な検査方法でもある。しかし、茶をふりかけなどにして食べる人のことは想定していない。ならば、「茶をそのまま食べる人の摂取量が分かるように茶から農薬を直接抽出で」という話になると、今度は「湯で抽出する普通の飲み方に比べて多すぎるのでは」ともなる。悩ましい。

 
 食品は、畑や田に近い状態で検査するのか、食べる人に近いところで検査するのか、いつもいつも問題となる。今回のお茶のような問題が起きたときには、行政や業者は自分たちがやっている検査の内容を周知し、検査結果・数字だけを一人歩きさせる愚挙は避けねばならない。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。