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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

遺伝子組換え作物と農薬使用量の関係 、スイートコーンの場合

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2013年11月20日

 「遺伝子組換え作物の普及によって農薬使用量が減り、環境にも農家の健康にもメリットがある」とバイテク推進派は主張する。一方、「いや農薬使用量はかえって増えている。抵抗性発達の問題も深刻で組換え作物にメリットはない」と組換え反対・懸念派は反論する。

 一口に農薬と言っても、殺虫剤、殺菌剤、除草剤などいろいろある。害虫抵抗性のBtトウモロコシやワタは殺虫成分を作物体内にもっているので、殺虫剤の使用は減る。しかし、殺虫対象となる害虫の種類は限られているので、全体として殺虫剤の使用量がそれほど減らない場合もあるかもしれない。

 除草剤耐性の組換え作物は特定の除草剤をかけても、作物が枯れずに生き残るようにしてあるので、その除草剤の使用量は増える。農薬使用量との関係ではこの辺を区別せず、バイテク推進派、反対派が互いに都合の良いデータだけ持ち出しても意味がない。

 最近、米国の学会誌に区別して考えられる論文が2つ掲載された。

スイートコーンと殺虫剤使用量の関係

 1つはJournal of Economic Entomology誌(2013年10月)に載ったコーネル大のShelton教授のグループによる「5つの州でおこなったBtスイートコーン品種によるアメリカタバコガの防除効果試験」だ。

 米国昆虫学会からもトピック論文として10月7日にプレスリリースされた。

 Btスイートコーンは1997年にロジャース社(シンジェンタ社の野菜種子会社)から「アトリビュート」(Bt11系統)が商業化され孤軍奮闘してきたが、最近(2012年)、セミニス社(モンサント社の野菜種子会社)が「パフォーマンスシリーズ」(MON89034系統)を発売し、ロジャース社も「アトリビュートII」(Bt11とMIR162を掛け合わせたスタック系統)を新規投入するなど市場が活気づいてきた。

 論文では、ロジャースの初代アトリビュート品種(Bt11)と、セミニスの品種(MON89034)を用い、非組換えスイートコーン品種と比較した。2010、2011年にニューヨーク、ミネソタ、メリーランド、オハイオ、ジョージアの5州で同じ栽培方法、農薬散布法で試験した結果をまとめて分析したものだ。

 試験に用いた2つのBt品種はいずれも蛾の幼虫に効果があるが、Bt11はCry1Abトキシンのみで、セイヨウアワノメイガには効果があるが、タバコガ類やヨトウガ類の防除効果は劣る。MON89034はCry1A.105とCry2Abの2つのトキシンを発現する。Cry1A.105はCry1Ab,Cry1Ac,Cry1Fの3つのトキシンを人工的に融合したもので、こちらはタバコガやヨトウガにも効果がある。

 研究者が注目したのは、たんに生産量(収量)ではなく、収穫物が売り物になるかどうか、「商品化率(Marketablity)」だ。ゆでたり焼いたりしてそのまま食べる「生食用」では少しでも蛾の幼虫の食害があれば商品にならない。つまりゼロトレランス(被害許容度ゼロ)だ。缶詰にする加工用ではやや緩く、わずかな食害で作業時に簡単に取り除ける程度なら許容されるが、食害痕が大きいと市場から拒否される。研究者はとくに被害の大きいアメリカタバコガ(Helicoverpa zea)幼虫の食害度に注目した。

 写真は私が日本の畑で撮ったアメリカタバコガと近縁なオオタバコガ(Helicoverpa armigera)幼虫による食害だが、商品化率で判定すると左端は完全にアウト、中央の食害でぎりぎりセーフというところだ。

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Bt品種は特に生食用で優れた効果を発揮

 Bt品種を殺虫剤をまったく散布せず栽培した場合、MON89034の生食用としての商品化率は平均91%(64~100%)、Bt11では74%(14~99%)で、予想通り、タバコガ幼虫に効果のあるMON89034の方が良い結果を示した。非組換え品種を殺虫剤散布しなかった場合の商品化率は6~40%、合成ピレスロイド剤を2~4回散布した慣行栽培でも、商品化率は18~45%で、半分以上が売り物にならなかった。

 許容度がやや緩い加工用の商品化率でみると、MON89034は殺虫剤無散布でも99.7%、Bt11は91%でこちらもMON89034の方が上回った。非組換え品種の無農薬栽培では、加工用としての商品化率は9~99%、慣行栽培でも38~100%と結果のばらつきが大きかった。殺虫剤を複数回散布しても半分以下しか商品にならない例もあれば、殺虫剤をまったく散布しなくても99%が商品になる例もあるということだ。

 これはその年や地域の気象条件によって、アメリカタバコガの発生密度が大きく異なった結果だ。害虫の発生が少ないと最初から分かっていれば、無散布や減農薬でいけるが、発生量を事前に正確に予測することは難しいし、発生量の多い年は殺虫剤を複数回散布しても効果がなく、半分以上が商品価値ゼロで廃棄処分になってしまう。

 論文では、Btスイートコーンは特に生食用で価値が高く、複数のトキシンを導入したMON89034では、殺虫剤をまったく使わなくても加工用ならほぼ100%の商品化率を達成できると評価し、農薬散布作業を減らせるので農家の健康に大きなメリットがあると賞賛している。

 論文では比較していないが、ロジャース社のサイトでは、新品種「アトリビュートII」もタバコガ類に高い効果を示すと、2社3品種を比較して紹介している。アトリビュートIIはCry1AbとVip3Aの2つのトキシンを持ち、タバコガ類の幼虫にも効果があることは確かめられているので、セミニス製品の独占にはならないようだ。

ちょっとほろ苦 米国の組換えスイートコーン商戦

 米国のデントコーン(食品原料・飼料・エタノール用)では、Bt品種が全栽培面積の67%(除草剤耐性品種をあわせると88%、2012年農務省調査)に達している。Btスイートコーンの栽培面積は農務省による統計調査の対象になっておらず、セミニス社、ロジャース社とも数値は公表していないが、栽培シェアはそれほど高くないようだ。

 論文では、セミニスの新製品の初年度(2012年)シェアは5~10%と推定されると書いてあるが、はっきりしたところは分からない。ロジャースのアトリビュートも商業栽培10年で数%のシェアと言われていたので、セミニスが初年度から10%も達成できるのかやや疑問だ。

 表示制度のない米国でも、GM食品に対して「なんとなく不安」と感ずる消費者は多く、セミニスの商品化に際しても、Whole FoodsやTraderJoesなど一部の流通業界は「GMスイートコーン不売宣言」をしている(最大手のWal-Martは扱うと宣言したが)。

 こうした動向を反映してか、組換えスイートコーン種子に消極的な種子販売店が多いのも事実だ。さらに普通の野菜種子とちがって、Btスイートコーンには、栽培にあたって守るべき条件などいくつかの制約があり、これもデントコーンのような右肩上がりの増加を妨げている。

 殺虫剤使用量を大幅に減らし、生産者にも消費者にも大きなメリットのあるはずのBtスイートコーンだが、なかなか難しいものだ。米国の栽培条件については、農環研GMO情報(2010年1月)の最後に詳しく書いてあるのでお読みいただきたい。

 次回(12月4日予定)は、米国農業の3大作物、デントコーン、ワタ、ダイズについて、農薬使用量の変化と組換え作物の関係を分析した論文(2013年9月)を紹介する。

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