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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

化学物質のカクテル効果 単独では無害でも同時に使うと有害影響?

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2014年11月12日

 農薬や医薬品など化学物質は商業認可される前に、ヒトや動植物への安全性が検査され、どの程度の濃度(量)なら安全と使用基準や許容値が決められる。しかし、これは殺虫剤、殺菌剤、除草剤など個々の製剤についてであり、複数の農薬を同時に使った場合のヒトや環境への影響は調べられていない。

 複数の化学物質による複合影響(combined effect)は、欧米のメディアではカクテル効果(cocktails effect)と呼ばれことも多い。日本ではあまり話題にならないが、欧米、とくに化学物質や環境問題に関心が高い欧州ではけっこう注目されている。

EFSA 9月に専門家会議開催 まずは評価手法の確立
 EFSA(欧州食品安全機関)は2014年9月11、12日に英国エジンバラで「複数の化学物質の複合暴露によるヒトと環境へのリスク評価の調和」と題する専門家会議を開催した。

 きっかけは2009年12月の欧州環境閣僚会議だ。欧州委員会の広報サイト(Euractiv.2010年2月15日)は「欧州委員会、環境理事会は化学物資のカクテル影響への対策を促す」と報じている。

 単独では問題ないが、複数の化学物質を同時に使った場合のヒトや環境への影響はほとんど調査されていない。しかし、無視できない重要な課題だ。米国の環境保護庁(EPA)や世界保健機関(WHO)はガイドラインを作っているがこれはヒトへの健康影響が中心だ。ヨーロッパはヒトと環境への両方の複合影響のリスクを評価し、世界をリードするというものだ。

 これを受けた2014年9月の専門家会議では、4つのテーマが検討された。
1.ハザード(危害)評価のためのメカニズムモデル
2.複合暴露評価手法の調和
3.リスク評価のためのOMICs(オミックス)とin silico(インシリコ)法の利用
4.科学に基づく不確実要因とリスク特徴化の調和

 3のオミックスとは、プロテオミクス(タンパクレベルでの解析)、メタボロミクス(代謝レベルでの解析)など解析法の総称で、インシリコとはコンピューター(シリコンチップ)を用いた解析だ。4つのテーマの講演内容はどれも具体的な化学物質に突っ込んだものではなく、複合影響の評価法としてどんな手法が利用できるか、さらに今後発展・応用が期待される手法は何かなどが話し合われたようだ。

 ヒトと環境の両方のリスク評価を進める場合、個々の研究者がばらばらな手法ではなく、後で比較できるような手法を使う、そのために研究の目的、意義を再確認する情報共有の性格の強い会議だったようで、とにかく、複合影響のリスクを評価する手法がまだ十分確立していない、難しいということが再確認された。

日本でも調査開始
 環境省は2012年から海外の動向調査や評価対象とする化学物質の絞り込みなどの予備調査をはじめている。2014年2月18日に「化学物質の複合影響評価」に関する公開シンポジウムが開かれ、日米欧から5人の発表があった。

 5つの講演がおこなわれた。
1.「欧州における混合物毒性評価:最新動向と今後」(スウェーデン・Gothenburg大学)
2.「米国環境保護庁における累積リスク評価:過去、現在、未来」(米国EPA)
3.「水生生物における化学物質の複合毒性、相加・相乗・拮抗作用」(九州大学)
4.「環境中医薬品・農薬などの複合影響と生物試験」(国立環境研究所)
5.「化学物質の複合影響評価に関する環境省の検討状況」(環境省環境保健部)

 1の欧州の現状では、ライン川のような複数の国を流れる国際河川には各国からさまざまな化学物質が流れ込んでおり、複合影響の可能性が高い例として、カーバメート系殺虫剤と有機リン系殺虫剤をあげた。2の米国EPAの担当者は欠席で、インターネットでライブ中継となったが、特に複合影響が懸念される具体的な化学物質名は示さなかった。

 3の九州大・大嶋雄治教授は十年前から複合汚染の影響を告発していた専門家だそうで、2004年1月19日付けの朝日新聞「私の視点」という新聞記事を紹介した。大嶋教授は、メダカを使った室内水槽実験で、トリブチルスズ(TBT,有機スズ)とPCBs(ポリ塩化ビフェニール)で、単独では悪影響がないが、同時に使用すると産卵数や受精率が低下することなどを発表した。複合効果には相加、相乗、拮抗作用があるが、相加は足し算効果、相乗はより大きくなる効果、拮抗は互いに打ち消されて小さくなる効果であり、「チリもつもれば山となる複合毒性は確実に存在する」と締めくくった。

 4では、2種の除草剤(プレチラクロールとジメタメトリン)によって、藻類やミジンコに成長阻害があったので、評価手法を確立するうえで活用したいとのことだった。

今後の海外動向に注目
 環境省のシンポジウムでは、今のところ、欧米でも、複合影響(カクテル効果)によって農薬の使用が規制された例はないとのことだった。環境省も基礎調査の段階で、もしカクテル効果による悪影響が明らかになったら、どんな規制をするのか今のところ具体的には考えていないようだ。

 なかなか難しい問題だ。あまりに神経質になると、使える農薬がなくなってしまいそうだ。かといってまったく無視するわけにもいかない。今話題のミツバチの巣群崩壊症(CCD)でも、巣箱に散布する殺ダニ剤や殺菌剤による複合影響の可能性が報告され始めている。今まで調べられていなかっただけで、詳しく調べれば分かってくることは多いだろう。

 問題は対策だ。個々の巣箱や畑での使用なら、それぞれの所有者が同時に複数の農薬を使わないよう気をつければ良いが、河川や海に流れ出て混合された結果、生物に悪影響が出るとしたら、どのようにして規制すれば被害を減らすことができるのだろうか?

 環境毒物の研究者にこの問題の重要度を聞いたら、「考えなければならないのは事実。しかし、どのようにして評価するかが難しい。水田や小さな池沼レベルならまだしも、海洋の生物、生態系では・・・」とのことだった。

 まずは影響があるかないかを正確に評価する手法の確立が急務ということだが、今後の海外の動き、特に化学物質の規制では、実際に可能なのかと疑うような規制を提案することもある欧州の動きに注目だ。複合影響にも研究予算もついたので、室内水槽実験やコンピューターモデルを使った研究論文がこれからたくさん発表されるだろう。論文の中味が実際の野外現場を反映しているのかなども含めて欧州の動きに注意していく必要がある。

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