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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

こんどはモンタナ州の大学農場で 未承認組換え小麦事件続報

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2014年10月1日

 昨年(2013年)5月、米国オレゴン州の農家の小麦畑でモンサント社の除草剤(グリホサート)耐性小麦が見つかり騒ぎになった。モンサント社は2004年に、商品化一歩手前で商業栽培を断念したため、栽培未承認扱いだったからだ。モンサント社は2004年以降、種子を全量回収し、試験栽培も中止していた。さらに組換え小麦が見つかったオレゴン州の農家は過去にこの小麦の試験栽培をしたことがなく、周辺数マイル以内でも栽培歴はなかった。

 どうして、どこから、誰が、何のためにと様々な憶測が乱れ飛んだ。オレゴン事件が未解決のなか、9月26日、米国農務省はモンタナ州立大学の農場で、グリホサート耐性小麦がごく少量自生しているのを確認したと発表した。

復習 2013年オレゴン州事件

 この件は昨年(2013年)6月19日の当コラム「麦秋の候 オレゴン州の未承認小麦事件を掘り下げる」に詳しく書いたので、ここでは簡単におさらいする。

 2004年5月 モンサント社は開発を進めていたグリホサート耐性小麦(MON71800)の商業化中止を発表。輸出市場の混乱を懸念した北米の小麦団体などからの反対の声に屈する。全米各地でおこなっていた試験栽培は全面中止し、種子の回収とこぼれ種子による自生発芽小麦の抜き取りを実施。

 2013年4月 オレゴン州の一農家の畑で、前年秋収穫した小麦のこぼれ種子から発芽した自生小麦の中にグリホサートをまいても枯れない株を発見。大学と農務省の調査から、モンサント社のMON71800であることを確認し5月29日、農務省が公式発表。

 6月 韓国、日本などの小麦輸入国が米国産小麦の取り扱いを一時停止。MON71800は米国食品医薬品庁から食品・飼料の安全性承認を受けていたが、韓国、日本での安全性承認は受けていなかった。そのため、「輸入国側で未承認の品種が混入しているおそれ」という理由での一時停止はやむを得ない処置だ。

 7月~8月 前年秋に収穫した小麦の北米在庫とすでに日本、韓国などに輸出された小麦の抜き取り検査がおこなわれたが、いずれからも一粒も組換え小麦は見つからなかった。韓国は7月11日、日本は8月1日に輸入を再開。

 この後も米国農務省は農家の畑に突然、組換え小麦が紛れ込んだ原因の調査を続けたが、新展開はなかった。

2014年モンタナ州のケース

 9月26日に発表された米国農務省、モンサント社、ロイター通信記事によると、今回のケースの概要は以下のとおりだ。

 7月上旬 モンタナ州立大学南農業研究センターの試験農場で栽培されている小麦の一部にグリホサート耐性と思われる小麦株があるのを大学研究者が発見。モンサント社と農務省にすぐに連絡。この農場では2000~2003年にモンサント社の組換え小麦(MON71800)の試験栽培を実施していた。

 7月14日 農務省、現地調査を開始し、少数のMON71800小麦株を確認。他の試験農場や周辺農家の畑でも抜き取り検査したが、確認されず。

 8月中旬 農務省、小麦生産者団体や穀物取引団体にこれまでの状況を説明。冷静な対応を求める。

 9月26日 農務省、公式発表。

 今まで栽培歴のなかったオレゴンの農家と異なり、モンタナでは2000~03年に組換え品種を試験栽培した場所なので、土に埋まっていた当時のこぼれ種子が十数年後に発芽した可能性も考えられる。しかし、小麦の埋土(まいど)種子の寿命は1,2年と短い。長寿命の小麦埋土種子を完全に否定できないが、今のところ、土中からさらに小麦種子発見の報告はない。

 2003年の試験栽培終了後の種子管理に問題があり、うっかり置き忘れられたままになっていた種子袋の可能性は考えられる。オレゴン州と異なり、今回は大学農場なので調査範囲は絞り込めるだろう。

 なお、今回発見された小麦種子と昨年のオレゴン州小麦はまったく別ロットであり、両者の関連は否定されている。どちらもグリホサート耐性遺伝子を導入したMON71800系統だが、宿主となる小麦品種が異なることが確認された。

米国農務省発表
モンサント社発表
ロイター通信の記事

オレゴン事件は迷宮入り モンタナは調査継続

 9月26日、農務省はモンタナ州立大農場での混入と同時に、昨年のオレゴン州農家事件の調査終了を発表した。昨年5月以降、全米各地の大学農場や試験地、その周辺で小麦の抜き取り検査や種子保管状況を徹底的に調査したが、原因は特定できなかった(調査書類は1万2842ページに及ぶ)。また今回のモンタナとの関連もないことから、オレゴン州の事件は限られた一農家の畑での限定的な出来事であり、商業ルートへの混入も確認されないとの結論だ。

 モンサント社の過失は認められず、「市場が混乱した、小麦の値段が下がった」とモンサント社を訴えた裁判も原告側が取り下げほぼ解決している。

 一方、モンタナ州立大のケースは今後も調査を継続し、他州の大学農場や試験栽培地でのモニタリング調査を強化するとしている。

今後の注目は輸出市場への影響だ。昨年のようなことになるのだろうか?

 9月26日のロイター通信は、「日本、韓国などの輸入業者の反応は昨年のオレゴン事件ほどではないだろう」と伝えている。ひとつは発見されたのが大学の試験農場であり商業栽培農家ではないため、商業ルートには混入していないという農務省の報告が受け入れられたためだ。もうひとつは農務省が今回の正式発表前の8月中旬に事前に小麦生産者団体と穀物輸出業界に連絡していたからだ

 市場関係者にとって9月26日の農務省発表は寝耳に水ではなく、昨年とはちがって冷静に情報を分析し、落ち着いた対応がとれたようだ。これは重要なことだ。

 組換え反対派の市民団体やマスメデイアは不満かもしれないが、このような問題で一番被害を受けるのは生産者や流通業界だ。無責任に食の不安をあおり立てる団体や報道陣と区別した情報提供は全体を考えれば当然のことだ。

それにしても、今回のケースは「また起きたか」と思ってしまう出来事だ。商業栽培は断念したが、米国での栽培認可や輸入国側での食品安全承認をとっていれば、ニュースにもならなかった出来事だ。現在、日本など輸入国側で「安全審査済み」として承認されている組換えトウモロコシやセイヨウナタネの中には、実際北米や南米でも栽培しないが、万一の微量混入トラブルを考えて、承認をとったものがいくつかある。

今回のケースは、食の安全の本質には影響しないのだが、「未承認」、「審査を受けていない」が大きな問題であることを改めて示唆している。

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