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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

ノルウェーで初のBSE感染牛 餌経由ではない非定型 では最初の定型BSEのルーツは?

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2015年2月18日

2015年1月30日、ノルウェーでBSE(牛海綿状脳症)に感染した牛が見つかったため、牛肉の輸入を停止したと厚生労働省が発表した。今までにイギリス、フランス、スウェーデンなどでは多くの感染が確認されているが、ノルウェーでは初めての発生だ。

まだBSEが発生するのかと思う人もいるかもしれないが、見つかったのは肉骨粉など餌を介して感染する定型(classical)BSEではなく、自然に発生する孤発性の非定型(atypical)と呼ばれるタイプだ。非定型は今までに世界で約90頭見つかっており、ほとんどが高齢牛で、今回のノルウェー産も15才のメス牛だった。米国(2012年4月)、ブラジル(2012年12月、2014年3月)の発生もいずれも非定型で10才から13才の高齢牛で、近年、BSEの発生リスクを無視できると認定された国(日本も含まれる)では餌経由の定型BSEは発生しておらず、対策管理は成功していると言える。

食の安全管理上は問題ないのだが、非定型BSE発生のニュースを聞くたび、不思議だなあと思うことが2つある。非定型牛の発生年齢分布と定型BSEの起源のことだ。

なぜBSEは不安なのか

BSEが不安がられ、日本政府や都道府県がやっても無駄な若齢牛の全頭検査にこだわった最大の理由は、人獣共通感染症で、病原体の異常プリオンを食べるとヒトも発症する可能性があるからだ。2010年宮崎県で発生した牛や豚の口蹄疫では、大量の家畜が殺処分されているが、ヒトには感染しないので、消費者は騒がない。*

もう一つ不安を増幅させるのは、病原体のプリオン(prion)が目に見えず画像でも示せないことと、脳や脊髄を解剖しないと発病の有無が分からない謎に包まれた病原体であるためかもしれない。プリオンはタンパク質性感染粒子(proteinaceous infectious particle )の略称で、ごく小さいタンパク質の粒だ。ウイルスは直径300ナノメートル(ナノは10億分の1)程度だが、プリオンは3ナノ以下で、高性能の電子顕微鏡でも病原体の姿を直接見ることができない。目に見えないものは不安だし、恐怖感が増す。

非定型BSEとは

定型も非定型もどちらも異常プリオンによる病気だが、ウェスタンブロット(WB)法という電気泳動解析で、タンパクの種類や濃度(沈降度)をはかり、画像(バンドパタン)を見て判別する。定型よりプリオン分子量が多いものをH型(High)、少ないものをL型(Low)と分けるが、HでもLでもない第3の型もスイスで2例見つかっており、分類型はまだ確定していない。

 参考1:非定型BSEについて(食品安全委員会) 

今までに見つかった非定型BSEの多くは8才以上の高齢牛だ。発生頭数がもっとも多く詳しく調べられているフランスでは、L型の12頭は8.4から18.7才(平均12.4才)、H型の11頭は8.3から18.2才(平均12.5才)で感染が確認されている。世界全体でも日本の1例をのぞくと、もっとも若い牛でも6.3才だ。

日本では2例の非定型が見つかっている。2003年10月の日本通算8例目(JP8)と2006年3月の24例目(JP24)でどちらもL型だ。24例目は14.1才(169月齢)で海外の年齢分布の範囲内だが、8例目は1.9才(23月齢)で飛び抜けて若い。この牛は一次検査では擬陽性でBSE陽性と断定できなかったが、国立感染症研究所の2次検査(WB法や病理組織調査など)から、定型とは異なる非定型(L型)と判定された。2003年当時、非定型の情報も少なかった段階で、非定型L型と判断できたことはちょっと驚きだ。

判定結果に問題があれば、国際機関や専門家からクレームがついただろうから、判定自体は正しかったのだろう。また、蓄積していた異常プリオン量も14.1才(24例目)の500から1000分の1と少量で、感染力がないとの調査結果が出ているので、食の安全上は問題ないようだ。

フランスの調査では非定型BSEの発生頻度はH型、L型を合わせ100万頭あたり0.76頭、8才以上では3.6頭だった。日本では2001年9月の国内初発生以降、これまでに約1465万頭の国内牛のBSE検査をおこなっている。検査対象齢は異なるが、非定型は合わせて2頭見つかった。確率的にはもっと見つかってもよい。餌管理の徹底で定型BSEの発生がゼロになったのは分かるが、自然発生する非定型が2006年3月以降、1例も見つかっていないのは不思議と言えば不思議だ。日本よりと畜数の多い米国で計3頭、ブラジルで計2頭しか、非定型が見つかっていないのも気になる。もっとも発生確認件数が世界で約90例と少ないので、年齢構成分布や発生頻度をとやかく言うことはできないのかもしれないが。

 参考2:8例目(非定型23月齢)の検査結果(厚生労働省 2003年10月6日) 

参考3:BSEスクリーニング検査の結果(厚生労働省 2015年1月末現在)

定型BSEのルーツはどこから?

肉骨粉など餌を介して感染が広がった定型BSEの一番最初の感染牛はどのようにして誕生したのだろうか? これがもう一つの疑問だ。以前、食品安全委員会のリスクコミュニケーションで質問したが、「羊のプリオン病であるスクレイピー由来とか諸説があるが、はっきりしたことは分かっていない」とのことだった。

  2011年1月、PLoS ONEの論文では、非定型(H型)が起源の可能性ありと推察している。フランスの非定型BSE感染牛の異常プリオンをマウスの脳に接種した実験で、2世代目のマウスでWB法のバンドパタンや潜伏期間が定型BSEを接種したマウスの例とよく似ていたというものだ。もっとも実験したすべてのマウスが同じ傾向を示したわけではなく、研究者も定型BSEの起源を探る手がかりになるかもしれないと書いている。海外メディアでも大きく取り上げられなかったし、その後も、定型BSEのルーツ判明というニュースは聞かないので、まだ真相は分からないのだろう。

非定型BSEも高濃度に蓄積すると強毒性を示し、餌を介して感染するので、定型の起源は自然発生した高齢の非定型牛を知らずに餌にした結果だったとしても不思議ではない。しかし、WB法によるバンドパタンはかなりはっきり分かれている。牛から牛への数世代の伝達の過程で、バンドパタンが劇的に変化するのかと考えると、やはりちがうのかなという気もする。

若齢牛の全頭検査をやめても、異常プリオンの蓄積する特定危険部位は完全に除去して食べない、牛に肉骨粉など共食い餌は与えないという管理を徹底すれば、食の安全上は心配ないのだが、サイエンスとして見ると不思議に思ってしまうことがいくつかある。プリオン病、BSEにはまだまだ分からないことが多いのだ。

と、原稿を書き終えたところで、カナダで2月11日にBSE感染牛が確認されたという発表があった。

カナダでは2011年2月にも定型BSE(6.4才)が見つかっており、今も日本や米国より1ランク下の「管理されたリスクの国」だ。今回の発生牛のBSEタイプや年齢、餌の管理状況など詳細はまだ発表されていないが、カナダが「リスクを無視できる国」に昇格するのはまだまだ先のようだ。

*注)本稿では当初「2010年宮崎県で発生した牛や豚の口蹄疫や現在日本各地で流行している豚流行性下痢では、大量の家畜が殺処分されているが、ヒトには感染しないので、消費者は騒がない。」と記載していましたが、「豚流行性下痢は、都道府県知事への届出伝染病であり殺処分等の措置は行われません」との指摘があり、その部分の記述を削除いたしました。

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