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農と食の周辺情報|白井 洋一

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

遺伝子組換え作物と農薬使用量の関係 、米国のメガ作物の場合

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2013年12月4日

 前回(11月20日)は組換えスイートコーンの論文を紹介したが、米国のスイートコーンの栽培面積は生食用、加工用を合わせても約24万ヘクタール(ha)で、食品原料・飼料・燃料用のデントコーンの栽培面積(約3950万ha)の1%以下のマイナー作物だ。

 米国の遺伝子組換え3大作物であるデントコーン、ダイズ、ワタは組換え品種の割合が約9割で、その普及度と農薬使用量の関係は気になるところだ。今回はこれらメガ作物の農薬使用量の変化を分析したPest Management Science誌(2013年9月)の論文「米国の農薬使用量の変化に関する経済と政策的課題」を紹介する。

 著者は米国農務省経済調査局の研究者だが、「ここで述べた見解は著書ら個人のものであり、農務省および連邦政府機関としてのものではない」と最初に断っている(これは学術論文ではよくあること)。

基礎データ:栽培面積と組換え品種の普及率

 3大作物の栽培面積と組換え品種の普及率は以下のとおりだ(いずれも2012年農務省統計)。普及率の( )は内訳で、害虫抵抗性、除草剤耐性、両方の形質を持つスタック品種の順だ。スタックとは組換え品種同士を通常の交雑育種法で掛け合わせた品種のことで、チョウ目害虫抵抗性とコウチュウ目害虫抵抗性を掛け合わせてもスタック品種なのだが、農務省の統計ではこれはスタックと呼ばず、害虫抵抗性と除草剤耐性を掛け合わせた品種だけをスタックとして扱っている。これは一般のスタックの定義と異なる。

栽培面積、組換え品種の普及率(害虫抵抗性、除草剤耐性、スタック)
デントコーン:3950万ha, 88%(15, 21, 52%)
ワタ:520万ha, 94%(14, 17, 63%)
ダイズ:3120万ha, 93%(除草剤耐性のみ)

1995~2010年の農薬使用量の変化

 論文ではメガ作物だけでなく、野菜や果物も含め、1964年から2010年までの農薬使用量の変化を殺虫剤、殺菌剤、除草剤別に解析しているが、ここでは組換え作物の商業栽培が始まった1996年以降のデントコーン、ダイズ、ワタの殺虫剤と除草剤の使用量に限定して紹介する。農薬使用量の単位は、それぞれの農薬に含まれる有効成分量を百万ポンド単位で示している(1ボンドは約450グラム)。

 有効成分(active ingredient)とは、農薬製品に含まれる農薬としての効果を持つ成分のことで、「ラウンドアップ」(商品名)に含まれる除草剤活性を示す有効成分がグリホサートで、有効成分○%と表示される。

 作物ごとの農薬使用量の変化を1995→2000→2005→2010年の5年おきに示す。

 デントコーン 殺虫剤9割減 除草剤は微増
 殺虫剤:15→10.6→5.2→1.8
 除草剤:186.3→165.5→168.5→196.7

 殺虫剤の使用量は15年間で88%減少した。論文ではこれは地上部の害虫(アワノメイガやタバコガ類)に効くBt品種とともに2003年から地下部害虫用(ネクイハムシ類)のBt品種が普及した影響が大きいとしている。除草剤は最近増加傾向にあり、15年で5.5%増加しているが、この点の説明はない。

 ワタ 殺虫剤8割減 除草剤も1割減
 殺虫剤:29.7→43.5→16.5→7.2
 除草剤:32.5→28.3→28.9→28.8

 殺虫剤の使用量は15年間で76%減少した。これは地上部害虫用のBt品種とともに、南部のコットンベルト地帯で、2003年に侵入害虫のワタミハナゾウムシの根絶がほぼ達成され、有機リン系殺虫剤の使用が大幅に減ったためと説明している。除草剤も11%減少しているが、この理由は不明だ。

 ダイズ 除草剤1.6倍 殺虫剤も増
 殺虫剤:0.5→0.3→2.7→2.8
 除草剤:68.1→78.6→85.8→109.9

 ダイズは害虫防除用の組換え品種はなく、除草剤耐性品種だけが、使用量は増え続け、15年で1.6倍になった。特定の除草剤(グリホサート)の使用量だけが増加し、他の除草剤は大幅に減少した。これは組換え品種のほとんどがグリホサート耐性品種であることと(最近はグルホシネート耐性品種も増加している)、グリホサートの特許切れにより安価なジェネリック版が発売されたためと説明している。

 この間の組換え除草剤耐性ダイズの普及率は0→54→87→94%なので、グリホサート使用量の増加とほぼ一致している。殺虫剤も15年間で5.6倍と増加しているが、この点の説明はない。ピークだった1980年代(約12百ポンド)に比べれば減っているが、近年、アブラムシやカメムシ類の被害が増えているので、その影響かもしれない。

 なお、殺菌剤の使用量は3作物とも百万ポンド以下で15年間の変化も小さい。

農薬使用量にはいくつかの要因が絡む

 論文では組換え作物との関係だけでなく、この15年間の農薬使用量の変化に関わった要因としていくつかあげている。
(1)単位面積あたりの散布量を減らした新型製剤の普及。
(2)農薬規制に関する諸政策の導入。特に1996年の食品品質保全法で食品中の残留農薬規制が強化されたことと、2003年の農薬登録法改正で、環境(土、水、大気)への負荷を減らす農薬が奨励されたことが大きい。
(3)1996年農業法での作付け制限の廃止(生産者が自由に作物を選び栽培できる制度)や2005年農業法でのバイオ燃料の奨励によって、トウモロコシやダイズの栽培面積が増えたが、農薬使用量との間にはっきりした関係は見られない(増えた、減ったと両論あり)。
(4)組換え作物の普及によって、Bt作物では抵抗性害虫の発生、除草剤耐性作物では耐性雑草の発生という問題が懸念され、行政機関がどのように規制に関わっていくかが課題になる。

 トウモロコシとワタでは害虫抵抗性Bt品種によって、殺虫剤使用量は大幅に減ったが、除草剤の方は減っていないか、ダイズのように大幅に増えた場合もある。グリホサートは環境への負荷軽減という点で、他の除草剤に比べて優れているのだが、耐性雑草問題もあり、単純に組換え作物の成功例として賞賛できない面もある。

 注目したいのはワタで殺虫剤が大幅に減った理由だ。Bt品種の普及とともに、ワタミハナゾウムシの根絶プロジェクトが大きく貢献していることはあまり知られていない。米国でも、害虫防除関係の専門誌ではきちんと両方を説明しているが、バイテク推進・賞賛系の書誌ではふれられることは少ない。日本のバイテク推進系の学者、有識者も同様だ。

 ワタミハナゾウムシの根絶プロジェクトは農環研GMO情報(2009年4月)に書いてあるのでお読みいただきたい。

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