科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

セシウム暫定規制値表記を500Bq/㎏から0.5kBq/㎏に

斎藤 勲

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 今回は、放射性セシウムの野菜類、穀類、肉、卵、魚等の暫定規制値500ベクレル(Bq)/kgについて、リスクの面から考えてみたい。この数値は、年間の放射性セシウムの摂取量の食品全体での上限を5ミリシーベルト(mSv)として、5種類の食品群(飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他)に分けて、それぞれの摂取量などから十分評価できる数値として、算出されたものである。そして、最近では検査精度も向上し510とか506Bq/kgでも規制値超過の違反として対応されている。

●Bq(ベクレル)をmSv(ミリシーベルト)に換算すると一気に小さい数値に
 Bqは食品中放射性物質からの照射線の放出量であり、それを被ばくした場合に体にどう影響するかは、実効線量のmSvで評価されている。それぞれの放射性元素でベクレルBqからミリシーベルトmSvに変換する係数は若干異なっている。セシウム合計(134,137の存在比をほぼ同じとして)では、1.6×10-5が使用される。単純に言ってBqからmSvに換算するとおよそ10万分の1の数値になる。Bqだけ見ているととても大きな影響と思われるが、mSvに換算すると結構小さな数値になってしまう事例が多い。

 原発事故等異常のない、通常の生活での年間許容被曝量は1mSvとなっており、安全性の面でいろいろな専門家の方も異論をはさまれることはあまりないレベルである。その範囲内であれば、リスクはあっても小さく、無視できると思って良い。ということはその1%、2%の増減ならばもっと気にすることではないともいえる。では1mSvの1%は放射線量のベクレルにするとどれくらいか、計算をしてみる。年間許容被ばく量1mSvの1%=0.01mSvをベクレルBqに換算すると、セシウムの場合は0.01mSv=625Bqとなる。625Bq摂取するにはセシウム625Bq/kgの牛肉なら1kg、規制値の6倍の3000Bq/kgの牛肉なら200gくらい、50Bq/kgのお米なら12.5kg食べることになる。こんな数値の物を食べていたら新聞沙汰(それ程極端な事例という意味)であるが、それでもたかだか1mSvの1%寄与でしかないのである。

 毎日報告されている厚生労働省のホームページの食品中放射性物質の検査結果の暫定規制値超過や、高めの数値の食品を通常食べるであろう量を掛け算して健康影響指標のmSvにしてみると、いかに小さな数値か、実感されるであろう。国には、そのあたりの貴重な検査結果の集積データを、もっとわかりやすく咀嚼・解説していく努力が、今一番求められている。

 核種分析が可能なゲルマニウム半導体検出器では、物理的計測として数値が出てくるので525、496Bq/kgという数値は計算可能である。しかし、測定機器が正確に数値を出してくることと、その数値をどう使うか、即ち私たちのリスク管理にどう使うかは別の話である。極端な言い方をすれば、100Bqの増減でも1mSvの0.2%程度しか寄与しない。それ以下の数値を、細かいことを言っていても仕方がないというのが本当のところである。

●単位をベクレル(Bq)から1000倍のキロベクレル(kBq)へ
 食品汚染レベルの調査は今後の内部被ばく調査のためにも大切な部分であり、その観点から、食品中の放射線量の測定値は単位をベクレルから1000倍のキロベクレルkBqにした方が良いのではないだろうか。セシウム500Bq/kgは0.5kBq/kgとする。ヨウ素の2000Bq/kgは2kBq/kgとする。有効数字は小数点1ケタでも十分であろう。0.4,0.5,0.6という数字で管理されていくと、100ベクレル(1mSvの0.2%程度の寄与)程度の物差しで数値管理ができ、mSvに換算する場合も100対1位の関係となり、リアリティのある数値関係となってくる。

 4.8、22、53、496、1530、53000Bq/kgの数値が氾濫する時代に、<0.1、<0.1、<0.1、0.5、1.5、53kBqというすっきりした数値管理のできる環境で、生態影響指標のmSvへの寄与を皆でまじめに、冷静に考えた方が、よほど意味のある取り組みであるような気がする。

 正直なところ100Bq/kg(0.1kBq/kg)未満の数値で、食べる、食べないでもめるよりも、放射能測定に係る多大な経費や商品回収廃棄の膨大なエネルギーとお金を、東日本大震災と福島原発の直接被害の方々の支援に振る向けることの方が、後世、日本人は理性的な国民であったと言われるのではないだろうか。

<お詫び>
 当初、本原稿のタイトルに単位の誤りがあり、9月18日に訂正しました。編集部のタイプミスです。筆者、読者にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。